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僕は本心を出したい  作者: 成海千晴
こころとかなで
8/13

お互いの本音 前編

※少し、読みずらいところがあります。


看護師「失礼します。扉開けっ放しですみませんでした。その、面会を希望されている方のお名前は、林、...」


かなで「どうしたんですか?」


看護師「えっと、この方のお名前わかりますか?」


 そういったあと、私に書類を渡し、名前の欄を指さす。


(はやし) 虹心(こころ)


 そう書いてあった。そういえば、キラキラネームだった。忘れてた。


かなで「こころです。私の、親友です。」


看護師「林、こころさん。これでこころって読むんですか、フム。おじさんには読めませんな。この方と、面会しても大丈夫そうですか?」


かなで「あっ、はい。大丈夫です。」


看護師「わかりました。では、少々お待ち下さい。」


 こうなったら、覚悟を決めるしかない。

 看護師さんが少し不器用な笑顔で、砕けた言い方をして言った。


看護師「面会時間は、30分が限界だと思う。話したいことがあるなら本題から入らないとだめだよ。」


 なんだか、見透かされてた気分。私は、こころが来るのを待つだけ。看護師さんは、扉を丁寧に閉めた。

 それにしても、こころはなんでこの病院を知ってるの?わからない。私はいつも、こころに振り回されてばかりだな。ふぅーーーーーー。こころ。こころのためにも、私はちゃんと伝えるから。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ...どうにか、病院にやってきて、りおが気を利かせて買ってきてくれたマスクをした。面会するための書類を書き、無理やり感は否めないが面会できることになった。りおが買ってきてくれた、レジ袋の中にある差し入れを見つめる。だんだんと手汗が出てくるのを感じた。りおは、僕の学校の荷物と一緒に病院の外で待っててもらっている。これは、僕とかなでの話。誰にも邪魔はさせない。でも...僕はまだ、最後の覚悟ができていなかった。

 さっきは、できてると思った。僕は、かなでと、何も問題なく話せると。でも、直前になって、少し恐ろしくなっている。書類を書いている時に、少しは気持ちを整理した。でも、まだできてない。でも、もう時間がない。さっきした覚悟を、どうにか。今の僕のもとに手繰り寄せる、しかない。今から覚悟ができるほど、僕の感情は大人しくない。


看護師「すみません、林さん。こちらへどうぞ。」


 面会の時間がきた。看護師さんに声をかけられた。少し、気まずそうに声をかけられた気がするのは、気のせい...だよね?

 僕の元に来た、あごひげの男性看護師。優し気な雰囲気をしている。僕はとにかく、病院につくまでの覚悟を取り戻すために何も考えずに看護師についていった。そうしたら、唐突に言われた。


看護師「病室では、お静かにお願いします。面会時間は30分なので、30分を超えないようにして下さい。あと、そのレジ袋は病室に持ち込まないでください。見舞い品なら、あとから病院の者から渡します。」


 そんなに、騒ぐようにみえるかな?まあ、忠告もされちゃったから、声量は抑え目にしよう。よし。

 なんだか、忠告されて気が引き締まったおかげで、僕の元に覚悟が引き寄せられて戻ってきた。ありがとう、看護師さん。

 病室の少し前で、看護師さんに見舞い品を渡せと言われた。見舞い品、だめだったのかと思った。とりあえず、素直に渡した。


看護師「ここです。30分すぎてもお帰りになっていなかったら、ここから引きずりだしますので。」


 なんか、怖いよ。表現がさ。僕は、覚悟を離さないために扉の前で1回、大きく深呼吸をした。

 看護師さんは、その間にノックしてかなでに呼び掛けていた。


看護師「では、どうぞ。」


 促されて、そのまま病室の中に入る。今更だけど、個室でよかった。

 目の前には両手が包帯ぐるぐる巻きになっているかなでがいた。表情は、髪の毛で微妙に隠れて見えなかった。


こころ「かなで、、やっほ。」


そう言って、無意識のうちに、手を自分の顔の横まで上げる。かなでの方に近づく。


かなで「うん、やっほ。」


 そのやり取りを見届けて、看護師さんは扉を閉めた。


 なんだか、扉の向こうから物凄く圧を感じた。なんで?まあ、いいや。僕は言いたいことをさっさと言わないといけない。


こころ「かなで、怪我、大丈夫?」


 ...違う。僕はこれが言いたかったんじゃない。確かに、確認するのは重要だけど。これは、建前でしかない。こんなこと聞いても、なにも始まらないのに。覚悟、決めたのに。


かなで「怪我は、大丈夫だよ。それより、私は、こころに...」


 なんだろう、かなでの声が異常に小さい。それに、震えてる。少し静寂な時間が流れた。


こころ「ど...して.....」


 気づいたとき、僕は声に出していた。かなでが、静かに泣いていたから。なんか、その光景に驚いて言うべき言葉がわからなくなった。

 脳内では、たくさんシュミレーションした。病院に来るまでの間。何回もシュミレーションした。でも、そのシュミレーションの中にない、反応をされた。どうしよう。覚悟と僕の脳内シュミレーションをかなでの涙が押し流していく。僕は僕のことしか考えることができなかった。


かなで「...今まで、理由、揉めてた、の、言わなくて、ごめん...なさい。」


 かなでがぽつぽつと、言葉を手繰り寄せるように話し始めた。


かなで「わ、たし、ずっとこころが、いじめ、られてたの、知ってた、の。でも直接、何か、できなかった、自分、の身が一番、だったから、。」


 その言葉を聞いて、返事をしようとした。でも、かなでは続けて言った。かなでは必死に涙をこらえていたけど、堪えきれなかった分がぽろぽろと流れてるのが見えた。僕が見たことないぐらい弱っていた。

 僕は一旦、聞くことに専念しようと思った。僕のシュミレーションの中にあった、言い争いは。かなでがここまで傷ついていると、できない。というか、できるわけ、ないじゃん。なんで、するつもりでいたんだろう。


かなで「でも、ずっど、そのごどが、苦しくで、だんだん、こころが傷ついでるのをみ゙るより、自分が全部、肩代わり、したら゙、じた方が、楽、なんじゃないがなっで、思っで、。」 


 なんで、肩代わり...そんなの、かなでが辛くなるだけじゃ...


かなで「だがら゙!!っ。あ゙だじ、わるぐぢをい゙っでるやづらにっ、い゙っだの、あ゙だじにぜんぶ、い゙え゙っで。そじだら、ぞのあどぼん゙どうに、あ゙だじにい゙うように゙なっで、ごごろに、い゙っでるのをっ。い゙っでるのを、みなぐなっでっ、。ごごろが、もゔひどい゙ごどを、っ、い゙われなぐでずむんだっで、うれじがっだ。でも、でも゙!!っ。やっばり゙っ、ごごろがっ、わるぐい゙わ゙れでるの、づら゙ぐで、まわ゙りと、しょっぢゅうい゙い゙あ゙らぞい゙もしだ。あだじにどっでごごろは、がげがえ゙のない゙っ、だい゙せづな、じんゆゔだがら、かだがわりはかだがわりで、づら゙ぐで、でも゙っ、ごごろには、ぞゔだんでぎなぐでっ、」


 かなでが、息をする間も惜しんで僕に伝える。大切な、親友。かなでが、こんなになるまでする価値のある、人間、。僕は、そんな人間じゃ、ないのに。ねえ。呼吸、ちゃんとしないと、死んじゃうよ。ゆっくり、話して、。と言おうとしたけど、声が出なかった。


かなで「...ぎょうはずごじ、いい゙ずぎだの、ぞじだら、あ゙い゙づが!!っ、ぎゅうに、あ゙だじのみぎゔで、づがんで、ずごい゙、ぢがら、まどに゙向がっで引っばっだっ、どうにが、がらだ、づっごまない゙ように゙ぢかぐのづくえ゙、ひだりでで、づがんだっ、がら゙、だい゙じょゔぶだっだっ、でも、つぎ、りょうっ、ゔで、づがまれで、あ゙だじのゔで!っ、あ゙やづりにんぎょゔみだい゙、ゔごがじで、がだでずづ、すごいぢがらで、まどがらず、むがっでっ、だだぎづげられだっ、お゙もいっぎり゙、まどがらず、わ゙れだ、でい゙ごう、っ、でぎながっだ!!、」


 ...なんで、誰も止めてくれないの。僕が、もうちょっと早くいけてたら、よかった、のに。

 でも、考えるとどこかおかしい。だって、授業のチャイムが鳴った後すぐに、音は聞こえた。休み時間始まって、一瞬でそんなことになるはずがない。だって、だって.....

 ...あ、思い出した。かなでのクラスは5時間目数学だった。数学の守屋先生は、6時間目は出張だって誰かが言ってた。急がないとだめで、早く終わってたってことかな。あの先生は外に出なければ常識の範囲内で何してもいいよっていうから立ち歩きも普通にできる。騒ぐこともできる。先生は教室から出て行く。先生がいない分、少し自由になる。僕らのクラスに聞こえてなかったということは、他のクラスにも聞こえてないから、どこの先生も気づかなかった、。

 わかりたくなかった、事実だな。

 かなでは、少し黙っていた。荒い息を整えていた。でも、その顔は今までで一番苦しそうだった。

 その間に、なにか言葉をかけようと思った。でも、今度は何を言うべきか分からなかった。


かなで「ものすごく、両腕に衝撃がきたの。内側からも、外側からも。初めの方は、まあ。痛かったけど、途中から痛みなんかどうでもよくなって、頭がくらくらしてた。自分がどうなってるのかもよくわからなかった。下半身にはどうにか力を入れて、根性で立ってた。顔は、反射的に笑顔を作り出してた。それで、まわりのされるがままに、教室のドアに向かって歩き始めた。歩くために少し前を見たら。こころが見てた。こんな、みっともないところなんか、見られたくなかった。でも、見られたくないというのも、言いたくなかった。だから、意図的に、いつも通りの顔にした、反射的にしていた笑顔から、」


 少し落ち着いたのか、少し鼻声だけどいつものかなでの声に戻った。少し、さっきからの変化に戸惑った。

 最初からずっと。言ってることは、あったことを全部話していると思うけど、何かおかしい。弱ってる、だけじゃない気がする。何か、我慢してない?そこが気になって、なんだか、話に入り込めない。

 ねえ。


こころ「かなで.....」


 声に、出したつもりはなかった。僕は、呟いていた。その声で、かなではやっと僕と目を合わせた。かなでの瞼は、腫れぼったくみえた。涙は、止まっていた。少し、安心した。

 でも、かなでに言われた。


かなで「ねえ、こころ。そんな顔しないでよ。さっきと同じ、顔しないでよ、私は、その顔がさっきからずっと、ずっと頭から離れないんだよ。」


 僕、どんな顔、してるのかな。右手で、右頬を触ってみる。自分の表情、あまりコントロールできないからわからない。でも、心の中は苦しい。言語化は難しいけど、僕の思った表現でいいから言わないと。僕の覚悟、見せないと。


つづく

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