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僕は本心を出したい  作者: 成海千晴
こころとかなで
7/13

それぞれの決意

 で、かなでの病院に行くっていうのはいいんだけど。

 ...かなでの病院って、どこ?


りお「やっぱり。」


こころ「や、やっぱりってなによ??」


 りおがなんか喋ってる。なんも頭にはいってこない。僕の母みたいな喋り方。わざとまねして喋ってるんかな。りおのことだから。

 あっ、あっ!、


こころ「あ!!」


りお「わっ!!!! なに!?」


 りお、驚きすぎ。なんか、思ってた反応と違う。思ってることわかるなら、分かってたでしょ、。

 ...なんか。喋る気なくなった。よし。たかちゃんに聞きに行こう。


りお「脳内で引き気味に喋らないでよ。僕は、ここでまってるから。」


こころ「いや、コンビニで傘買ってきて。また雨降りそうだから。コンビニ、すぐそこにあるから。」


 言いながら、僕はりおに一万円札を手渡す。財布の中のお札、一万円しか入ってなかった。なんでだろう。


りお「わかった。じゃあ、買ったらここに戻ってくるよ。」


 よし。たかちゃんのところにいこう。あーでも、たかちゃん知らないかもな。でも、職員室の誰かは知ってるはず。


『...コンコン』


こころ「失礼します。2年の林です。たか...じゃなくて。中井先生いますか?」


 聞きながら、職員室を見渡してみる。たかちゃんいなさそう。

 そもそも、先生がぜんぜんいない。校長も教頭もいない。どーなってんだ。そう思ってたら、かなでのクラスの担任、源野舞(げんのまい)先生が後ろから声をかけてくれた。ちなみに、教科は社会。足音で誰か来るのはわかってたから、それほど驚きはしなかった。


先生「あら、ここちゃんじゃない! こんな時間まで学校にいるの初めて見たわ~」


こころ「あ、やっほ~ まいちゃん、たかちゃ...中井先生知らない?」


先生「中井先生なら、もう帰ったわよ? どしたの、提出物とか出し忘れたの?」


 提出物。僕は毎回提出物は早めに出してる、つもり。って、そうじゃなくて。かなでの病院どこって聞きたいんだけど、ど?

 かなでのクラスの担任、ここにいるじゃん。まいちゃんに聞けばいいじゃん!


こころ「提出物は、ちゃんと出してますよ! 別に、中井先生じゃなくて、まいちゃんでもいいことなんだけど...というかまいちゃんの方が適任なんだけど...」


先生「あら、そうなの? じゃあここちゃんは私に何をして欲しいの?」


こころ「あ、するというか、聞きたいだけなんですけど、」


 僕が少し言いずらそうにしていると、まいちゃんは首を傾げた。まいちゃんを見てると、首を傾げただけでも可愛い人っているんだねって思う。可愛いは正義。

 も、そんな可愛いから、ためらってた僕の気持ちはどこかに飛んでいった。


こころ「飯田さん。あ、飯田奏(いいだかなで)さんが救急車で運ばれた病院って、どこですか?」


 なんか、隣のクラスに飯田っていう苗字2人いるんだよね。本当、ややこしいというか、めんどくさいというか。


先生「ここちゃん、かなちゃんに会いに行くの?」


 いつも、可愛い感じのまいちゃんが物凄く真面目に聞いてきた。てっきり、さらっと教えてくれるのかと思ったのに。なにか、問題でもあるのかな。


先生「今、なんでだろって思ったでしょ? そう思うなら、ここちゃんはかなちゃんに会っちゃだめ。」


 だ、だめ??なんでよ。なん、あ。

 そうだよ、僕は。なんでこんな重要なこと忘れてたんだろう。りおが気づかせてくれたこと、今からでも、踏み込めばいいことを。追いかければいいことを。


こころ「まいちゃん、僕は大丈夫だよ。」


 あれ、この返事であってるのか?なんか、だめって言われて、自分で大丈夫っていうのはおかしいな。


先生「ふふ、ここちゃんを見てると面白いわ。幼い子供のように、ころころと表情が変わってて。」


 えぇ、僕そんな風に見られてたのか。あっ、だから僕と喋るときは小さい子と喋るような話し方をしてたのか。なんか納得だわ。...あれ、よく考えたらいろんな人に同じような対応されてないか??

 そんなこと考えてると、まいちゃんがまた真面目に言った。


先生「気づいてるか分からないけど、大丈夫と返事したときのここちゃんは、すごくかっこいい、大人な顔をしてた。そんな顔ができるここちゃんなら、かなちゃんと会っても大丈夫。病院、教えてあげるわね。」


こころ「教えてくれるの!? ありがとう!!」


 病院教えてくれるって聞いた途端、その前に言ってたことが頭からすっ飛んだ。さっきの、かわいいでやられたのとはまた違う感じだった。違いがあるなんて、知らなかった。可愛い人ってすごいな。

 その後、まいちゃんは「ちょっとまってね。」といいながら、荷物の中からスムーズにまっさらな紙とボールペンを取り出して、文字をすらすらと書き始めた。って、はやっ。


先生「ここちゃん、はい。この病院ね。」


 そう言って、書いた紙を渡してくれた。まっさらな紙かとおもってたら、端っこにワンポイントで桃色のデフォルメされたうさぎがカラーで印刷されてあった。かわいい。

 そして、さっき高速で書いたとは思えないほど綺麗に、病院の名前と住所が書かれてあった。


先生「かなちゃんね、腕、手術しないといけないらしくて、一日入院するらしいわ。だから、行き違いにはならないはずよ。頑張ってね!」


 まいちゃんは、まるで友達を応援するかのように僕の背中を押してくれた。物理的に。こんなことされたの初めてだったから、少し困惑した。でも、悪い気はしなかった。だから。

 まいちゃんの方に振り返って、思いのままににっこり笑った。

 まいちゃんは、安心したように手を振ってくれた。僕は手を振り返して、進行方向に体を戻して走った。廊下を走るな、とは言われなかった。


 校門をでて、待ち合わせ場所に向かう。ちょっと疲れたから早歩きでいったら、りおが傘をさして待っていた。タオルを首にかけ、僕の分のビニール傘と、かなでのための差し入れを持っていた。無表情すぎて、何考えてるのか全く分からなかった。

 一瞬目が合った時、めっちゃ睨まれた気がしたので超速く走った。


りお「遅い...」


こころ「ごめん、ちゃんと病院の場所は教えてもらったから。」


りお「こんな格好で待たせやがって、何回も何回も声かけられて鬱陶しいのなんの。もう、二度とスカートは履かない。」


 そう言いながら、乱暴にレシートとおつりを返してくる。小銭が少なくて受け取るのが楽だった。なんか、声のトーンは同じだけど、怖い。僕はりおから受け取ったおつりを一瞬でカバンの中に突っ込んだ。そして、待たせたことを謝った。


こころ「それは、すみませんでした。申し訳ありません。考えが安易でした。もうしません。」


 そりゃ、そうだな。そこそこ田舎な町で見たことない美人な人が、一人で道に立ってたら声かけたくなっちゃうよね。タオルで顔を隠してたとしても、スタイル良くてちらっと見える髪の毛がサラツヤだからな...また、土下座した方がいいかな、?

 というか正直、ここまで怒ると思わなかったし、不機嫌になると、こんな怖くなるのかと思ってる。美人が怒ると怖い。


りお「(外でされても困るって。もう、いいから、さっさと病院向かうよ。)」


 無表情、ではなくなった。病院向かうって言ってくれたから、一緒に病院行こっと。今から行ったら、19時頃になるかな。19時頃なら、病院側も大丈夫なはず。面会とか、緩い病院だし。

 そこにいくためのお金はここにある。今日はスマホもってるから、家族のグループLI●Eに連絡しておく。

 さあ、かなで。僕は、かなでにいろいろと言わなければいけない。腹を割って、話そう。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 外が、暗くなり始めてる。夕焼けはきれい。でも、また雨が降りそう。雲が真っ黒くて分厚い。

 私の腕。もう、完全に元には戻らないって。傷跡が残るって、言われた。

 今回は、言い過ぎた。それは分かってる。でも、抑えられなかった。自分から湧き出てくる怒りを。こころが直接言われてた事実を。みんなに、私にだけ言えと言った日から約1年。私が何も見てなかったから言ってないと、伝わってないと思ってたのに。私が甘かった。

 腕の痛さなんか、どうでも良い。私の脳内からは後悔しか出てこない。こころは、私が何回か言い争いをしてたことを知っていた。その時に、「こころ、なにか言われてない?」って言えばよかった。その一言が言えたら、今日こんな風にはならなかった。私自身の気持ちの整理ができていたと思うから。私が...自分を抑えられたと思うから。

 今日見た、こころの、あんな苦しそうな顔が網膜に焼き付いて離れない。残りつづける。ふとした瞬間に、目の前に映し出される。目を開けても、閉じても、見える。

 私は、応急処置をされて、病室に入れられた。1人部屋。誰もいない。無機質な部屋。

 今は手術室を使っていて、すぐ手術することができないと言われた。ここの病院は手術室が1つしかない。処置室でできるほど、軽くないんだって。時間も、かかるんだって。日帰り、できたはずだけど、今日はもう手術できないって言われた。だから、一晩病院で過ごさないとダメ。しばらくは、学校行けないんだって。こころと...会えないんだって。


『コンコン』


 ...今は、驚く元気も返事する気力もない。一応、ドアの方を見る。


看護師「失礼します。」


 引き戸をすーっと開けて、すーっと閉じるのを見ていた。

 少し背の低い、どちらかというと医者に見えるあごひげのおじさん看護師が来た。男性の看護師って、見たことなかったな。

 それにしても、なんか。気まずそうな、少し深刻そうな表情で入ってきた。少なくとも、落ち込んでる人に接する態度ではない気がす。なんだか、病院内が少し騒がしい気がした。


看護師「飯田さん、面会、できますか? 急に受付に押しかけてきて、飯田さんに会わせてくださいっていっている方がおられるんですが...」


 え、そ、それって...


かなで「...その人の名前わかりますか。」


看護師「えっと、少し待っててください。今、面会するための書類を書いてもらっているので。それを取ってきます。」


 看護師さんは、扉も閉めずに走って受付まで向かって行った。

 そんなことするのは、知ってる人の中で一人だけ。こころだ。

 ねえ、待って。まだ私は覚悟きまってない。

 まず私は、こころに謝らないといけない。こころが、いじめられてるのに何もできなくてごめんと。こんな大ごとにしてしまってごめんと。隠し事ばかりしててごめんと。

 他にもいろいろ...言わないと、いけないことはある。

 ...さっさと腹をくくろう。元々は私が悪い。わざわざこころは会いに来てくれた。私は、こころときちんと話さないといけない。時間は、待ってくれない。私は恐れてはいけない。ちゃんと、向き合うんだ。


つづく

3/28 加筆・修正しました。

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