るきの回想とこころの夢
るきの杞憂とは裏腹に、かなでは言った。
かなで「なんで。なんでみんなはあたしの大切なこころにひどい悪口を言うの? なんであたしに言わずにこころに直接言うの?」
先ほどの考えを忘れ、予想と違ったことにほっとした。そしてそれを塗り替えていくかなでが言った文。そっか、トーンが低くなったのは物凄く悲しいからか。大事な人が悪口を言われて苦しいから。それがごちゃ混ぜになって、態度に現れてたのか。すぐ気づかなかった自分の鈍感さが嫌になる。
でも、問題があった。
この時、僕はまだこころのことを知らなかった。
僕は、その人のことを知らないと、アドバイスするのが極端に難しくなる。共感もできなくなる。だから、なんて言えばいいのかさっぱりわからなかった。でも、わからないなりにも、きっと、アドバイスはできるはずだ。と、頭をフル回転させて、苦し紛れにこう答えた。
るき「.......ぼ、僕には林さんが良いのか悪いのかはわからない。でも、もしも林さんの悪口をかなでに言うのは。それは....良くないんじゃないかな?」
かなで「...........」
沈黙が、少し恐ろしい。
るき「林さんは、かなでに何か相談してきた?」
かなで「何もないの。だから余計に嫌なの!....辛いの。」
るき「....僕は、林さんが何も言わないなら大丈夫だと思う。」
かなで「るき.....」
るき「これで答えになった?」
かなで「信じられない。」
被せ気味に言われた。それは、かなでの地雷を踏んだことを表す。
でも、なにを思ったか、僕はそのまま言い続けた。ある意味、昔よりビビりがマシになっている証拠かもしれない。でもここでは良くない進歩なのは間違いない。
るき「なんで? だって、何かあるなら相談す」
かなで「黙って。」
今度は最後まで言わせてくれなかった。また、声のトーンが下がった。全身が凍りついた。もう、恐怖で瞬きすらできなくなるかと思った。
でも、絶対怒っていると思ったのに。かなでは何もなかったような顔で、いつも通りの笑顔を僕に向けて、こころのことを話してくれた。
かなで「こころは、気づいてないんだよ。」
るき「...え!?」
かなで「ほんと、信じられないよね、」
と言いながら苦笑いするかなで。そこから、苦しそうな顔で言う。
かなで「でも、なんも感じてないはずないじゃん。あいつは、ピュアで、どこまでも純粋で、でもどこか腹黒いところがある、そんな、いいやつなんだよ。」
同じクラスになった今なら、言っていたことがわかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今、かなではきっと.....いいや。僕の想像とは比べ物にならないほど大きく膨らんでいる感情が爆発して、この事件になっていると思う。かなでの苦しみを少しでもマシにするにはきっと、こころが支えるしかない。
こころ、がんばれ。僕たちのかなでに何かできるのは、こころしか....!
班員はただでさえ話しにくい雰囲気の中、どうにかこころにレポートをしてもらおうとしていた。
班員1「あ、あの、林さん?」
こころ「.....な、に?」
班員1「この部分のレポートお願いしてもいい?」
班員2「私のところが良ければ譲るよ?」
班員3「あんたもうやってるでしょ笑」
こころ「.....あの。迷惑かけてごめ、なさい、する。」
ああ、やっぱり何もする気にならない。無理。かなでのあんな顔見ちゃったら。班の人に迷惑がかかるのはわかるけどさ、僕はかなでの方が大事だからさ。
はぁぁぁぁぁ......
気を抜くとため息が出る。ため息からは後悔しか出てこない。
あの時に、もっとかなでが楽になるような一言をかけれたら....違う。それはただの自己満。そんなこと、かなでは喜ばない。
僕はわからない。かなではなんであんなことになったか。
いつもは、あんな風にならない。なったことはない。でも、しょっちゅう言い争いをしていた。原因は聞いても適当にはぐらかされた。何回も何回も。
でも、今日はいつもと違った。かなでがあんなになるまで行動を起こしたのはなんで....?
.....僕にはわからない。考え、られない、あ、レポー、ト、と、りあえ、ズや、らないト、ヤラナイト、 ヤ、ラナ_______
れお「こころ、おーい、聞いてるか?」
こころ「.........」
りく「完全に意識がお空だな。こうなるとどっか連れて行くしかないな。」
るき「じゃあ、保健室連れていこっか。もう帰る時間だけど。」
れお「おう、じゃありくとるきで運んどいて。俺、先生に言ってくる。」
こころは放心状態で意識なく、椅子に座っていた。
れおが行った後、彼らは少し考えた。運び方を考えた結果、るきがお姫様抱っこをし、りくが全ての荷物を運ぶことになった。
...流石に、それを見られるのはまずいので、人気がある程度なくなってからにすることにした。今日は部活が休みなので、みんなさっさと帰っていった。
るき「みんなさっさと教室からいなくなってくれてよかった。こころ、全然動かないな。人形みたい。」
りく「まさか放課後まで動かないとは...今日、掃除なくてよかったな。てか置き勉駄目とかふざけんなよ、重いんだよ。」
るき「掃除ないのは本当によかった。こころを無理に動かさなくて済んだ。」
りく「言い方、るきってたまにそうだよな。ま、俺は気にしないけど。」
るき「??」
りく「なんもわかってないだろ。もう、いいから早く行こうぜ。」
るき「そうだね。これを見られるのはまずいもんね。」
りく「この方法言い出したのはお前だろ。先に行くからな。」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「_____、_____」
.....ん? だれ.......
「_を__て、_こ___」
....? なんか、よく聞こえない........
「目を開けて、こころさん。」
...........!?
??「あ、ようやく起きましたね、ようこそ。」
な。なななななに????
見たことないくらい鮮やかな景色....それに目の前の美少女、いや、美少年?
??「先に、名前を言おうかな。僕はりお。君の手伝いをしにきた。」
こころ「り、お? あなた、僕の知っている人?」
りお「ううん、直接は知らないかな。」
こころ「直接は?」
りお「うん、僕が一方的に知ってるだけ。でもね、ここにきているのは絶対に意味があるんだ。僕は僕を見た人の運命が変わるから。」
こころ「運命が、変わる.......?」
りお「うん。そうだよ。」
運命が変わる、僕の。これは、僕が特別な人になれるっていうことかな。これは、やっと。やっとやっとやっとやっとやっと。平穏な日常に光が差し込んだのかな。ん、でもなんか忘れてるような気がする。
でも、食い気味に聞くしかないな!
こころ「どんな風に運命が変わるかわかったりする? これは、僕が特別になれるってこと? 君を見た人ってことは、べつに話さなくても大丈夫だったりするの? 僕が知ってる人に、君を見たことあったり話したりした人はいる?」
りお「お、急に饒舌だね笑 知ってるけどさ。気になりそうなことは答えれる範囲で答えるよ。」
「まず君にとって重要そうなことから言うね。」と、りおは言った。
1つ、どんな風に運命が変わるかは、僕にはわからない。
2つ、君が知ってる人は一人だけ話したことがあるよ。誰かは言えない。でも最近っていうのだけは言える。
3つ、ここは夢の世界のようなものだから、この記憶は潜在意識にしか残らない。だがらこころさん自身も、この体験をはっきり覚えていられないはずだから、何かない限り、今の記憶は思い出すこともないと思う。
4つ、ここの世界に入る前にあった現実世界の約6時間の記憶はすっぽり抜けてしまっていること。その代わり、その約6時間以外の記憶を思い出そうと思えばはっきりと思い出すことができる。
5つ、ここに時間はない。だけど、ここを出るとなったタイミングに現実世界の波長が合った時間帯に意識が飛ばされるようになっているから、実質「ここにきた瞬間」の「現実世界の時間ぴったりに戻ること」は不可能。
りお「まず知りたいことはわかった?」
つづく
3/18 一部、加筆・修正しました。