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契約……をさせられた!

主人公や人々の服装は自由に妄想してください

機械よりも魔術で九割くらい何でもできるくらい技術が発展したある時代では、精霊と契約するという目的で戦い続ける猛者が多数存在していたという。

炎、水、植物、大地、多様な精霊たちはいつでも猛者の挑戦を受け、わりとあっさり負けてどこかに去ってしまうため、実は精霊へ初めて挑戦した人物が現れてから既に二百年経った今も契約したという人物はゼロだ。

精霊は何故契約してくれないか教えてくれないため戦う者達はどこまでも強くなり続け、何度でも精霊に挑み続け、幾度となく契約を断られ続けている。

戦闘は断らないけど契約は断る、そんな気ままに振り回される猛者に呆れる者は少なからずいるが、それでも契約したい理由が彼らにはもちろんある。


「一流の魔術師になるためだ……!精霊の力もあれば、必ずなれるはず!」

「やべえくらい魔力高い精霊に何度も勝ってきた時点でもう一流に近いんだよなあ……。つーか物理で勝てるなら魔術師じゃなくて剣士なれよお前さあ……」


物理攻撃で精霊に勝ち続けてきたという、銀の鎧を身に着けた男性が友人に言われた通りもう一流に近いのかもしれないし、そもそも物理攻撃で戦えるならそれでもう事足りているだろうから。

魔力を持たない人間の友人に呆れられる魔術師の男性だが、彼を含めた魔術師にとってそれではダメなのだ、何よりも大事なものは精霊のもつ高い魔力を得ることなのだから。


「いいですか、高い魔力を持つことが一流の第一歩です。精霊と契約することで桁違いの魔力を求める者は多いですが、魔力は自力で高めてゆくものです。契約を目指すことが悪いこととは言いません、しかし日々の特訓を大事にすることを忘れてなりませんよ!」


畜産が中心の街ミーマの学校でこう教えている通り、魔術師を名乗るうえで大事なことは魔力の量だ。

誰もが憧れる一流魔術師は多彩な高等魔術を使いこなす存在で、誰にでもなるチャンスはあるがそのためにはまず高い魔力を持たねばならない。

この時代では高等魔術が使えるとか多彩な属性の魔術が使えるとかそういった要素は後回しで、若いうちはとにかく魔力を高めることが重視されている。

つまり、いくら魔術がヘタであろうと魔力さえ多ければ一流のスタートラインに立てて、反対にどれだけ魔術が上手でも魔力が少なければ一流になることは難しいと言われるのだ。


「そうそう、皆さん野菜は食べていますか?肉類は育て方によって魔力の量は変わりますが、植物は基本量に変動が起こらないのです!よって野菜は定期的に食べないとなりませんよ!忘れずに食べましょう!」

「はーい」

「では本日の講義はここまで!寄り道せず帰るのですよ!」

(そういう先生こそ野菜を食べるべきなんだけどねー)


先生すら野菜を食べていないこのクラスに所属しているハルラ・コーネルはそんなことを思いつつ、テキトーに黄色いリボンで縛っている新緑色の長い髪を指でくるくるしていた。

今年13になるこの子はクラスの数少ない女子生徒で、綺麗な黄色い瞳とすらっと細い体が特徴。

その見た目に反してかなりの肉食で、同時に驚くほどの野菜嫌いであり、彼女は生まれてから片手で数えられる程度しか野菜を食べておらず、ここ数年間口にしていない。

そんな彼女の魔力量は下から十番目くらい、つまり圧倒的に低い部類だけど、いずれ高まると思っているちょっとお気楽な性格だ。


では魔力を高めるには何をすればいいのだろうか。

まず、魔力とはその魔術師のパワーを示す重要な要素で、マナという単位で量られるこれが高ければなんでもヨシ!という考え方が全世界共通の認識になっている。

これを高めるための手法は口伝えから本まで色々な形で伝わっており、禁じられているものもないから各々自由に試して自分に合った方法を見つけて行ってよいことになっている。

瞑想、運動、食事、信仰、協力、どんな物事にも魔力を高める効果があるとされ、それら手段の一つに誰もが追い求める「精霊との契約」があるわけだ。


「さーてセンセー帰ったし、精霊様でも探しに行くかなー!」

「今禁止されたばっかりだろ!?ただのバカって言われるからやめとけって!」

「でもさあ、精霊様と契約できたら一流になれるも同然でしょ?探さない理由は無し!水のディネン様を探しに行く人集まれ!」

「植物のフェリーチェ様探すヤツ来い!」

「炎のバーン様探しに行きましょー!」


やっぱり楽そうだからって精霊探しする人の方が圧倒的に多いわけなのだけど。

たしかに子供が戦って勝てるほど精霊は弱いらしいが、だからといって勝っても契約をしてくれないことはわかっているはずなのに。

ただ、先生から野菜を食えと言われている通り、この街は野菜を食べる人の割合が異常なほど低い。

畜産の関係か肉や牛乳などの加工製品を食べていることがほとんどのため、野菜嫌いということが実は珍しいことでもないというか、野菜が食べられるだけでべた褒めされるほど菜食者が少なすぎる。

よって、野菜をもりもり食べるくらいなら精霊と契約して一流のスタートラインに立つ方が圧倒的に楽だね、という考え方が子供達にも浸透してしまっているのだ……。

ちなみに肉より野菜を食べる方が魔力を増やしやすいし、肉と野菜をバランスよく食べるともっと魔力が増えやすいという。


「ハルラも来いよー!」

「めんどいからいいー」


友人に誘われたが、ハルラは面倒だからという建前で行かない。

一流の魔術師であり一流の剣術師でもある父の教えに倣ったトレーニングをしていればいずれ高い魔力を持てると信じているので、わざわざ精霊を探す必要がないからね。

たしかに精霊と契約できて膨大な魔力を得られたならいい事沢山だしすぐに一流を目指せるようになれるけど、ハルラの父親は自分の力だけで剣術をマスターしてきたし、その背中を見習っていきたいという気持ちに嘘はつけない。


「……さあて、今日も眠らないよう気を付けなくちゃ」


今日も精霊探しに出かけるクラスメイトを見送った後、ハルラはこっそりと森の奥へ向かい、そこで秘密のトレーニングの一つである瞑想の姿勢をとる。

父親に教わった方法で、心頭滅却することで地から魔力を得られる……とかなんとか、何か難しいことを言っていた。

よくわかっていないハルラだけど、瞑想は高い集中力を求められるため魔術を使う上でとても大切な冷静さが鍛えられることはわかっているから、集中できる環境として森の奥をよく利用している。


「……」


冷たい苔生した石の上で瞑想を始めてからわずか三分後……ハルラは心頭滅却するどころか、ずっと苛々していた。

だって誰かがずっと傍でそわそわ動いていて、わざとらしく体をくすぐってきたり耳に息を吹きかけてきたり、露骨に瞑想を妨害してきているから。

普段からここを使っていることを知っているクラスメイトや大人はいないから来るなんて考えられない、じゃあ誰がこんなことをしているのだろう。

ハルラはずっとそれが疑問で、瞑想なのに集中できないまま目を瞑っているだけになっている。


「あらまあ~?なかなか起きないものですね~」


隣にいますよアピールまでして、一体声の主は何がしたいのだろうか?

さすがにしつこくなってきたのでハルラは注意しようと目を開けたら、綺麗な新緑色の瞳とバッチリ目が合う。

蔦でできた冠と大きな葉で出来た羽をもつ人の姿をした女性に見覚えがあるハルラは、驚いて注意しようとしていたことを忘れてしまった。


「あら~やっと起きましたの~」

「え……えええ、え……!?ま、まさか、植物の精霊様!?」

「うふふ~おはようですね~」


さっきから瞑想を邪魔しにきていたのは、特に契約したがる人が多いと聞いたことがある、植物の精霊フェリーチェだった。

たぶん寝ていると勘違いされただけと思われるが、なぜ彼女はわざわざこんなことをしに来たのだろう?

それについて思い切って聞いてみたら、予想外の返答があった。


「マナを感じて来てみたら、どうやら貴女も魔術師の子供みたいですね~?どうです~?わたしと一つ、勝負してみませんか~?ここ最近誰も来なくて退屈していたんですよねえ~」


勝負だった。

精霊は人間から申し込まれた勝負は受ける性格の通り勝負することが大好きで、必ず相手に『ある条件を満たしたならば契約する』という約束も提示している。

だがこの条件が何なのかわからないため未だに契約者はおらず、フェリーチェの言っていることが正しければ彼女に挑もうとする人間が減ってきているため暇になってしまったのだろう。

……有り体に言えば「暇つぶし」か。


「しょ、勝負ですか……!?で、でも私なんかが精霊様と勝負だなんて!」

「誰でも構わないのですよ~。言い方はよろしくないですけれど~、退屈しのぎになるならばよいのです~」


うふふと微笑んでいるフェリーチェを前にして、ハルラは何と返すべきかわからなくてちょっと待ってほしかった。

でもそう伝えるより先に、


「黙っているということは、『はい』ということですね~?では早速始めましょう~!」


フェリーチェが両腕を高く掲げればどこからともなく太い蔦が多数伸び、二人がいる場所を中心に半径十メートルほどの円形の空間が作られた。

ハルラは逃げられないと悟り、勝てるわけがないと思いつつも腰に差していた昔の父が使用していた古い短剣を抜く。


「うふふ~、やる気満々ですね~!」

(精霊様は大変強いとお父さんに聞いているし勝てるわけないけれど……それでも、やれるところまでやってみるしかない……!これでも魔術より剣の方が得意だし、フェリーチェ様の魔術よりも先に行動できれば、勝機はあるはず!私だって、お父さんのように勝てるようじゃないと!)


ハルラは父親を尊敬している短剣使いであり、魔力を高めることよりも剣術の方が得意な人物だ。

だから、たとえ強大な魔力をもつ精霊相手でも十分な立ち回りはできるはず……と、この時までは思っていた。

精霊の強さは子供でも勝てるという話は事実なのだけど、それは精霊の使う魔術に対抗する術があるならばという前提がある。

もちろん精霊探しをしている子供達はそういった方法について知り尽くしているのだけど、精霊探しに加わったこともないしそんなこと何も知らないハルラが果たしてフェリーチェの扱う魔術に対抗できるのだろうか?


「プランツぐるぐる巻きの術~!」


まあそんな事ないよね……戦闘開始から五秒も経たないうちに、ハルラは太い蔦で全身をあっさりとぐるぐる巻きにされてしまった。

蔦に巻かれてしまっては得意の剣術も使えない、これではただの的だ。

なんとか抜け出そうともがいてみるが動くこともできない。


「おやおや~?もしかして、抜け出せないのですかね~?でしたら、勝負をつけてしまいましょうか~」


近くの地面から赤い花が咲き、ハルラの頭に帽子の如く被さると、フェリーチェはトドメを刺す。


「フラワリーな元気バキュームの術~!」

「ふ、ふえええ……?」


花がきゅっと締まって頭を吸う度、ハルラの体からどんどん力が抜けていく。

精霊は人命を奪うような真似はせず、相手を無力化することに重きを置く性格であるため、フェリーチェの場合は相手の元気を吸い取る形で無力化することをトドメとしている。

さっきまで抜け出すことに必死だったハルラは、たっぷり元気を吸い尽くされた結果ぐったりとして動けなくなってしまうが、全身が重たく感じるほど疲れ果ててしまっているだけで。

蔦が解けると手から短剣は滑り落ち、体はフェリーチェのふわふわ柔らかい服と腕でやさしく抱き止められる。


「うふふ、わたしの勝ちですね~」

「うう……」

「ふふっ、わたし、貴女のこと気に入っちゃいました~。さっそくわたしと“契約”しましょう~」

(けい……やく?)


疲れて頭が働かないハルラは契約の意味を考えようとしたが全くわからず、地面から咲いた大きな花の中にフェリーチェと一緒に包まれてしまう。

フェリーチェが何かしらの魔術らしい言葉を唱えると、ハルラの体は淡い黄色の光に包まれ、同時にフェリーチェの体へゆっくりと沈み始めた。


「ゆっくり、わたしに全部委ねてしまってくださいね~……」


優しく微笑む彼女の顔を最後にハルラは意識が消え、気が付けば瞑想をしていたあの石の上で仰向けになっていた。

その左腕には植物や花を模したレリーフが彫られている黄緑色の腕輪が嵌められている。


「あれ、精霊様……?……瞑想しようとして眠っちゃったのかな……?」


もう夕刻だから一連の出来事は夢だと思って森を抜け家に帰ってきたら、ちょうど父親のヤイバ・コーネルが荷物を持って出ようとしているところだった。


「ハルラ。お帰り、今日の学校はどうだった」

「野菜を食べなさい、精霊様と契約はしないで頑張れ、って言われたー」

「ははは、いつもと変わらなかったか。しかし大人が子供に契約を勧めない理由はきちんとあるから口酸っぱく言っているんだ、ハルラは私のように精霊探しで家を空けるような魔術師になってはならないぞ」

「お父さんは剣術師なんだからそれでいいんじゃないの?マナは少ないけど剣の腕は右に立つ者がいないって噂だもん」

「剣術師は魔術師よりも弱いと言われる役職だから、魔術師並に稼げないのさ。今こうして食っていけていることが奇跡に近い。剣術師になるくらいなら魔術師になれ、と他の家や町、国では言われているそうだからね。だからより稼ぐためには魔力が必要、よって精霊探しが良い、なかなか悲しいものだ」


魔力以外の面は重視されないこともあり、魔術師以外の戦闘能力をもつ役職は魔力に劣るとまでよく言われている。

ヤイバのように極められたなら稼げるとはいえその辺の魔術師と同じくらいで、一流魔術師と比べたら圧倒的に少ないから。


さて、父親が精霊探しに向かったためハルラは一人で夕食を摂ることになり、料理が置かれた食卓に着いた。

今日も肉尽くしのメニュー、いや野菜嫌いだからか野菜は全部別の皿に取り分けられている。

彼女の皿に載っているものは流石肉食女子というべきか、流石野菜嫌いと言うべきか、全てお肉だけだ。


「いただきます」


肉食女子として残すことは許されない、その心意気で両手を合わせてからいつも通りお肉を口にした時だった。

肉片が舌に触れた瞬間、突然全身を震えが襲い、重たい風邪と比較にならないほどに強烈な吐き気を催した。

耐えられずに思わず肉を吐き出す、と同時に喉元へ違和感が襲ってきたと思えば、


「ゴフッ!?」


派手にせき込んだと同時に、ビチャッと生温かい液体が手に付着する。

それを見たハルラは言葉を失いかけた。


「……へ……?な、何……これ……!?」


口元を覆うためテーブルへ避難させていたフォークの上へ、彼女の震える右手から真っ赤な血が垂れた。


次回投稿は来年中にします

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