屋内へ
「うん。ドアが『ここを開けて』って言った気がしたんだ。ドアがっていうか、ドアのほうから聞こえたというか…」
「私は何もきこえなかったよ?」
「おれも」
ぼくだけに聞こえた声。
鍵がかかっていたはずなのに、鍵も使わずに開いたドア。
ぼくはまだドアノブを握ったままだったのに気がついて、ノブから手をはなした。
おそるおそる玄関から中をのぞいてみる。
ドアの内側は、玄関から奥へとのびていくうす暗い廊下と、両側に二つずつのドア、そしてつきあたりに引き戸という光景だった。
「なあ…中、どうなってるか見てみたくならね?」
アキラがぽつりと言った。
「え?だめだよ、そんなことしちゃ。だってだれのかわからない、ひとの家だよ。勝手に入ったらいけないと思うよ」
「でもさ。オサムがドアさわったら開いただろ?それって、中に入っていいよって言ってると思わね?」
「だれが言うの?」
「え?家が?」
「そんなこと、あるわけないよ。だって『家』って建物だし…生き物じゃないし」
「私も、入ってみたらどうだろう?と思うんだけど」
じっとだまったまま、ぼくらの会話を聞いて考えこんでいたサオリが言った。
「家がなにか言ったとか考えた、みたいなことがあるかはわからないけれど。オサム君がさわったらドアが開いたっていうことには、なにか意味があるのかもしれない。それがなにかは、中に入らないときっとわからないことで。それを知らないまま帰ったら、きっとあとで、後悔することになるかもしれない、そんな気がする」
いつもまじめで慎重なサオリがそんなことを言ったことに、ぼくはびっくりした。
そして、サオリが言ったように『なぜ』僕がさわったらドアがひらいたのかの、意味を知りたいと思った。
「わかった…ぼくもなぜ急にドアが開いたのか知りたいし。中に入ってみるよ」
「よっしゃ~。探検再開~」
アキラは嬉々として玄関の内側へと入っていく。
ひとの家に勝手に入るというものすごい罪悪感と、なぜぼくが触ったらドアがあいたかの理由を知りたいという少しの好奇心にはさまれたまま、ぼくも玄関に足をふみいれた。
サオリは玄関にはいるまえにちょっとしゃがんで、すぐに立ち上がった。
そしてぼくの後から玄関に入って、ま玄関の扉をとじた。
「なんで、扉をとじるの?」
「だって、空家ってわかっている家の扉が開きっぱなしだと、変に思われるでしょう?」
「それはそうだけど」
「あ!サオリ、ドア閉めるなよ。また鍵がかかって出られなくなったら、どうするんだよ」
「大丈夫よ。オサム君がいるから開くはずだし…というか、鍵はかからないようにしてあるから。さあ、入るわよ。おじゃましま~す」
「おじゃましま~す」
「おじゃましま~す」
ぼくたちは靴をぬいで、家の中にはいった。
ぼくたちがぬぎすてた靴を、サオリがちゃんとそろえてくれる。
「あ、ありがとう」
続