作戦開始
「じゃあさ、何して遊ぶ?」
ぼくが聞くとアキラは、にまっと意味ありげな笑いをうかべた顔で、ぼくに小さな声で返した。
「決まってるだろ?例のとこ、行ってみようよ」
「え…?今から?」
「今からだよ。一緒に遊べるチャンスが少ないんだから、やれる時にやっとかないとさ」
「それはそうだけど…。まあいいか。行こう!」
「やった!じゃあ三丁目まで競争だ!」
アキラはよっぽど楽しみにしていたらしく、そう言うととたんに走りだした。
「あ、待ってよ」
話は聞いていても、その家の場所を知らないぼくは、置いていかれないようにあわててアキラの後を追って走った。
『例の空き家』は三丁目の外れの方、川の近くにあった。
ぼくは、初めて来た場所にちょっと緊張しながら、アキラの隣に立って家を見た。
ブロック塀で囲われたその家は、門のすぐそばから雑草がびっしりと生えていて、誰か住んでるようには見えなかった。
ぼくとアキラは、門のかげに隠れるようにして、首だけ伸ばして中を覗き込んだ。
「…だれもいないみたいだな」
「というかだれも住んでないんじゃないの?こんなに草ばっかりだし、誰かが通ったようなあともないし」
「じゃあ、よけいにラッキーじゃん。探検しに入ったら実はだれか住んでて、そのだれかから『こらー!』って怒られる心配がないってことだしさ。」
「そりゃそうかもしれないけど、やっぱり知らない人の家に勝手に入っていくのはだめだよ」
そんなことをこそこそ言い合いながら門のところで押し問答をしていたから、ぼくもアキラも、だれかが後ろに近づいてきたことに少しも気がつかなかった。
「こらっ!あんたたち!!そこでなにをしているの」
とつぜんどなられて、ぼくたちは文字どおりとびあがるほどびっくりして『わあっ』とか『ごめんなさい』とか、そのようなことを口走りながらあわてて、声をかけた相手のほうに向きなおった。
「サオリ…?!」
アキラの間が抜けたような声が、となりできこえた。
そこに立っていたのは、知らないおばさんでもなく、先生とか知ってる大人でもなく、クラスメイトのサオリだった。
「あんたたち、こんなところでなにしてるの?」
「なんもしてねえし」
アキラがこたえる。
「こそこそひとの家の中、のぞきこんでたでしょう?私、ずっと見てたんだから」
「いや、あの、ボールが」
アキラが、目をきょろきょろさせながら口の中でもごもごいうと、サオリがぴしゃりといった。
「うそをつくのはやめたら?ここのどこに、そんなボール遊びができるスペースがあるの?それよりなにより、ここはあんたたちが住んでる町内とは、はなれてるじゃない。ほんとうのことを言わないと、先生に言いつけてやるから。『アキラ君たちは、ひとのいえにどろぼうしに行こうとしてました。』って」
続