ぼくんちのこと
ミホは、ぼくの3つ下の妹で、去年の終わりくらいから喘息がひどくなって入院している。
母さんは毎日会社帰りに、ミホの病院に寄って帰ってくるから、洗濯物の片づけと頼まれた食材を買っておくのが、ぼくの日課になっている。
最初の頃は、面倒なのとスーパーのレジ袋を持って歩くのをクラスメイトに見られて、からかわれるのがなんとなく恥ずかしくてイヤだったけれど、いつのまにか慣れてしまっていた。
そんな毎日を過ごしているうちに一学期が過ぎ、終業式の日になった。
去年と少しも変わらない通信簿を受け取って帰ろうとした時、アキラが声をかけてきた。
「なあ、今日の昼からってヒマある?」
「なんで?」
「いや…だから今日は遊べるか?って」
「今日は…買い物は朝からは頼まれなかったけど、母さんが出かける前に、メモ残してるかもしれないから、帰ってみないとわかんないや」
「そうか…だったら一緒に、お前んちに行っていい?メモとかなかったら、そのまま遊ぼうぜ」
「まあ…いいけど」
アキラと一緒に家に帰り、いつものように玄関の鍵を開けて家の中に入りキッチンへ向かった。
アキラには、玄関の中で待ってもらっていた。
友達なんだけど、親に言ってないのに勝手に家に入れてしまうのは、なんだかいけないことのような気がしたし、だけど外で待ってもらうのは、陽ざしが強くて暑そうだったからだ。
キッチンのテーブルを見たけれど、今日はメモは置かれていなかった。
念のために、冷蔵庫のドアに貼りつけてあるホワイトボードも、電話の隣のメモ帳も見たけれど、そこにも今日は何のメッセージも残されていなかった。
ぼくは玄関のアキラのところに戻った。
アキラは招きいれたところからほとんど動かず、靴箱の上に飾ってあるネコの置物をじっと見ていた。
「可愛いだろ、それ」
「うん。すげー可愛い。最初見た時、本物の猫が寝てるのかと思ったもん。そっと撫でてみたら固かったから、作り物ってわかったけどよ。くできてるよなあ。ホントに可愛い」
「アキラってさ、猫好きなの?」
「猫も犬も。動物はみんなっていうくらい、好きだよ」
「ふうん。そうなんだ。あ、ところでさ、今日はメモ、何もないみたいだったから、あそべるとおもうよ」
「やった!最近なかなか、学校以外で遊べなかったからつまらなかったんだ。じゃあ、早速遊びに行こう」
「うん」
ぼくは、アキラと外に出て玄関に鍵をかけ、ちゃんとかかってるのを確かめて、鍵をなくさないようにベルトのキーホルダーにつけ直してから、アキラと一緒に歩き出した。
続




