表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくの・夏  作者: 奈那美
12/16

電話

「けどさ、ボタンを押すかわりに、この丸いものを回したら電話がかけられるとしても、どうやって会話するんだろう?」

ぼくが言うとサオリが、その黒い『昔の電話』のいちばん高いところについている、平べったくなったヘッドホンみたいな部分を指さした。

「たぶんこれを使うんだと思う。うちの電話も受話器ってこんな形だし。ねえアキラ君、ちょっと回す実験やめてもらえる?」

そういうとサオリは、受話器と思われる部分を持ち上げて、耳にあててみた。

「やっぱり通じてないみたいね。当然といえば当然だけど」

そしてアキラとぼくの耳にも、順番にあててみてくれた。

耳には何の音も聞こえなかった。

 

「ねえ。つながってないということは、かけてもどこにもかからないっていうことだよね」

ぼくが言うと、さおりは

「あたりまえじゃない。これでどこかにつながったら、びっくりよ」

「じゃあさ…ぼくも、アキラみたいに番号回す実験?してみたいんだけど。いい?」

「オサム君が?めずらしいこというわね」

目を丸くするサオリから受話器を受け取る。

そしてぼくは、かけなれた、だけどもうずっとかけていない番号をゆっくりと回してみた。

回し終わっても、もちろん受話器からは何の音もしない。

 

「…やっぱり、かかるわけないよね」

そう言ってぼくは受話器を、もとの位置にもどした、

『ジリリリリリリリ』

戻した途端、急に大きな音が鳴りひびいた。 

ぼくたち三人は、文字通り飛びあがるほどおどろいた。

「え??なに?非常ベル??」

サオリがきょろきょろと見回しながら、言う。

「まさか.火事?」

たしかに、学校の避難訓練の時に聞いた、非常ベルの音に似ていた。

でもちょっと違う。

「これ!この電話がなってるんじゃ?」

アキラが、ぼくが今受話器を戻したばかりの黒い『電話』を指さした。

 

「え?うそでしょ?さっきみんなで聞いたとき、何の音も聞こえなかったじゃない。通じてないはずでしょ?」

サオリが泣きそうな声で言う。

アキラも目を見開いたまま、口をパクパクさせている。

その間もなり続ける音からのがれるために、ぼくは、その場を逃げ出したいのを我慢して、さっき戻したばかりの『受話器』を持ち上げて耳にあてた。

 

「もしもし?」

「オサムか?」

「!!」

受話器から聞こえてきた声は、ずっと聞きたくて、だけどもう二度と聞くことができない…そう思っていた声だった。

 

懐かしい、大好きな声。

 

3年前に死んだ父さんの声だった。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ