部屋を、のぞく
「なあ、どこから見ていく?」
サオリが靴をそろえてくれたことに気づかない、アキラが言う。
「そうね、手前から順番でいいんじゃない?」
サオリの言葉にしたがって、玄関の左側の一番近いドアをアキラがひらいた。
「ここは、トイレね」
ちょっと古いタイプの、しゃがんで座る水洗式のトイレだった。
「じゃあ、となり」
左側の手前から二つ目の扉を、またアキラがあけた。
「ここは、風呂みたいだ」
アキラのうしろからのぞきこむと、たしかにお風呂っぽい。
たたみ一枚分くらいのスペースの左側には洗面台があって、右側には下の部分に空間がある棚が作ってあった。
そして正面のガラス扉をひらくと、灰色っぽい小さなタイルでおおわれた床と白っぽい壁、そして水色の浴槽があって、横の壁にはひねる部分がふたつついた蛇口があった。
「お風呂みたいだけど、うちのとなんかちがうわ。おばあちゃんちのは、こんな感じだったかも」
「ほんとだ…おれんちとも違う。へえ、シャワーってついてないんだ」
「あ、ほんと。シャワーがないお風呂ってあるんだ」
もちろんぼくの家とも違っていた。
洗面器もなにもなかったのを確認して、ぼくたちはお風呂場から出て扉をしめた。
「今度は右側ね」
そういうと、今度はサオリが玄関に近いほうの、ふすまのような板のとびらを横にひいて開けた。
「ふつうに『部屋』ね。何もないけど」
ぼくとアキラも、つづいて部屋の中をのぞきこんだ。
サオリが言ったとおり普通に『部屋』、壁には中くらいの大きさの窓がひとつあって床はたたみで、それ以外は、何もない空間が広がっていた。
「へえ…たたみの部屋なのね。おばあちゃんちでは、見たことあるけど」
「おれんちはひと部屋だけたたみだけど、ここも何もなしか。まあ空家なんだから、あたりまえかもな。でも、せっかく探検してるんだから、何か出てきてほしいよな。オサムも、そう思うだろ?」
「え?う、うん。そうだね」
「じゃあ、次はこのドアね」
また今度も、サオリがドアをスライドさせる。
想像していた通り、この部屋にもなにもなく、床も同じでたたみがしいてあって。
前の部屋と違うのは、部屋の広さと窓の大きさだった。
「次の部屋が最後ね。ね、今度はオサム君が開けてみてよ」
サオリに言われて、ぼくはさっきまでのふたつの部屋の入口は違うタイプの、すりガラスがはめ込まれているような扉の取っ手に手をかけて、おそるおそる横にすべらせて開いた。
続




