三丁目
「三丁目の空き家にはホントに『出る』らしい」
そんなつかみどころがないうわさ話を、ぼくに教えてくれたのは友人のアキラだった。
『出る』というのは、いわゆるユーレイとかお化け?なのだろう。
その部分をいう時に、アキラは思わせぶりに手の甲をぼくに向けて、だらんとたらした『いかにも』のポーズをしてみせた。
「えー?まじ?」
「なんかさ、タケシっているだろ?隣のクラス。あいつの兄ちゃんの、友だちが見たらしいよ」
さらにつかみどころがないというか、信じられるヨーイン(要因と書くのだと後から知った)がない話になってきた。
「で?」
「で?って…そっけないなあ。俺たちもさ、見に行ってみねえ?」
「俺たち?ぼくとアキラで?」
「そうそう」
アキラは遠足かゲーセンにでも行くような、ウキウキした顔をして言った。
「…やだよ。めんどくさいし」
「えー?」
「行くならアキラだけで行ってこいよ。ぼくはパス」
「なんだよ。こんな楽しそうなことないじゃん」
「ぼくはそんなの、楽しそうとは思わないけど」
「ふーん」
アキラは『楽しそうじゃない』というぼくの返事にニヤニヤした顔をしながら、ジーパンのポケットに両手をつっこんで続けた。
「こわいんだ」
「は?」
「出るってきいてビビってるんだろ?」
「ビビってなんかないし」
正直な話、ぼくはオバケとか妖怪とかは信じていなかったし、こわいとも思っていなかった。
今までに実物を見たことがなかったから、というのもあるけれど、そんなものよりもぼくにはもっと苦手なものがあったから、ソレよりもこわいものがあるとは思えなかったのだ。
「わかったよ。一緒に行けばいいんだろう?」
「やったね!なんだかんだ言っても、興味が出てきたんだろ?」
「興味なんかわかないよ。ここで断り続けたら、アキラに『ヘタレ』って言いふらされるからな。それが面倒」
「また言ってら」
アキラは、ぼくの返事をポーズをとってるだけと思ってるみたいだ。
「で、早速だけど、いつ行く?」
「え?今決めるの?」
「そりゃそうだよ。ゼンは急げって言うじゃん」
そのことわざ?みたいなのは、よく聞くけど。
ゼンって?、どんな漢字なのかは後で調べてみよう。
「いつとか…まだ決められないよ。色々予定もあるし」
「お前、別に習い事も塾も行ってないじゃん」
「それはそうだけど…宿題とか家の手伝いとか」
「あ…そうだったな。ミホちゃんだっけ?病気、よくなってるのか?」
「前に比べたらずっといいけど、まだ時々苦しいみたいでさ。母さん心配だって、相変わらずミホにつきっきりだよ」
続