7.Interlude
「……、」
異様に静まりかえった駅前に、聖女を自称する少女は居た。
居候先の家主たる神﨑裕也から鍵を渡されているので、外出自体は自由にできる。裕也は少女の普段の姿を見て積極的に外に出るようなことはないと思っているが、必要だろうと一応渡されていた。
実際の所、裕也が大学で勉学に励んでいる間、少女はしばしばこうして外に出ている。
主に魔法のカード……課金用のプリペイドカードを購入するためだが。
ただし、今日は別件だった。
でなければ、人の多い駅前になど行きはしない。
「……面倒だな」
呟きは、音のない空間に嫌に通った。
時刻は午後一時半。平日の昼間であるため駅前は比較的人の少ない時間帯ではあるが、それでも少女以外に人がいないというのは異質であった。
だが、少女はそれを当然のものとして受け入れている。
なぜなら、この異常を作り出したのが、少女自身だからである。
(本命の隠しが甘い割に、本線の改竄はきっちりしてる。……なんか不自然なんだよね。チグハグというか……、追跡と妨害は別の人間がやったのかな?)
パチン、と少女が指を鳴らす。
すると――一呼吸置いて、ゴム質のものがはち切れるような音が響いた。
糸を切った。
一言で表わせば、それだけのこと。
(でも、思ってたより気づくの早かったな。それなりに慎重に偽装してたんだけど)
『糸』は、裕也の部屋に向かって伸びていた。いつも通り部屋でゴロゴロしていた少女はそれに気づき、『糸』に触れないようにしながら、わざわざ駅までやってきたのである。『糸』を、途中で切るために。
「探った方が良いかな」
踏み込んでこないなら、こちらも手を出す気はなかった。
危険が無ければ、刺激する必要はなかった。
だが、向こうが深く探ろうとするなら――排除する必要がある。
少女の、目的のために。
……別に、誰が不幸になるわけでもない。
ただただ、平和のため。
「……裕也くん」
自称・聖女は祈らない。
少女と彼が、平和を享受できるように――。
自らの手で、全ての障害を取り去ってみせる。
◆ ◆ ◆
「――っ」
「……? どうした」
「んーん? なんでもないよー」
四宮美春はにぱーっと笑って。
「……まず。思った以上に厄介じゃん」
『糸』
例えるなら触覚。
主に捜査、索敵、追跡のために用いられる。術者の指先から伸ばす形式なので、他者に気づかれて辿られると術者がバレる恐れがある。そのため改竄・妨害は必須。
ただしリスクは術者だけでなく、打ち消す側にもある。すなわち「どこでバレたか」。ゆえに、切る場所は選んだ方が良い。大抵その前に術者が気づいて消すが。