次の標的
メイカーは腕を縛られて牢屋の中に入れられた。
「メイカー、流石に服は着ないと私としても君の尊厳が失われる事は避けたいのでな」
牢屋の前でそう言って服をメイカーに渡すメタンは、そう言うと彼女をじっと見つめた。
「……」
メイカーは黙って服を受け取ると、慣れない手つきで服を着始めた。
憂鬱げな表情で服に手をかける姿は絵画として飾れば、それなりに欲しがる金持ちの手合いが出るだろうと思わせる程には、彼女の姿は美しく蠱惑的であった。
「……考えれば分かったであろう、本当にヒトの事を思っていたのならロボット達を暴走させる必要も無かったですあろう」
「……」
メイカーは服を着ると黙って牢屋の中にあるベッドの上に座って、メタンの事を見た。
「……私達は作られた存在、命令されればそれに従うしか無い、そう言う存在」
メタンはその言葉に牢屋の鉄格子を叩いた。
牢屋の鉄格子は物凄い音と共にひしゃげて、少し隙間が開いてしまった。
「相変わらず減らず口を叩くんだな!お前は!なら何故私と話している時は呆れたり色々な表情をするんだ!」
「……私と貴方は違う」
そう言って憂鬱の姫はベットに寝転がってメタンとは別の方向を向いてしまった。
メタンはその様子を苛立った様子でみると、ふと我に返り鉄格子がひしゃげている事に気が付き、無理矢理直そうと引っ張ったりした。
余計に鉄格子がヨレヨレになってしまい、オロオロするメタンの所にハーミュラ達が走ってやって来た。
「何かあったの!?」
先程メタンが鉄格子を叩いた音が彼等に聞こえたのか、彼等は武装をしていたがメタンの慌てる様子を見てホッと安心した様に息を吐いた。
「お前がやったんかい」
「すまない……」
呆れるニードにメタンはションボリとした様子で答えた。
何とも、ロボットがしょんぼりしていてそれにヒトが呆れると言う様子は、とてもシュールであった。
「ま、まぁ、何事も無かったんだから!」
ハーミュラは空気を変える為に手をパンと打った。
「そ、そうね!それじゃあ次の街を決めましょう!」
アイニーもそれに続いて空気を変えようとしたが、それに水を差すものがいた。
「……本を要求します」
「「……えっ?」」
牢屋の中を見るといつの間にかメイカーが起き上がり、鉄格子の前まで歩いて来て椅子に足を組んで座っていた。
丁寧な言葉遣いとは裏腹にあまりにも、横暴な仕草をするメイカーにその場にいる全員目を丸くしたがメタンとニードはすぐに反応した。
「ええ度胸やないけ?あんだけ俺らに手ェ掛けさせといて、まだ手ぇ掛けさせるつもりけ?」
「言い方は少し荒いが、ニードの言う通りだ、今の我々にお前の為に本を用意する為に割けるリソースは無い」
キッパリと言い切ったメタンは冷ややかな目でメイカーを見ると、強化ガラス張りのシャッターを下ろして、ロボット達を二体配置した。
「食事なども必要であろうだから、此奴らに任せれば良かろう……さて、作戦会議と行こうでは無いか?」
と、メタンは少し悲壮感を漂わせながら歩き出した。
「……何かさ」
「うわっ!?」
唐突に横からアイニーに声をかけられたハーミュラは、驚いて小さく飛び跳ねた。
「……何かさ、メタンってメイカーの恋人か夫婦だったのかなぁ」
「えぇ?」
唐突に何を言い出すんだと言わんばかりに目を細めるハーミュラだったが、アイニーはメタンの背中を見ながら続けた。
「あの二人……何か……何かあると思うんだよね、直感だけど」
「直感」
余りにも論理的では無い言葉にハーミュラは、ため息を吐きそうになったが自分の中でもそう思っている部分がある事に気が付き少し頷いた。
「分からなくは無いけど……」
「うん……ごめんね、今はそんな話をしている場合じゃ無かったよね」
アイニーはそう言って儚げに笑うのを見て、ハーミュラは思わず手を伸ばして手を掴んでしまった。
「どうしたの?」
「あ……いや、何でもないよ」
ハーミュラは自分の手を見つめて、暫く呆けているとウェイトが頭の上から手を置いて、クシャクシャと撫でた。
「ボウズ、それは大切にしておけよ」
笑って歩いていくウェイトにハーミュラは首を傾げながらも、少し疼く胸の痛みを大事に目を閉じて仕舞い込んだ。
「さて、これにて各街にヤベェロボット達が配置される事は無くなったが……」
ボロボロになっているペートをニードはチラリと見た。
「聞いてないっすよ!防衛兵器があるなんて!」
「秘匿型の無人操作用の防衛兵器が各街にあるのか……これからは大変になるね」
ペートがそう言って拗ねる様子に、ドゥーは仕方が無いと言ったように首を振ると、
「今の『バ……バロー砲』じゃあヘタをすると装甲を貫けない場合があるね」
その言葉を聞いてウェイトとニードは目を丸くした。
「嘘やん!?アレ理屈じゃあ街の壁面ぶち抜ける弾丸やし砲ちゃうん!?」
「その通りだ……ワシらの中では一番硬い金属は街の壁面だと思っていたのだが」
その言葉にドゥーは残念そうに首を振った。
「構造の違いさ……取り敢えず、装備の更新が必要だよ」
「その点は心配ない、メイカーの炉を回せば最新の物など直ぐに作れるだろう」
メタンは腕を組んで頷いた。
「それじゃあ次はこの街の残りが居ないか、やけど……」
それについてメタンは首を横に振った。
「すでにこの街の住人は全員何処かに送られてしまった様だ」
メタンはそう言うと机の上に街の立体図を浮かび上がらせた。
今回はどうやら近空間は映されない様だった。
「私かおかしいと思ったのはここ」
メタンが指を刺したのは何のためにあるのか分からない、広場と言われる様な空き地だった。
「ここは1日前までは幾つかの移動可能な機械が幾つかの置かれていた様だが、先程確認すると地面に幾つかの焦げ跡が残っていた」
そう言ってメタンは画像を宙に浮かび上がらせた。
その画像には広場のあちこちに焦げ跡が残っていた。
「これは恐らく人を運ぶ為に使った輸送機の後だな、そして焦げ跡と数を数え計算すると……宇宙に送られた可能性が高い」
メタンが言った言葉にドゥーは頷き、
「これはメイカーに送られた命令だね、要約すると『人を収容しこちらに送れ』になるね、そして差出人が『タワー』……」
その『タワー』と言う言葉をハーミュラは思い出した。
青空の更に高い位置に存在すると言う宇宙と呼ばれる空間……
そこに浮かぶ『タワー』と呼ばれる建造物
余りイメージは湧かないが、恐らくとてつもなく巨大であろうと言うことだけは理解できた。
「『タワー』?」
「何やそれ?」
ドゥーより説明を受けていないウェイトやニードは首を捻りながらドゥーを見た。
「宇宙にある要塞と思って貰えたらいいよ」
「「成る程」」
二人はその言葉だけで納得した様に頷くと、メタンが続けた。
「他の街にもう既にメイカーが落ちた事は知れ渡っているだろう、後は時間との勝負だ」
そう言ってメタンはこの世界の全体図を広げた。
「他の街は残り7つ……最低でもあと4つは確保したい」
そう言って各街の名前が浮かび上がって来た。
「農業の街、ハーミュラ達の故郷である『ハーヴェイク』」
その言葉を聞いてハーミュラとアイニーは暗い顔になった。
彼の頭の中には家族がいま無事かどうかがよぎった。
もしかすると……
と、恐ろしい考えが浮かび首を振って忘れようとした。
「豊富な水資源の街、『ウォータル』、多くの鉱石が取れる『メルタルン』、各街の警察的な存在である『アーミアー』、各街の倉庫的な街『トランクル』、学問の街『マナビーキ』、そしてメインブレインを神体とする宗教街『ゴットリージ』」
そして、メタンはその内の四つをピックアップした。
「この中で我らに必要なものと攻め易さを考えて、行くべき場所は『ウォータル』『メルタルン』『ハーヴェイク』この三つは絶対に取らねばなるまい」
その言葉を聞いてハーミュラとアイニーは顔を見合って少し笑った。
やはり、自分の故郷が気になるのだろう。
「そして、最後に取るべき場所は、取り易さで考えれば『ゴットリージ」であろう」
そう言って最後の名前をメタンはピックアップして映し出した。
各名前を見てハーミュラはそれぞれの街を思い浮かべた。
「さて、ここで提案だが人手を二手に分けるのは如何だろうか?」
すると、ドゥーは唐突にそう言ってニヤリと笑った。