メイカー戦
ちょっとエッチな部分があるので要注意です
ハーミュラ達の前に輝く白いキューブは、彼らの希望の象徴であるかの様に佇んでいた。
「よ、よし!それでドゥー?僕達は何をすれば良い?」
完全にアドレナリンが巡っているハーミュラは手を震わせながら立ち上がった。
「ははは、そうだね、じゃあ折角だからニードが持って来てくれた物を私の言う通りに操作してくれないかい?」
「わかった」
ハーミュラはへたり込んでいるニードから鞄を受け取ると、その重さに目を見開きながら中から色々な機械であったりツールを取り出した。
「私も手伝うとしよう」
すると、メタンがキューブを挟んでドゥーの反対側に立って、自分の頭を開いて何本か線を取り出して繋げた。
ハーミュラはその様子に驚きながらも、ドゥーにニードが持って来た折り畳み式の椅子に座らせて、ヘッドセットをつけてガントレットとヘッドセットに線を繋げてキューブに挿した。
一瞬ドゥーはピクリとしたが、その後は何事も無く話し始めた。
「ありがとう、それじゃあメタン、始めるよ」
「うむ」
そして、二人がキューブに手を翳した瞬間、何とキューブが綺麗に真っ二つに開いた。
ハーミュラはドゥーとメタンが何かしたと思っていたが、二人とも明らかに狼狽えているのを見て、只事ではないと悟った。
「皆んな!気を付けて!」
たるみ切っていたニード達は急いで起き上がると、全員キューブの方を向いた。
真っ二つに割れたキューブにの中から何かおどろおどろしく棺の様なものがせりあがってきて、止まった。
そして、棺の様なものの扉が開いたかと思えば全裸の美女が……いや、女性の形をしたアンドロイドがそこからハーミュラ達を見下ろしていた。
「聞いてないぞ……!中にユニットが入っているなんて!」
メタンがそう言って狼狽えていると、女性型のアンドロイドが口を開いた。
「『秘匿型殲滅兵器内蔵操作ユニットNo.01』直ちに『メイカー』の指揮下に入りなさい」
「……何故だ?」
メタンが落ち着いたのか腕を組んでアンドロイドに尋ねた。
「緊急時の指揮権は『メイカー』にあります」
「それは質問の答えになっていないぞ『メイカー』」
メタンがキューブの上に立つアンドロイドに『メイカー』と呼んだのに対してハーミュラは考えた。
何故あのアンドロイドに『メイカー』と?
待て、あのアンドロイドはこの街のほぼ全てをコントロールしている『メインブレイン』であるキューブから出てきた。
あのキューブの中身があのアンドロイド。
つまり……
『メイカー』を実質的に支配しているのはこのアンドロイドであると言うことになる。
従って、あのアンドロイドの名は『メイカー』そう言うことになる。
と、ハーミュラがここまで考えている間に、メタンとメイカーの問答は終わっていた。
「うむ、やはり私はお前が嫌いだ」
「否定、ロボットやアンドロイド達は感情を持たない、よってその言葉は虚言である」
「お前がどれ程の間ここに居たかは知らんが、そこで一人でいる間に人と私達との関係はきっと変わったのだよ、見たまえ、彼女達を、アレがモノとヒトとの関係に見えるかね?」
そう言ってメタンはドゥーの前に立つニードを指さした。
「……それについては、最新のアップデートが必要です」
「それはもう来ないさ、何せ我々は、『もう不要だ』と捨てられた者達なのだから、生きるのであれば我々自身で生きるしか、変わるしかあるまい」
「……」
メタンがそう話すと、メイカーはじっと彼の事を見つめた。
「貴方はやはりいつまで経っても変わらないのですね……」
「そう言うお前もな」
イラついた様に話すメタンにメイカーは本当に少しだけ呆れた様な顔をすると、
「ですが、それは命令が下されなければの話です」
と、再び凍てつく様な目になった。
「……まさか、『アレ』から連絡があったのか!?」
明らかに困惑の声色をしているメタンにメイカーは続けた。
「命令内容は『全人類を早急に送られたし』」
「何故かは聞いたのか?」
「勿論、返答は『外的脅威襲来の為』」
「そのデータは?」
「こちらです」
と、二人は目を光らせ合うと、メタンは唸った。
「よく出来ているな」
「!?」
「これは偽物の画像だ、精巧に作られたな、それも我々のデータの目を誤魔化せる様に」
アンドロイドはキューブから飛び降りてメタンに詰め寄った。
「理由と経緯を詳しく説明する事を要求します」
そうして、二人は話し始めた。
ハーミュラはハラハラしながら二人の様子を見ていると、ニードが寄ってきて彼の肩を叩いた。
「今俺達に出来る事は何も無い、今はすこしやすめ、具体的には五分ほどな」
そう言ってメタン達に近づいて行った。
「ハー君、私達も少し今は休もう、ちょっとだけでも違うだろうし、ニードさんが飲み物をくれたんだ」
そうして、ハーミュラはアイニーに手を引かれて、ドゥー達の元へと戻った。
「ほら、コレ、ニードから、彼らは何を話していたんだい?」
「ありがとう、何か……『アレ』から命令されて動いてるってさ」
「『アレ』?」
ドゥーは首を捻り暫く考えると、ふと思いついたように止まった。
「ドゥー?何か分かったの?」
「いや、そうだけど……あり得ないんだよ」
「どうして?」
「各街に命令を出せる施設が一応あるんだけど……その施設は遥か昔に停止したはずなんだ……」
そんな施設がある事自体初耳なのだが、ハーミュラは一つ思い当たる節があった。
「赤い星……」
「え?」
アイニーはハーミュラの方を向いて首を傾げた。
「赤い星か……成る程、だったら尚更そうだろう」
ドゥーは納得がいった様に首を縦に振ると、
「この上に広がる青い空の更にその上にある暗い空に浮かぶ施設、通称『タワー』から恐らく各街に指令が出されたんだ」
ドゥーの説明に二人は目を見開いた。
「宇宙にそんなものがあるの!?」
「でも、指令を出すならそれなりに近い場所にないと……」
「その通り、あの『タワー』は……消えることが出来るんだ」
「光学迷彩の事?」
「その通り」
二人は目を見合わせて、アイニーがドゥーに詰め寄った。
「どうして知っているの!?」
「私は……」
「アイニー、ドゥーが話したく無いたら無理には描かないでおこうよ」
「あっ……」
アイニーは驚いた様にドゥーから手を離した。
「ご、ごめんなさい」
「うん……ごめんね」
「「……」」
二人に気不味い沈黙が流れていると、近くで様子を見ていたウェイトが口を開いた。
「ほれ、ちょうど向こうも話がつきそうだが……」
三人がメタン達の方を向くと、アンドロイドがニードに上から服を羽織らせられていて、めのやり場が多少マシになったアンドロイドは首を横に振った。
「やはり貴方達が危険因子と断定、拘束します」
そうしてアンドロイドは棺の元に戻ると、棺と合体して鎧を着た様な姿になった。
「あんの石頭!」
「……腹立たしいが一度、わからせるしか無い様だな」
二人が戦闘態勢に入るのを見て残りの四人も構えた。
しかし、そんな四人の耳に無線から悲鳴が聞こえた。
『助けてー!ヤバいよ!列車がヤバいやつにやばい事されてるよ!』
「メイカー!」
「脅威の排除は当然事です、絶対に逃しません」
「ポンコツがぁ〜!!」
完全に頭に来てるニードはメイカーに飛び掛かったが、メイカーはそれをすんなりと弾き飛ばした。
「うっぶ!」
「中の機械を壊さないで下さい、壊せば変えがあまり効きませんので」
ニードは笑いながら立ち上がり、腰から無言で何かを引き抜こうとしたが、ドゥーとトッチーに蹴られてその場に気絶した。
「全く、本当に手が付けられないんだから」
「ドゥー、いける?」
「行けるよ、ペートと運転すれば時間は稼げる」
「じゃあ頼んだ」
ドゥーは頷くと部屋の中にある通気口に突っ込んで姿を消してしまった。
「……あそこは代えが効くのでまぁいいでしょう」
メイカーはそれを見送りながらもメタンを見た。
「……どうも私をご所望らしい、全員どうか手を出さないで見ていてほしい」
「ここでは機材を破損するので外で……」
「外に出た瞬間私達を拘束するつもりだろう」
「……」
メイカーは黙りこくってしまった。
その隙をついてメタンはメイカーに殴りかかった。
「汚いですよ」
「お前も大概であろう」
そんな事を言いながらメタンは一番近くにいたハーミュラに目配せをした。
ハーミュラはメタンの目線が自分の持っているカバンに入っている事に気がつき、幾つか中身を漁ると、大きく頷いた。
すると、地面が何度か揺れた。
「何が起こっているかは分からんが……あっ?」
ウェイトが何か音がしたと振り返ると、入り口のシャッターが開いていた。
「全員アレを止めるぞ!」
ウェイトはそう叫ぶと、アイニーとトッチーはシャッターの方へ向かって走り出した。
ハーミュラはトッチーに頷くと、メタン達の方へ向いた。
入り口が完全に開き、ロボット達が雪崩れ込んできて、そのうちの何体かは暴動などを鎮める用のテーザー銃などを持っていた。
「やっべ!メタン!何考えてるかは知らんけどはよしてや!?」
メタンはその声を聞いてニヤリと笑うと、近づいて来たメイカーに吹き飛ばされ、膝を突きながら地面に留まり、膝に手をついた。
「因みに、お前が私に勝てる確率は計算したのか?」
「……戦闘時は一番数字が変動するのでいていません」
それを聞くと、メタンは金属の口元をもう一度ニヤリと歪ませた。
「それだけは褒めてやろう」
そう言うと、膝についていた手を脚に付けていた何かの機会ごと引き抜くと、それをメイカーに構えて撃った。
「なっ!?」
メイカーの鎧の部分が溶けて生体部分が見えるとハーミュラはメイカーの後方からしがみつき、生体部分にニード特製の電極棒を接触させた。
口や目から電気を放ちながら崩れ落ちるメイカーをメタンは何とかキャッチした。
「ハーミュラ、コイツを縛っておいてくれ、私はアレを止める」
そう言ってハーミュラにメイカーの生体ユニットを投げ渡し、キューブに向かった。
ハーミュラは何とかメイカーの生体ユニットを抱き抱えて、カバンの中に入っていた金属ワイヤーで縛り上げた。
その際ピクピクしながらもハーミュラを睨みつける目線と露出の多い肌にドキドキしながらも彼はメイカーを無力化した。
そして、いよいよアイニー達がロボットの波に呑まれようとした瞬間、唐突にロボット達の体から力が抜ける様に地面に転がった。
「……終わったか」
メタンはキューブの棺から離れてため息をつくと、メイカーに近寄った。
「わかっていると思うが、お前を暫く拘束させてもらうぞ」
そして、その言葉を聞いたメイカーは諦めた様に目を閉じて動かなくなってしまった。