侵入
ハーミュラ達はメタンの後について、広い通路を見回しながら歩いていた。
「上の通路に出るのは良いが、先ずは私のこの体をどうにかしないといけないのでな、私の作業場に寄らせてもらう」
メタンは足を引きずりながらもハーミュラ達と歩くスピードは同じで、特に無理をしている様な様子では無かった。
「メタン、ちょっと早く無いかい?」
「おや……いかんな、やはり落ち着いている様にしても気持ちは昂ると言うものか」
寧ろ早い程で、生身のハーミュラやウェイトは少し息を上げていた。
メタンは少し歩く速度を落とすと、再び話し始めた。
「しかし、ほぼ全ユニットが暴走か……信じられんな……ん、そうか、今し方『自動迎撃壁型……』、分かった、ペートから連絡を貰った、お前達の名前と見た目は登録した……して、ドゥーよお前はこの状況をどう見る?」
メタンは振り向く事なく、何の狙いがあってかドゥーに向かってそう言った。
「……一つの都市が潰れるのはまだ分かるけど、全都市が一斉に潰れて、しかも人間を何処かに運ぶのは……どこからか、命令を受けたからかの様に思えるね」
「うむ、私もそう考えた……着いたな」
そこで二人の会話が途切れると、目の前に大きな金属の自動ドアが現れた。
「そこで少し待つと良い、呪文を唱えるからな……あぁ、確か君達はアブラカタブラと言うのだったかな?」
そう言いながらメタンは扉の横の窪みに手を突き刺して捻った。
「それでは、『開けゴマ』」
ハーミュラは何の呪文かさっぱり分からず首を捻ったが、唐突に扉が開いて目の前に巨大な暗い空間が現れた。
メタンはまた足を引きずりながら歩き出した。
「丁度良い、この効率の悪い脚をどうにかしたいと思っていた所なのだ、折角だから……」
と、何やらブツブツと言いながら歩くメタンにハーミュラは首を捻っていると、アイニーが隣にやって来た。
「何でこう……私達の知り合う人達は独特な人達が多いのかな?」
「退屈しないし、良いんじゃ無いかな?」
「……それもそうだね」
アイニーは呆れた様に溜息を吐くと、ハーミュラに向かって笑いかけた。
「疲れたら言ってね?私がおんぶしてあげるからさ」
「だ、大丈夫だよ」
流石におんぶして貰うのは気がひける為、彼はそことなく断わり周りを見渡した。
暗すぎて正確な様子は把握出来ないが、見たところドゥーがいた地下の格納庫にそっくりだった。
そして、ふとハーミュラは思いつき、ドゥーの列車があった場所にライトを向けた。
その場所に列車は無かったが、代わりに巨大な腕と脚を持つロボットの様な見た目をした何かがじっと佇んでいた。
体の奥が冷えるのを感じてメタン達に目線を戻すと、彼等が何かをまた話しているのに気がついた。
小走りで駆けていくと、
「ダウンロード完了、分かったよ、それじゃあ先に進んでいるから後で合流しよう」
「それが良いだろう」
と、話し合いが終わった所になってしまっていた。
ハーミュラが何を話していたのか聞くに聞けない状況になっていると、ニードがコッソリと近づいてきて耳打ちした。
「メタンが体のアップグレードに時間が掛かるから、先に行っとけとさ、それでルートを新しくドゥーが貰ったって話よ」
「ありがとうございます」
ニードに感謝すると、彼は笑ってハーミュラの頭をわしゃわしゃと撫でた。
ハーミュラはニードの手をどかすと、一礼をしてドゥーとアイニーが話している所に逃げる様に走った。
「……逃げて来たね?」
ドゥーにからかわれる様に言われると、更に顔が赤くなった。
そんなハーミュラをドゥーとアイニーは微笑ましげに見ると歩き出した。
そして、予定していた通路の前まで来ると止まりドゥーが最終確認を始めた。
「よし、此処から先は暴走アンドロイド達にも存在がバレるからね……時間との勝負だよ」
ドゥーが立体図を出している間に全員ハーネスや紐を外し、外したのを確認してドゥーが話し始めた。
「一応私が先頭を走ってニードが最後尾だ、此処から先100メートル地点がゴールの『メインブレイン』の入り口だ、入り口に入ったらロボット達は中に入らないからもう安全だ」
そうして立体図を閉じると、全員に顔を向けながら、
「メタンがそろそろ来るはずなんだけど」
と、周りをキョロキョロと見回したがメタンの姿はどこにも見えなかった。
「少し待つか?」
「いや、そろそろ時間が色々と不味くなってくるから行こう」
と、目の前にある金属の自動ドアに手を掛けたところで、
「おいおい、それじゃあ私の出る幕は無いと言うわけかな?」
と、ハーミュラ達の背後からヌッと現れたロボットはドゥーの腕を掴んだ。
「いっ!?」
ドゥーが少し痛かったのか顔を顰めた瞬間ニードとトッチーがそのロボットに向かって蹴りと拳を突き出した。
「待て待て待て待て!アップグレードしたばかりでまだ力加減に慣れていなかったんだすまない……メタンだ」
「「なにぃ?」」
この場で一番背が高いウェイトよりも背の高いロボットは、ドゥーの腕を離して謝った。
「な、え?何か超合金入りのプロテインでも飲んだ?」
そうニードが言いたくなるのが分かるほどメタンの姿は変わっていた。
全体的に流線的なデザインでありながらも、メタリックな感じは残して顔は人間の様に目と口が付いていた。
「まぁ、何でも良いが早く行こう、時間が無いのだろう?」
「うむ、そうだな、私が一番先に出てカメラ等のセンサー系をどうにかするから合図をしたら走ってくれ」
メタンが返事をする前に扉を開き行ってしまった。
声で音がバレてしまう為、その場にいる全員固まるしか出来ずにメタンが悠々と歩いて通路のど真ん中で手を合わせるのを見ていることしかできなかった。
そして、メタンが手を合わせた後人間で言う心臓に当たる部分がオレンジ色に光り出して、弾けたかと思うと、メタンがいた通路全体の明かりが消えて、ライトの明かりすらも消えてしまった。
「ぐっ!EMPを使うなら言ってよ!」
ガントレットがただの重い金属の塊になってしまい、動けなくなってしまったドゥーを見てニードはすぐに抱え上がると走り出した。
「もうええから走れ!」
その言葉を聞いてテンパっていたハーミュラ達も走り出した。
「すまんな、代わりと言っては何だがスターロードを引いてやろう」
そう言って一番最後に走るメタンは何をしたのか通路の壁に後ろから前に向かってペタペタと何か光る物を貼り付けた。
そして、通路の半分に差し掛かったところで警報が鳴り出し、ついでと言わんばかりにロボット達が背後からものすごいスピードで走って来た。
「うむ、やはり何百年も経つと流石にグレードアップはしているものか」
「感心してる場合じゃ無いでしょー!」
アイニーが叫び皆頷くのを見てメタンは首を傾げた。
「不味いですよ!『メインブレイン』への扉が!」
すると、ハーミュラは気がつくと『メインブレイン』への扉が閉じてしまっているのに気が付いた。
「ニード!もういい!使えるから下ろしてくれ!」
「投げるで!」
「うん!」
ニードはドゥーを扉の前まで投げ飛ばし、ドゥーは壁に向かってガントレットを押し当てた。
すると、扉は白熱して楕円形に穴が空いた。
「さぁ!入って!」
そうして全員滑り込む様に中に入り部屋の予備シャッターが閉まるのを見て、安心した様に息をついた。
ハーミュラは息を整えながら立ち上がると、目の前に大きな白色に光るキューブが幾つもの線に繋がれて鎮座していた。
「……これが『メインブレイン』」
こうして彼らは何とか『メインブレイン』に到着する事が出来たのである。