ゴーストマシン
今現在の状況を端的に言うと、ドゥー、ニード、トッチー、そしてアイニーは腰を抜かしてその場にへたり込んでいた。
「ううむ、人を見るなりいきなり悲鳴をあげるなど、どうかと思うのだが?」
ハーミュラ達は前で喋るそれは、ロボットに間違い無いのだが、頭が後ろ半分無く、背中だけで無く腹部からも何本ものコードが垂れ下がり、脚部の調子が悪いのか足を引きずっている機体だった。
「い、いやぁ……流石にその状態で話しかけられたら腰抜かすと思うなぁ」
「……それもそうか」
こうなるまでに遡る事3時間前……
「それでは最終確認をするよ、メイカーの防衛機構のラインギリギリで地中に突入、その後振動を探知されずに侵入出来る使われていない通路に接近して侵入、そして地下通路を伝って『メインブレイン』に到達後私が、皆んなを元に戻す……OK?」
ハーミュラ達は神妙な顔つきで頷いた。
「よし、一番問題なのは使われていない通路から、地下通路に出た時だ、通路に出た瞬間に多分見つかるだろうから、その時からが時間との勝負だよ」
ドゥーの話をハーミュラは聞きながら、徐々に近づいて来るメイカーの街並みを見た。
メイカー、数多くの工房を持ちその街で新たな物が多く作られる。
この世に出回っている工業品は殆どメイカー産のものと言っても過言では無い。
新たな発明などが好きなハーミュラにとっては一度でも行ってみたかった街にはなるのだが、今では街の中から悲鳴や爆発音が聞こえる始末……。
溜息を吐いて少しナイーブな気持ちになっていると、アイニーが話しかけて来た。
「あそこに前々から行きたいって言ってたもんね」
「うん、一応一つの憧れだったかな……」
「そっか……」
「じゃあ早く元に戻してちょっとだけ、中探検しようよ!」
「えぇ……?」
困惑するハーミュラだったがアイニーは彼の手を取るとブンブンと振り回して、
「約束だよ?」
と、満面の笑みでそう言った。
「っ!わ、わかった!でもちょっとだけだよ?まだ他の町のみんなを助けないと行けないから」
「分かってるって!」
ハーミュラは仕方なさそうに、そしてどこか嬉しそうに笑うと、胸の中に出来た少し苦しい感覚を味わい目を閉じた。
「どうしたの?」
「……うぅん、何でも無いよ」
そして、そう話しているとニードがやって来た。
「やぁ、青春を満喫する若人達よ、そろそろ潜航を開始するから何かに捕まれ」
「ニーさんはカッコつけたがりっすねー」
「ペートさんや、あーしが格好つけてる時は茶々入れないでね?」
「はーい」
どこからともなく現れたペートに邪魔されたニードはどこか悲壮感を漂わせながら続けた。
「舌噛まん様に捕まっときや」
「「っはい!」」
その言葉で緊張しつつも少し余裕を持った表情になった二人は席について、急遽取り付けられたベルトで体を固定した。
前からウェイトとトッチーがやって来て、二人がしっかりと体を固定しているのをみて頷くと、二人も同じ様に体をベルトで固定した。
「コッチはOKだ!」
ウェイトが前方に向かって叫ぶと、ニードが操縦席から親指を立てた。
そして前方から声が聞こえた。
『潜航角度設定』
「おけよ」
『ドリル起動』
「おけ」
『その他手順、確認済みの為全省略!』
「おけ……なのそれ!?」
『潜航!』
「えぇ!?」
と、余りにも不安になる声が聞こえた為、前に何かを言おうとした瞬間、列車が一瞬浮かび上がって地面に斜めに突き刺さった。
「ぐっ!?」
「くっそ!もっと揺れるで!舌噛みなぁや!」
ニードがそう言った瞬間、目線が定まらないほど列車が振動して周りが真っ暗になった。
他の人達の反応は見えなかったが、明らかに歯を食いしばっている様な声が聞こえた。
「ぐぅぅぅ!!」
「ぬぅぅぅ!!」
「うぅぅぅぅ!!」
「うおぉぉ!ジェットコースターみたいっす!」
若干一名楽しんでいるものもいるが、ハーミュラも同じ様に歯を食いしばって、10分程耐えていると、唐突に揺れが収まった。
ベルトを外して立ち上がろうとするもあまりの目眩と気分の悪さに、口を押さえた。
「ほれ、窓開けてそこに吐きな」
トッチーはハーミュラの隣の窓を開けてあげると、彼は開けたと同時に窓の外に向かって吐き出した。
暫くトッチーに背中をさすってもらっていると、ニードが少し危ない足取りでドゥーに支えられながら三人の前に現れた。
「……無事?」
「約一……二名はグロッキーやよ」
トッチーがそう言ってウェイトの方を見た。
「……せめて前もってこんなに揺れることを教えておいて欲しかったがな」
「ごめんやん、一応前よりマシな後ろに座らせてあげてんから勘弁して?」
青い顔でそう言うニードは、溜息をついた。
「すまんなドゥー、もうちょい迷惑掛けてもええか?」
「勿論、迷惑を掛けてくれても構わないよ」
と、どこか嬉しそうな表情でニードの腰に手を当てて、肩に手をつかせていた。
「ニーさん?」
「ちょっと座るまで勘弁して……」
アイニーはそんなニードを咎める様に言ったが、彼は弱っていながらも肩をすくめた様な素振りをして近くのシートに座った。
「仕方ないね、10分休憩しよう」
ドゥーがそう言うと、ニードとウェイト、そしてハーミュラはありがたそうに頷いた。
「アイニー、水を取りに行こう、トッチー、軽く列車の右側面の壁を掘っておいてほしい、予定ではその壁の三メートル先が通路だからね、ペートは周りに敵が来た時様にトラップの準備を頼むよ」
「あいよ」
「アイサーっす!」
四人はそれぞれの仕事に向かうと、グロッキーな三人は何とも言えない雰囲気を漂わせるのだった。
「……ニーさん、何でアイニーとかトッチーさんかペートに運転任せなかったんですか?」
「あ?あぁ……アイニーに発進する前にシミュレーションさせたんやけど……壊滅的やったな」
「「壊滅的」」
ウェイトとハーミュラは声を揃えてそう言った。
「全部の障害物にぶつかるわ、人はひくわ、地面に擦るわ……地面に擦るて何よ?」
それはコッチが聞きたいと言わんばかりの表情を二人はしていたが、それを口に出す程の体力は残っていないのか、何も言わなかった。
「……トッチーに関してはまぁ、まだマシな運転はするけどそれよりもトッチーには、何か起こった時の控えでいて欲しかったんやな」
何の控えか完全に聞く気になれない二人は項垂れてしまった。
「んでペートやけど……なんかまだ信用ならんのよな……」
それについては二人は完全に同意なのかウンウンと頷いていた。
そうして話しているとドゥー達が水を持って戻って来た。
「やぁ、水だよ、これを飲んで少しマシになったら行こうか」
三人は頷くとアイニーとドゥーからそれぞれ大量の水を貰い、ごくごくとそれを飲んだ。
暫く三人は深呼吸をすると、顔の青さがマシになり最初にウェイトが立ち上がった。
「ワシもまだまだ現役じゃな」
その言葉を聞いた瞬間、少しよろめきながらもニードが立ち上がった。
「なぁにが……まぁええわ、ちょいとトッチーの様子見てくるわ」
と、ニードが列車から降りて暫くするとニードとトッチーの怒声が聞こえた。
「なぁんでお前コッチ掘ってん!?」
「列車に向かって右やろ!?」
「何でやねん!」
と、なんだか頭の悪い怒鳴り合いが始まったのを聞いてハーミュラは溜息を吐きながらも立ち上がった。
「……お待たせ、行きましょう」
ドゥーは笑って頷くと列車列車から飛び出ると、一秒後に鈍い音が二度響いた。
ハーミュラ達が車両の外に出ると、ブツブツと言いながら頭をささる二人がシャベルを片手で持ちながら壁を掘っていた。
「頭をさすらないで両手でやった方が効率が良いんじゃないかな?」
「「……へい」」
二人はそう言いながら頭をさするのをやめて壁を掘り始めた。
すると、二人にウェイトがスッと近づいてきて、二人の近くでボソボソと喋り出した。
「アイツらが喧嘩した時は、いつもドゥーがああやって止めるんだよな……」
意外でどうでも良い事が判明したのに二人は溜息をついて、ドゥーにシャベルを貰おうとしたがその前に二人が気付けば既に壁に穴を開けていた。
「……じゃあ私は留守番っすね」
と、急に出て来たペートにその場にいる全員ビクリとして肩を上げたが、直ぐに何事もなかったかの様にし始めた。
「はぁ……君達は協力すれば凄いんだから最初から頼むからそうしておくれよ」
呆れるドゥーが二人の間をライトを手に持って通り抜けていくのを見て、アイニーとウェイトがその後ろに続いた。
「「……」」
固まる二人にハーミュラは近づくと、
「ま、まぁ、そんな事もありますよ」
と声を掛けた。
「「……」」
二人はどこか申し訳なさそうな顔をするとシャベルを放り捨てて、ハーミュラとドゥー達の後を追った。
「いってらっしゃいーっす!」
三人に追い付いたハーミュラ達は、別れ道の前で腕を組むドゥーを見た。
「さて、ここからなんだけど、だいぶ入り組んでいるから逸れると本当に死ぬまでここ彷徨う事になるから気を付けてね」
と、物騒なことを言った。
すると、懲りないのかニードとトッチーが顔を輝かせた。
「「もしかしたら幽霊出るんとちゃうけ……?ハモんなや!」」
「バカな事は言ってないでほら、皆んなに付けて」
ドゥーがそんなニード達を軽くあしらい、トッチーとニードに紐とハーネスを渡すと三人でそれらを手際良く付けていった。
「はい、これで一応逸れることは無くなったね」
ある程度の距離は離れてられるが、こうしてハーミュラ達は六人で繋がることとなった。
そうしたドゥーを先頭に歩いていると、唐突にアイニーとドゥーが立ち止まった。
「どうしたんだい?」
「何か……音が聞こえる……」
「そんな事は無いよ……ここはそれこそ数百年間解放されてないんだから……ロボットとかアンドロイドでも生存不可能だよ」
と、言ったドゥーだったが、どこか警戒している様だった。
そんな様子を知らずしてか、ニードはそれを鼻で笑うと、
「分かったからどっちにせよ早いこーで」
と、紐を引っ張った。
「君は本当に……じゃあ君が先頭に立ちなよ、私が後ろから指示を出すからさ」
「おぅけぃ!」
元気よく返事したニードはハーネスを外してドゥーの前に回り込み、曲がり角の先で作業をしていると、ドゥーがそれ見た事かと言わんばかりの顔でニードの肩を叩いて指をさした。
振り返ったニードは悲鳴をあげようと口を開けた瞬間、ドゥーに口の中にパンを突っ込まれ、
「もごー!」
と、声が出ただけだった。
そして、ハーミュラにもその音が聞こえる様になり、通路の先からヌッと巨大な足を引きずったロボットが出てきた。
そして、アイニーも同じ様に悲鳴をあげようとして口にパンをねじ込まれるのだった。
そうして、長くなったが話は最初に戻るのである。
「ふぅむ……や、先ずは自己紹介になるかな?私は『予備工業区画独立守護……』」
と、意外にも丁寧に長い名前を言い出したロボットにアイニーは痺れを切らした。
「もっと短い名前は無いの?」
「ふぅむ……そこな少年、私に相応しい名を付けてみよ」
唐突に無理難題を振られたハーミュラだったが、三秒ほど悩むと、
「『メタリアン』略して……『メタン』はどうですか?」
するとボロボロのロボットは唸ると、暫くフリーズして再び話し始めた。
「ふむ、私の感性で言えば……悪くないかもしれないと評価したので、その名前を採用しよう、私は今から『メタン』だ」
そう言って頷いたメタンは何度もメタンと繰り返して呟いていた。
「それよりも、何故何百年も閉じられている筈の通路に君の様なロボットがいるんだい?」
と、もっともな意見をドゥーがメタンに告げた。
「あぁ、それは単純な話だ、私はここに閉じ込められたのだよ」
メタンは特に大したことでも無い様に言うと、そう言えばと首を傾げた。
「君達はどうやってここに来たのかね?」
「地面を掘って」
「なんと!そんな物好きがまだ居たのか!」
どこか嬉しそうに大爆笑するメタンはひとしきり笑うと、
「して、何故?」
と、これまた当然の質問をするのだった。
ハーミュラ達は顔を見合わせると、これまで起こったことを手短にメタンに話した。
するとメタンは困った様に首を振った。
「到底信じられんが話の筋は通っているな」
と、暫く考える様にフリーズすると、大きく頷いた。
「よし、いいだろう、私がこの君達が迷宮と言う我が家を案内して見せようじゃないか」
何を思ったのかメタンはそう言うと、ニードのハーネスの紐の部分に自分のコードを括り付けた。
ニードの困惑する声を無視しつつ、こうして新たなよく分からない仲間が増えてメイカー攻略は開始したのであった。