ニード&ドゥーの関係
ハーミュラはウェイトとの作業に戻ろうとすると、ニードから声を掛けられた。
「ごめーん!ドゥーがいるって言うパーツが奥の方にあるから、俺一人だけやったら持たれへんからちょっと頼むー!」
「はーい!」
ハーミュラはニードと一緒に列車の後方の車両へと歩き出した。
歩いているとやはり、先程のウェイトの言葉がハーミュラの頭の中によぎった。
気になり、口に出そうとするも二人の関係に自分は口を出すべきでは無いと思い、いやだがしかし、と何度も考えていると急にニードが立ち止まった。
「どったん?さっきから口をパクパクさせて?」
「あっ!?いや!その!何でも……」
徐々に尻すぼみになって行く言葉にニードは、フッと鼻で笑った。
「なぁにぃ?言うてみぃよ!ニーさん何言われても怒らへんから!」
ハーミュラは肩を組まれてユサユサと揺さぶられて、目を回しながらも手を上げて小さくながらも反抗した。
「い、や、怒る怒らないの問題じゃ無いんですよ!」
「うぇぇ?」
ニーさんは手を離して腕を組むとニヤついた顔でハーミュラを見た。
「……本当に怒らないんですよね?」
「怒らんし、ちゃんとお前の質問には答えるつもりや、今一番大事なのは信頼関係故にな!」
腕を組んでドヤ顔で語るニードにハーミュラはどうしようも無い感情を抱きつつも口を開いた。
「……ドゥーに抱きつかれてるのを見たって聞いたんですけど」
それを聞いてニードの顔は固まった。
「……うーん、俺はアイツの考えてる事を全部分かるわけや無いからなぁ……取り敢えずアイツとの出会いを話したるわ」
そう言ってニードはまた懐から、黒い液体の入った瓶を取り出すと中身を飲み始めた。
「……アイツと出会ったんは三年前よ」
ニードはポツポツと話し始めた。
「俺とトッチーは所謂『過児』って奴でな、親に育てられないからってアンドロイド等に預けられたんよね、んで、そんな飼い殺しのさ日々がいやである日施設を抜け出して、外に出たんやけどもうな……ホンマあん時の感動は忘れられへんわ」
と、すこし目を潤ませて熱弁するニードにハーミュラは感心した様に頷いた。
「あ、ドゥーと会った時の話やな?えっとな、まぁそんなこんなで外に出て十年ぐらい外のスクラップ売り捌いたり、自分等で作ったツールとか売ったりして稼いでてんけど、そう三年前よ、三年前トシ……トッチーと一緒にあの場所を掘っててんけど、そこであのデッカい格納庫見つけてなぁ、そこで布から一枚姿で列車内端に蹲ってたドゥーを見つけてなぁ……そっからはもう、ドゥーにつきっきりよ」
早口でペラペラと話すニードはコレを話しながら、列車の最後尾の車両に入った。
そして、手に持つメモ表を見ながら、幾つもパーツをカゴの中に乱雑に放り込んで行くのだった。
「ちょっ!?そんな雑にして大丈夫なんですか!?」
「あ?大丈夫大丈夫、ドゥーが何でもしてくれる故な」
そう言って笑い、ニードは続きを話し始めた。
「もぅ、アイツガチで天才よ?言った事は何か百倍ぐらい俺より詳しくなるしさ?運動するのももう最強やしさ?まぁ、メシ作るのは俺が多分勝ってるけどさ?」
「は、はぁ……」
そうして最後のパーツをカゴに入れるとニードはそれを持ち上げた。
「もう一個も持ってな、……アイツは将来きっと良いお嫁さんになるよ」
そう言った時のニードの顔は今まで見た事ないくらい優しく、そして、何処か人間である事を疑う様な雰囲気を漂わせていた。
「……」
そんなニードを見ていると、パッと顔を明るくして彼は歩き始めた。
きっと気の所為だろう。
ハーミュラはそう思う事にした。
そう、あの一瞬でも何故か底知れぬ恐怖を感じたあの顔は見間違いだったのだと……。
カゴに入れたパーツを持ってドゥーの元へ行くと、彼女はメイカーの立体図を見ていた。
「ドゥー、持って来たえ」
「ん、有難う、じゃあ始めといて」
「あいよ」
ニードは列車に連結しようとしている大きなドリルの前にカゴを置くと、ハーミュラのカゴをもぎ取った。
そして、カゴを素早く地面に置くと、肩を組んで空いた手の中に、代わりに先程とは違う少し白色の混ざった液体の入った瓶を渡した。
「コレはドゥーの好きな物やからな、話すんやったらばコレ持っていっとき」
と、ハーミュラにそう言った所でアイニーが二人の背後から声を掛けた。
「ニーさん?ハー君?」
二人はビクッとして振り返った。
「……私もそれ欲しいし、ドゥーとおしゃべりしたーい!」
と、アイニーはコレでもかと言わんばかりに叫んだ。
「……鼓膜ないなったけどまぁええわ、ほい、じゃあ二人でいっといで、もう終わるから」
「はーい」
「……はーい?」
まだ耳がよく聞こえていないのかハーミュラは首を傾げながらも、アイニーに袖を引かれてドゥーの元へと向かった。
列車の中に入ると、先程と同じ様にドゥーがメイカーの立体図を見ていた。
「ドゥー?ニーさんから差し入れ」
「ニードから?あぁ……ありがとう」
嬉しそうな表情で瓶を受け取ると、二人に座る事を促して自分も座ると、慣れた手つきで蓋を開けて中身をちびちびと飲み始めた。
それを見ていたアイニーも習って開けようとしたが、勢い余って瓶の上の部分を割ってしまった。
「あっ……」
残念そうにしていると、ドゥーが仕方なさそうに笑って、
「私の口を付けたのでも良ければ交換するよ」
といって、瓶を差し出した。
「えっ?」
一瞬アイニーはその言葉にフリーズしたが、ものすごい勢いで立ち上がると、
「にににににニードさんに変えてもらうから大丈夫!!」
と、足から火花が出るかもと思う程のスピードで列車から出て行ってしまった。
「……ふふ」
その様子を見て笑っているドゥーにハーミュラは我ながら陰湿だと思いながら話しかけた。
「……ドゥーってさ、ニードさんとはどんな仲なの?」
「……かけがえの無い大切な人だよ間違いなく」
ドゥーはそう言って目を瞑った。
「そうなんだ……ねぇ、ニードさんが君を見つけた時一人ぼっちだったみたいな事言ってたけど」
ドゥーは飲んでいた瓶の手を止めて、その縁をじっと見つめた。
「そうだね、私が生まれた時は、寒くて、暗くて言葉通り一人だったんだ、うん、本当に私は運が良かったよ……何も分からない、何も感じられないのに自我だけが存在して、あのまま放って置かれたら間違いなく私は壊れていただろうね……」
そう言ってシートをポンポンと叩いた。
「彼が来てからは本当に楽しかった……毎日が輝いていたんだ……今もそうだよ、それに彼はちょっと思っていたのと違う所はあるけど、外の世界に連れ出して世界の……うん、美しいだけじゃ無いけど、美しい所を見せてくれたんだ、本当に彼には感謝しているよ」
と、彼女が話した所でアイニーが戻って来た。
「あはは……ニーさんに呆れられちゃったよ」
「ん……そうかい」
ドゥーは落ち着いた様子でそう返事をするとまた、ちびちびと液体を飲み始めた。
その様子をアイニーは見てニコニコと楽しそうに笑っていたのだった。
「……何か顔に付いているかい?」
「あっ!?えっ!?な、何でも無いよ……」
苦笑いしてそう言うドゥーにアイニーは徐々に尻すぼみになってなって行く様に答えた。
ハーミュラはどうしたものかと、首を横に振った。
「ふふ……なら、ニードとトッチーと体験した私の冒険譚を簡単に纏めたものを折角だから話そうかい?」
アイニーは顔を輝かせた身を乗り出した。
そんな彼女をハーミュラは肩を叩いて、落ち着く様にジェスチャーをした。
「あ、ご、ごめんなさい……」
「大丈夫だよ、さてと、それじゃあ、先ずは私が初めて自然の『滝』と言うものを見た時の話になるかな、ヨ……ニードが私達を車に乗せておススメの滝に連れて行ってくれたんだが……」
とても楽しそうに話す彼女はとても美しく、話す行動だけでさえ写真を撮って額縁に飾ればとても映える姿見だった。
と、ハーミュラは見惚れていたが、それでも話しはキチンと聞いており、三人の仲の良さが伺えるとても良い話だった。
だが、またハーミュラは少し違和感を覚えたのだった。
コレと言って断定は出来ないが、それでも何かかが彼に引っかかると感じさせたのだった。
そして、アイニーがドゥーに向かい何度か相槌をうって楽しそうに会話をしていると、
「へい!親方!準備終わりやしたぜ!」
「ぜ!」
ニードと何故かペートが車両の中にやって来た。
「……そうか、じゃあ皆んな出発の準備は良いかな?」
そう言ってドゥーは瓶の中の液体を全部飲み干すと、それをニードに渡した。
「ありがとう」
「ん」
ドゥーはそう言って笑うと運転席の方へと歩いて行った。
ニードは少し気不味そうな、くすぐったそうな顔をしていた。
ハーミュラはそんなニードの様子を見たが、それについては何も言わずにニードとアイニーと共に運転室へと向かった。