ウェイト・ラディと言う伝説
それぞれメイカーに向かう準備をしていると、偶々近くで作業をする事になったウェイトにハーミュラは好奇心が勝ったのか、彼に恐る恐る話しかけた。
「ウ、ウェイトさんってやっぱり本物ですよね?」
「正真正銘のウェイト・ラディだ」
機械の部品を取り付けてスパナを回しながらウェイトはハーミュラを見る事なくそう言った。
「あ、あの『スクラップナイトメア』から脱出出来た?」
「そうだ」
相変わらずウェイトは列車に向かい続けていた。
「……詳しく聞いても良いですか?」
するとウェイトは手を止めてニーさんの方をチラリと見た。
ニーさんはウェイトさんの目線を受けて頷くと懐から黒い液体の入った瓶を二本ウェイトさんに投げつけた。
「どうも」
「出来るだけ短めにしてな、おっちゃん」
「はいはい」
ウェイトは瓶の栓をスパナを使って二本とも抜くと、一本をハーミュラに渡した。
瓶はニーさんの懐に入っていたのにも関わらず、ヒンヤリとしていた。
「あ、有難うございます」
彼に見習って思いっきり液体を口に含むと、口の中にシュワシュワとした感覚が広がった。
思わず吹き出しそうになるも、何とか堪えて飲み込んだ。
「……甘い?」
とても甘いのには間違い無いのだが、その甘さの中にどうにもクセになる苦味というか、味わい深さのある飲み物だった。
「……さて、何処から話そうか」
ウェイトはそんなハーミュラを笑って見ると、遠くを見る様に目さんを少し上げて目を細めた。
「アレは俺がまだお前等ぐらいの子供の頃の話だな」
話を要約するとこうだった。
昔まだ廃棄される前の街に住んでいたウェイトは、小さい頃から自分の事を世話して、尚且つアンドロイドにしては何処か天然だった女のアンドロイドを世話していた。
大きくなるにつれて、彼が胸に秘めていた想いが、憧れから恋心へと変わっていった。
所謂『アンドロイド症候群』だ。
通常、街でヒト同士がくっついて子供を作ったりするのだが、ごく稀にアンドロイドとヒト、ロボットとヒトと言った特殊なケースが発生することがあり、その場合はくっついた場合、二人にアンドロイドの見た目の型とヒトの型をランダムに組み合わせた見た目の子供を作る事が出来る様々な種類のキットが送られる。
そして、彼は自分と彼女はいずれその様にしてくっつくのだろうと思っていたらしい。
彼女もそんな彼を悪くは思っていなかったらしい。
しかし、終わりは唐突に訪れ、彼女はスクラッパーズへとなってしまった。
街が終わる瞬間、彼は彼女を直そうと、連れ出そうとしたらしいが、壊れる寸前の彼女はエラーを出しながら、彼に別れの言葉を告げて行ってしまったと言う。
そして、彼はスクラッパーズを救うと言う名目で様々な廃棄済みの街や、スクラッパーズの拠点へと足を運んだ。
そして、そんな彼の生き様が伝言ゲームの様な形で伝わったのが『ウェイト・ラディの伝説』らしいが……。
「いやいや、おかしいですって、普通改造手術受けたヒトでもスクラッパーズから逃げ切るなんて出来ませんよ?」
「ははは、まぁ……本当に彼女は……あぁ、おっちょこちょいだったからなぁ」
完全に苦労人の雰囲気を漂わせるウェイトに、ハーミュラは何となく察すると頷いた。
「また平和になったら、一杯奢りますよ……」
「ははっ……変な気を使わせてすまんな……」
「「……」」
気まずい沈黙が二人の間を流れた。
そして、ウェイトはそんな沈黙に耐えかねたのか露骨な話題転換をした。
「さっきの、うまかったか?」
「は、はい!」
「くっくっく……コレはニード等の秘密のレシピなんだとよ」
ハーミュラはチラリと横目でドゥーにアレコレ指示されながらも的確にそれをこなして行くニードを見た。
そんな目線に気が付いたのかニードは下手くそなウインクをすると、ドゥーに持っていた紙で軽く頭を叩かれていた。
そんな二人を見たハーミュラとウェイトは吹き出した。
「くかか!全く!あいつ等は良いコンビだな」
「そうですね……実際、ドゥーとニーさんはどう思っているのでしょうね?」
ウェイトは瓶の中身を少し飲んで、思い出す様に顎に手を置いて目を瞑った。
「そうだなぁ、基本ニードからスキンシップする事は見た事ねぇなぁ」
「え?じゃあドゥーから?」
意外な事実を聞いたハーミュラは驚いた様に目を見開いた。
しまったと額を叩いたウェイト手招きしてハーミュラを近くに寄せた。
「……ここだけのだから、誰にも言うなよ?」
「……はい」
「この間ニードが色々と作業をしていた時に、背後からドゥーが抱きついて何か話していたのを見たんだよな」
「えっ?」
あの清廉なドゥーの見た目からは信じられ無い事を聞いてハーミュラは目を丸くした。
「……ま、その事を聞きたいのなら直接本人等に聞けば良いさ」
そして、そう言ってウェイトは立ち上がると満足げにうなずいた。
そして、ハーミュラに手を差し出した。
「お前さんは、最近の若者にしてはワシの話を長々と聞いてくれる程には良い奴だから、きっと大丈夫だろうよ」
そう言ってウェイトは笑った。