状況整理
ハーミュラ達は列車の中の狭いテーブルを六人で囲って座っていた。
「お、おい、ここは大丈夫なんだろうな……?」
「一応スクラッパーズもここには入って来れない様になっているから、大丈夫だよ」
「ならいいが……」
明らかに困惑しているウェイトと呼ばれている老人は、ソワソワしながらもニーさんの方を向いた。
「じゃあまずは、改めて自己紹介からやな」
そう言って立ち上がったのはニーさんだった。
彼の顔は疲れ切って、半袖の灰色一色のみの服はヨレヨレになり、黒い髪はボサボサになってしまっていた。
「知っての通り、俺は街では小さな料理店の店長であり、荒野では探検家、発掘家をやっているニード・イーエヌド、んでコイツが俺の弟で基本的には外で発掘しとったんけど……」
そして、同じく黒い髪の半袖短パンのトッチーはそれを引き継ぐ様な形で立ち上がった。
「あい、俺はトッチー……い、イーエヌド……うん、外だ基本は発掘をしとったわ」
そうして慣れない様な口ぶりでそれだけ言うと座ってしまった。
「……では、わしの番かな」
次は謎のウェイトと呼ばれていた老人が立ち上がった。
服装はよく見ると『本』で見た事のある古い街で流行った事のある服装の上から白衣を着ていた。
「ワシはウェイト・ラディ、この兄弟としばしこの列車を調べていた物だ」
すると、ハーミュラとアイニーは驚いた様に目を見開いた。
「え!?ラディ!?ウェイト・ラディって!?」
「『廃棄済の街』を全て探検して生きて帰って来れたあの!?」
二人は興奮した様子でウェイトに詰め寄った。
「まぁ待て待て、詳しい事はこちらのお嬢が終わってからにしたまえ」
そう言って手をドゥーの方に向けた。
「……私だな、私はドゥー、端的に言えばこの列車の生体ユニットだね、けど私は成長するタイプでね」
「まさか二年でここまで大きなるなんて、わかる訳ないんよな」
「え?と言う事はドゥーって……」
「二歳やな」
トッチーの言葉にハーミュラとアイニーは固まってしまった。
目の前にいる儚げで凛として美しく、明らかに二人より頭が良さそうな少女が生後三ヶ月と言う現実が信じられない様だった。
「二歳……って……ん?待ってそれよりも女の子?男の子?」
「一応この体は女性になる様になってるね」
「……ニーさん?」
急に鋭い目つきで睨まれたニーさんは飲んでいた水を気道に詰まらせた様だった。
「っっげほっ!?がほっ!げほっ!?」
「そんな目で睨まなくても大丈夫だよ、私は至って清廉潔白だよ」
その言葉を聞いて安心したのかアイニーはホッと息をついた。
その様子を見ていたドゥーは可笑しそうに笑うと、アイニーに手を伸ばした。
「それじゃあ、アイニー君、君の紹介を」
伸ばされた手を取りそうになり、彼女はハッとして恥ずかしげに咳払いをするとハーフパンツを叩いて立ち上がった。
「私はアイニー・ユウラビ!ハーミュラの幼馴染で遺伝子改良はもう受けたよ!」
そう言って座ると目くばせでハーミュラに次とせかした。
「は、はい!僕はハーミュラ・ノヴァです!遺伝子改良は受けてません!」
緊張した面持ちでそう叫ぶとニーさんが音量を下げろと手でジェスチャーをした。
「す、すみません……」
ニーさんは頷くと、立ち上がって机の上にカラーの地図を広げた。
「よく見ると紙の地図ね……良くこんなの残ってましたね」
「俺らが良く使うから残しとったんよ」
そう言いながらニーさんは工業施設の街であるメイカーを指さした。
「俺達が一番最初に抑えなきゃいけんのはココ」
するとハーミュラが手を上げた。
「な、何故でしょうか?」
それを聞いたニーさんは頷くと、ペラペラと話し始めた。
「はい、じゃあ先ずは街のネットワークシステムの仕組みについて、街にはロボットもしくはアンドロイド、人造人間が『中央権能』に接続されていて秒単位で更新されてんのよな」
そう言ってニーさんは列車の奥からホワイトボードを持ってきた。
「んで、その『中央権能』がやって来た情報を得て、必要ならば各々に強制的な行動をさせるんやな、んで、今回の場合は多分この『メインブレイン』に何かが起こっとるから、ここを叩く」
そう言ってホワイトボードに書いた『メインブレイン』と書かれている文字にバツを打った。
「はい」
次はアイニーが手を上げた。
「はい、どうぞ」
「その『メインブレイン』を壊しても大丈夫なんですか?」
ニーさんは首を横に振った。
「だいじょばない、やけども俺らにはドゥーがおる」
ニーさんはドゥーの脇を掴んで持ち上げた。
ドゥーはなんとも言えない微妙な表情をして、されるがままになっていた。
「……うん、私がその『メインブレイン』にアクセスして制御権を取り戻す、取り戻せるんだ」
その言葉にアイニーは首を傾げた。
「何で出来るの?」
「うーん……話せば長くなるんだよなぁ……」
「ともかく、『メインブレイン』にドゥーを連れて行けば解決すると言うわけじゃな」
と、ウェイトが締めた。
それにニーさんとトッチーも頷くと続いて、と話し始めた。
「で、メイカーに入る方法やけど……防御が硬いから出来れば見つからん様な方法で行きたいけど……」
「それについては私が……」
「出来るとすれば下水から上って行く感じじゃな」
「だから私が……」
「うぇー?下水から上んのー?」
三人で話し合っているとドゥーが仕方なさそうに溜息をついてガントレットを二つ机の上にガンと置いた。
そして、ビックリして一瞬固まった三人に叱りつける様な声で、
「私を無視するなんていい度胸だね……」
ドゥーを見つめる三人の驚いた顔に満足したのか、頷くとガントレットを起動してテーブルの上に立体的な街の図を投影したのだが……。
「何だこりゃあ……」
そこに映し出された図は、街の地下を含めた全体図だった。
ただ、下水道や電線などが張り巡らされているのが見えるのは確かだが、それよりも確実におかしい部分があった。
「待てよ……何故あっても意味のない場所に地下通路が存在するんだ?」
全体図には勿論地下通路も存在したが、中には途中で切り取られた様に止まっている部分や、意味のないのに電線や水道が張り巡らされている部分があった。
そして、
「は?待って待って!?何でこの街の地下にこんなデカイ噴射機構があるの!?」
それらの一番下にまるでその街を持ち上げる為に存在するかの様なジェットエンジンが幾つも存在していた。
混乱するハーミュラ等にドゥーは得意げな顔で続けた。
「この途切れている部分からの通路には何もいないから、この先から侵入しよう」
「まぁ、エンジンもまぁ今は関係無いからええわ、んで、ロボットとか居らんのもまぁええわ、問題は一つ、そこまでどうやって行くつもりや?」
その問いにドゥーが答えるよりも前に、彼等に新たな来客が来た。
「あー?誰っすか?」
元気はつらつな様子の少女がが彼等の列車に乗り込んで来た。
『うぇぇ!?』
ドゥー除く5人はそんな情けない声を上げて立ち上がると戦闘態勢に入った。
「オイ!ドゥー!!スクラッパーズは入って来ないんじゃ無かったのか!?」
「そんな筈は……ここはもう既に破棄されている筈なのに……!」
敵対的な意思を向けられた少女は明らかに困惑した様子だった。
慌てて手を振り手を上げて来ている服のポケットを全てひっくり返しながら、
「ま、待って!わたしっすよ!ペートっす!」
その言葉を聞いたハーミュラ等はドゥーを振り返った。
「……私は君の事を知らないし、私はアイロー何て名前じゃあ無い」
その言葉を聞いて少女は更に驚いた様に目を丸くした。
「うぇぇぇぇ!?」
そして、一瞬フリーズするとポンと手を叩いた。
「あー……『引き継ぎ』に失敗したんすね?」
「……」
ドゥーは心当たりがあるの少し眉を顰めたが、諦めた様に警戒を解いた様に肩の力が抜けるのが分かった。
「皆いいよ……この人……この人造人間は敵じゃ無いよ」
その言葉を聞いてハーミュラ達は渋々警戒を解いた。
しかし、ニーさんはその少女に問いかけた。
「お前は何者だ?」
「わたしはペート!ペトーって感じで可愛と思いませんか?」
『そ、そうだね』
六人が微妙な反応をしたのに対してペートは怒った様に頬を膨らませると、背中から金属製の太い尻尾を取り出した。
「微妙にリアクションが古いんや……うぇっ?」
そんな事を言うニーさんにペートは尻尾の先の尖った部分をプスリと刺した。
「アウチ!いってーなー!」
そして、暫く謎の間があった後、
「……あれー?おかしーなー……」
と、ブツブツ言い始めたペートをニーさんは仕方が無さそうに溜息をつくと、ドゥーに向き直った。
「んで?どうやって行くつもりや?穴掘るつもりか?やとしたら掘り終わる頃にはもう詰みやぞ」
「流石に私もそこまで頭のが悪い事はしないさ……ここは、私がいたあの格納庫同様に特殊兵器が積まれている筈なんだ、そして、ここはもう廃棄済みで自由にアクセス出来たから良かったけど……」
何だか歯切れの悪い事を言い出したドゥーにハーミュラは首を傾げた。
「じゃあその通路前まで穴を掘る機械があるって事かな?」
「そうその通り」
凛とした表情で即答したドゥーは真っ直ぐにハーミュラを見つめた。
すこしドキッとしたハーミュラは顔を赤くしていると、アイニーに思い切り足を踏まれ、腕をつねられた。
「いっっ!?」
ハーミュラは目線で何をするんだと訴えたが、アイニーはそっぽを向くだけだった。
「えぇ……?」
困惑するハーミュラだったが、そんな彼を哀れな目で見る大人三人がやれやれと言った様に首を振った。
「それじゃあ、今回は一両だけで大丈夫だから、『バ……バロー砲』……ねぇやっぱり名前変えない?……まぁ、それは置いて行くよ?」
急に騒ぎ出したニーさんだったが、それを無視してドゥーは続けた。
「それじゃあ、私が指示を出すから皆んな手伝ってくれるかい?」
五人は揃って頷くとそれぞれ立ち上がった。
「はいはい、ニードも文句なら幾らでも聞いてあげるから、手伝ってね」
騒ぎ立てるニーさんの背中を押してドゥーはその場から去るのだった。
「……そうっすよね、流石にもう毒は効かなくなってるっすよね、よし!皆んな!わたしが任された装置で……アレ?」
その場には一人ポツンとペートのみが残されるのであった。