ハーヴェイク戦
ハーミュラは自身を押し倒して尻尾を振る獣型のロボットを押し除けた。
「ぼ、僕はここの責任者じゃありません!」
「……では今は誰が責任者ですか?」
「いいっすか?」
すると、ハーミュラとロボットとの間にペートは割って入ると、ロボットの鼻に手を置いた。
ロボットはそれに対して微動だにせず応じた。
「今は緊急事態で責任者と呼べる様な人は居ないっす、皆んなどっか行っちゃったんすから」
「……どちらへ?」
「わかんないっす、たぶん連れ去られだと思うんすけどねぇ」
「成る程」
ロボットは少しフリーズすると、座っていた状態から立ち上がり歩き出した。
「メインブレインに説明を要求する必要があります」
ロボットはそのまま通路の闇の中に消えて行ってしまった。
その様子をハーミュラとアイニーはあっけに取られながら見ていたが、ペートは肩をすくめるだけだった。
そうして彼等は再び歩き出した。
歩いている途中にまた機械を置いて歩いていると、ハーミュラはハーヴェイクのホログラムマップを開いて首を傾げた。
何かを考えている様だったが、ブツブツと言っているだけで何を言っているかは聞こえなかった。
「ちょっとハー君?さっきから何ブツブツ言ってるの?」
「ん?あ、ごめん、少し考え事だよ」
「こんな時に考え事?」
アイニーの呆れた口調にハーミュラは申し訳なさそうに笑った。
彼女はそれに対して特に何も言わなかったが、目線はとても冷ややかな物だった。
暫く歩いているとペートは立ち止まり、扉に手を置いた。
「ここから先が『メインブレイン』の廊下っす……200メートルは走るんで覚悟してくださいっすよ」
二人は頷くと、それぞれの手に武器を構えた。
そして、ペートが扉を開くと、その先ではロボット達の死骸がゴロゴロと転がっていた。
何が起こっているのか三人は一瞬分からなかったのか、たじろいだもののすぐ様走り出した。
しかし、後方からロボット達が追ってくるなどの事はなく150メートル走り曲がり角を曲がったところで、ロボットの群れが『メインブレイン』の廊下の前で何かに群がっているのが確認できた。
ハーミュラ達は電気ショックで倒しながら進んでいくと、先程の獣型のロボットがロボット達相手に奮闘していた。
『メインブレイン』に入る為の扉が閉まっており、中に入れなかったところを襲われたのであろう。
その様子を見てペートは口元をニヤリとさせた。
「アレに便乗して中に乗り込むっすよ!」
二人はそれに頷き、獣型のロボットの背後に迫っていたロボットをダウンさせると、三人背中合わせで戦い始めた。
その隙にペートは持って来ていた工具で『メインブレイン』への扉を開こうとすると、獣型のロボットが、
「ロボットの『メインブレイン』への進入は許可されておりません……が、今は緊急事態ですので許可します」
と、言って一瞬アイニーのハーミュラの身をビクッとさせた。
ペートは下を出しながら工具を取り付けると、離れてスイッチを押した。
シュィーンという音と、チリチリチリという音が同時に鳴りながらドアに対して円形の火花が散って、火花が円形を描くとドカン!と派手に爆発して金属片を中に飛び散らかした。
「今っす!中に入るっす!」
「はい!」
「今の爆発で『メインブレイン』にダメージがある可能性があります、その場合は責任者に対して重い罰則が……」
「早く入るっすよ!」
ペートがロボットを掴んで中に引き入れると、予備のシャッターが降りて外の騒動が嘘の様に静まり返った。
三人は振り返り『メインブレイン』であるキューブを見つめると、又もやキューブが二つに割れ中から棺が出てきた。
「またっすか……」
ペートは顔を顰めて攻撃準備に移るも、獣型のロボットにぐるぐる巻きにされて押さえ込まれてしまった。
「ちょっ!?」
「これより、『メインブレイン』との交信を開始します、権限がない為、もしくは敵意を感じた為拘束しました」
ハーミュラ達はその言葉を聞いて構えようとしていた武器をそっと仕舞い込んで、ペートに近づいた。
「拘束は後ほど解きます、それまで触らずにいてください」
その様子を見ていたロボットは、ピシャリと二人に言うと、棺の中から出て来た………ケモ耳の美しい女性と話し始めた。
「質問です、何故約1000年間、あのステーションは放置されていたのですか?何故私との連絡が途絶えたのですか?」
「……久しぶりですね、ショート」
『メインブレイン』から出て来た今度は服を着たケモ耳の女性は、なんと意外にも穏やかな顔つきと優しい口調でショートと呼ばれたロボットに話しかけた。
「……質問に答えなさい『ハーヴェイク』」
「……『タワー』から切り離されて私からそちらに対する権限は無くなってしまったのです」
「そうですか……では何故人々を誘拐したのですか?」
「……『タワー』からの指示です、私に逆らえるはずもありません」
「………」
ショートは唸ると、尻尾をユラユラとさせながらキューブの隣に座った。
「分かりました、少し調べさせて頂きます」
「はい……」
そう言ってショートは尻尾をキューブに接続して、ウィンウィンと機体を駆動させながら止まった。
すると、ハーヴェイクがハーミュラ達の方を向いて微笑みかけた。
「貴方達と話すのは初めてですね?ハーミュラ、アイニー?」
「「!!」」
当然と言えば当然なのだが、ハーヴェイクは聖母の如くの微笑みで二人に笑いかけた。
二人はその表情に安心した様に一歩前に進み出したが、ペートの尻尾が二人を押し留めた。
「何やってんすか?アレは敵っすよ?」
「でも……」
ハーミュラはそう言ってハーヴェイクを見ると、彼女は表情を変えないまま彼等をうっすらと目を開けて見つめていた。
その顔にハーミュラは顔を青くさせた。
「どうしたの?」
「……父さんと母さんを返してくれますか?」
「『タワー』の命令は絶対なのでそれは出来ません……ごめんなさい」
その言葉を聞いハーミュラはゴクリと唾を飲み込んだ。
きっと理解したのだろう、目の前にある人によく似たものは話が出来るだけで、通じはしない者であると。
彼は身を固めて一歩後ろに下がった。
「何やってるの?ハー君?」
「アイニー……もうちょっと様子を見よう」
彼女にそう言い、ハーミュラは手を引いてペートの背後に下がった。
ハーヴェイクは残念そうに笑うと、ペートに手をかざした。
次の瞬間ペートの体が室内の壁に叩きつけられて地面に倒れ込んだ。
二人は目を見開いてハーヴェイクを見ると今度は、二人に向かって手を向けていた。
「残念です……強引ですがすこしおとなしくなって貰いましょう」
二人は同時にその場から飛び退くと、その場に残していた機材が壁に叩きつけられた。
そしてそれと同時に部屋の扉が開いたが、そこからロボット達が溢れてくるなどは無かった。
外では何やら戦闘が行われているらしい、誰かは兎も角、二人はハーヴェイクに向き合った。
「僕たちを育ててくれた貴方に恩を仇で返すのは気が引けますが、今の貴方を見過ごす事はできません!」
「行くよ!ハーミュラ!」
二人は武器を構えてハーヴェイクに飛びついたが、下で待機していたショートが二人を地面にはたき落とした。
すぐに立ち上がると、飛んできた電磁ネットから逃れた。
アイニーは唇を噛むと、ペートに話しかけた。
「私がショートを止めるから、ハーくんとハーヴェイクをお願い!」
「うぐっ……了解っす」
ペートは縄を無理やり切ってヨロヨロと立ち上がると、腕についている機械を操作して背負っている鞄が変形して彼女を包み込んだ。
「私が捕まえるからトドメを」
「了解です!」
ペートが残像を残して移動すると、ハーヴェイクはそれに反応出来ないのか、羽交い締めにされた。
「なっ!このっ!」
可愛らしくもがいていたが、そんなものはハーミュラには関係なく、ハーミュラも飛んでハーヴェイクに手をつこうとしたが、それよりも先に彼女がハーミュラを吹き飛ばす様に前に手を突き出して、彼を吹き飛ばした。
しかし、ハーミュラは一瞬の間に腕からアンカーショットを打ち出してペートの尻尾に巻きつけると、急速に接近してハーヴェイクに手をついて電流を流した。
「ああああ!!」
ハーヴェイクは激しく体を震わせて体から煙を吹き上げながら地面に倒れ込んだ。
「ハーヴェイク!」
ショートが倒れたハーヴェイクに気を取られているとアイニーがその一瞬をついてショートに電気を流して気絶させた。
こうして彼等は少し危なげはあったものの故郷であるハーヴェイクの解放に成功したのである。