地下通路
ガタガタと揺れて乗り心地の悪く、車内で既に顔が真っ青になっているウェイトとハーミュラは何度も溜息をついて窓に手をかけた。
「開けちゃダメっすよ、見つかるんで」
操縦席に座るペートの声に二人は何度目かの溜息を吐いた。
先程から二人は何度もこうして外の空気を吸おうと窓に手をかけているのである。
「もう少しなんで我慢っすよ」
「「……」」
返事をする気力もないのか二人は頷くと、車内の壁にもたれ掛かった。
「……見えたっすよ」
その言葉を聞いてアイニーは車の窓に張り付いた。
その瞳は少し潤んでいたが、彼女は目を拭うとハーミュラの方を向いた。
「しっかり!お父さん達を助けるんでしょ!?」
「う、うん……でもそれでも……うっ」
青い顔をするハーミュラは揺さぶられ、更に顔を青くさせるも何とか踏みとどまり窓の外を見た。
「……」
彼は街を見て何を思ったのだろうか。
2日ほど前まで自分の住んでいた街を憂うのだろうか?
家族の心配だろうか?
それともこの先に対する不安だろうか?
はたまた全て?
それを知るのはハーミュラただ一人のみだが、彼は目を閉じて手を顔の前で合わせて祈る様にした。
「そろそろ降りるっすよ」
ペートの声が聞こえてウェイトはジャケットを羽織り、ポケットに手を突っ込むとジャケットの内側から鎧が出て来てウェイトを包み込んだ。
その姿は夜の街に出て来れば都市伝説として語り継がれるであろうほど、少し不気味な感じがした。
と、そうしてウェイトに気を取られていると前の方で着替えていたアイニーが後方にやって来た。
「早く着替えないと着くよ?」
「わ、わかってますぅー!」
ハーミュラは急いでケースを持ち上げて手をついた。
着付けが完了すると少し慣れ無いのか、ギクシャクと手足をぶらぶらとさせた。
その様子を見てアイニーは笑うとハーミュラとウェイトの手を取った。
「二人とも!頑張るよ!えい!えい!おー!」
「何だそれは?」
「ニードさんから気合の入れ方って教えてもらったんだ!」
「ニードさん色々知ってるんだなぁ」
と、話しているとペートも後方にやって来た。
「それじゃあ後方を開けた瞬間皆んなで壁までダッシュっすよ!三秒前!」
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車の後方が開いたのと同時に車は停車してハーミュラ達は飛び出した。
ロボット達の姿は今は見えずにいたが、急いで彼等は壁まで走った。
ペートは一瞬振り返って車に指を刺すと、車は偽装を解除して急発進した。
すると、街からロボット達が溢れ出てきて車に向かって走り出した。
それを彼等は確認する事なく壁に着くと、四人はそれぞれ壁に足をついて壁を走って登り始めた。
時々壁についている火砲に驚いて体をびくつかせることもあったが、一番先に頂上についたのは意外にもウェイトだった。
「はぁ……はぁ……このスーツ……高性能過ぎんか?」
その次に到着したのはほぼ同着でアイニーとハーミュラだった。
そして最後にペートが着くはずだったのだが……尻尾が火砲に少し触れてしまった。
カンッと小気味良い音が鳴ると、一瞬の間の後に警報と凄まじい弾幕がペートを襲った。
ハーミュラとアイニーはペートの手を掴んで勢いよく引き上げると、弾丸の川がほんのギリギリのところでペート掠めて流れて行った。
「ご、ごめんなさいっす……流石に慣れなかったっすね……」
「急ぐぞ!『メインブレイン』の扉が閉まりかねん!」
ウェイトがそう急かすと、ハーミュラ達は頷いて壁から飛び降りた。
空中で何度かホバリングして屋根の上に着地した。
すると、壁の向こう側から何体かのロボットが飛んできてハーミュラ達の後ろに着地した。
「私達が殿に着く、走れ!」
飛んで来たのはメタンの操作するロボットでメタンのその声を聞く前に既にハーミュラ達は走り出していた。
当然屋根の上にロボット達は上がって来ており、見知った顔もあったがハーミュラは少し戸惑いながらも両手の電撃で戦闘不能にして行った。
アイニーは街の様な物を使って痺れさせ、ウェイトはステッキを使って相手をダウンさせていた。
そうしながら戦闘を続けていると、地下への入り口が見えた。
全員そこに飛び降りると、メタンを残して地下に入って行った。
「あー、ハーミュラ念のためにコレを三箇所に分けて置いておいてくれ」
メタンがハーミュラに何か小さな機械を手渡し画面につける場所を表示させた。
「それでは幸運を祈る」
ハーミュラは頷くとアイニー達を追って地下通路の奥に入って行った。
地下通路は狭く、ロボット達が川の様に来ようとしていたがその前に四人は使われていない通路に逃げ込んだ。
完全にハーミュラ達を見失ったロボット達は地上にいるメタンに向けて走って行った。
「……ふぅ、ここまで来れば一息付けるわね」
「そうだね……ここに一つ」
ハーミュラはメタンに指示された通りに機械の一つを通路の壁に貼り付けた。
ウェイト達は一度その場所に座り込んで、ニードから貰っていた水を飲んで地図を見た。
「ここから先は暗い中を歩いて行く感じだな……」
「そうですね……」
アイニーは肌寒いのか少し腕をさすった。
ハーミュラは彼女にそっと近づいて手に少し火を灯した。
「……ありがと」
「どういたしまして」
ハーミュラはアイニーに顔が見えずとも笑顔を浮かべた。
すると、ウェイトは咳払いをして立ち上がった。
「行けるか?」
「「はい!」」
二人は顔を見合わせて頷くとウェイトと共に暗い通路を歩き出すのだった。
通路を歩いているとハーミュラは首傾げた。
「どうしたの?」
「いや、ここの雰囲気何処かで見覚えが……」
そう言うハーミュラは分からないと言わんばかりに首を傾げていたがその正体は次の通路の扉をこじ開けた時に明らかになった。
通路の中を照らすと、そこには何匹もの家畜の死骸が転がっていた。
「うっ……」
アイニーは顔を顰めると手で口と鼻を覆った。
ウェイトは興味深げに近づいて周りを見渡した。
ハーミュラはそこでようやくここの場所の正体に気がついた。
「ここ……殺処分場だ」
先程アイニーが寒気を感じていたのは恐らく、殺処分した家畜の肉が腐るのを遅らせる為に解体場を涼しくしているのだが、恐らくその場所がそうだったのであろう。
ハーミュラは死んだ家畜達に対して手を合わせると、再び歩き出そうとしたが、死んでいる家畜の中にまだ動いている物を見つけた。
一瞬の困惑しての後に、ハーミュラは周りの死体の状況から死後何年以上も経っていることが分かり、その動いている物がこの場ではあり得ない物だと気がついた。
その答えを出した時点で時はすでに遅く、動いていたものの中から何かが飛び出してハーミュラに飛びついた。
「ハーミュラ!」
ウェイトとアイニーが慌てて引き離そうとするも、ハーミュラに飛びついた物は声を上げた。
「前回の視察から3852日が経過、牧場の家畜は全滅しました……続いての指示をお願いいたします」
男の声でそう言う獣型の人程のサイズのロボットは尻尾を振りながらハーミュラに告げた。