回帰
ハーミュラはドゥーが言った事が信じられずに、もう一度繰り返した。
「僕には戦力を分担すると聞こえたんですけど……」
ドゥーは苦笑いをして応えた。
「残念だけだ、そう言ったんだよ」
絶望の表情を浮かべるハーミュラに対してドゥーは優しい表情で説明した。
現在メイカーを陥落させて何千台ものロボットやアンドロイド、人造人間達を支配下に置いたとは言え、他の街からこの重要拠点であるメイカーが攻められるのは必然であると。
「その為、私は留守をしてこの『メインブレイン』と接続して、お前達を遠隔でサポートする事になる」
メタンがそう言って部屋の中に何体かの武装ロボットを入れた。
「彼らは私とニード、ウェイトで急遽作成した者達だ、ハーミュラ達の方につけさせるから安心してくれたまえ」
ロボットの見た目はメタンににているが武装の面で言えば、本物よりも少し頼りなさそうに見えた。
「少し頼りなさそうに見えるのも仕方あるまい、私の装備は一応最高で最先端の装備品だからな」
ハーミュラの心配そうな表情を読み取ったのかメタンは、自慢げにそう言うと続けた。
それでも量産型……今作ったロボット達の方が優れている事もあると、一つはニード達しか作る事の出来ない小型エネルギーシールド技術である。
エネルギーシールド自体は『ハーヴェイク』の門などに使用されており目にしたことはあるのだが、それは『街』に送られ続けている莫大なエネルギーが為せる技である。
そんなエネルギーを食う物を小型化して、しかもロボットのような複雑な形に纏わせる……。
「アレ?思ったよりもニードさん達凄い人なんじゃない?」
「ニードだけでは無いぞ、凄いのは」
メタンは続けて説明した。
ウェイトが取り付けたのはロボット達の周りにスクラッパーズの様な電波を飛ばす装置だが、ウェイトが作ったチョーカーを付けていればロボット達でも改良手術を受けた人間でも問題無く動作出来るとの話だった。
そして、『メインブレイン』も端末越しにならば動作不良を起こして深刻な事態にはならないと続けた。
「コレは長年のスクラッパーズ達への研究結果の一部だな」
そう言って溜息を吐き、ウェイトは腕を組んでどこか悲しげにそう言った。
恐らく、スクラッパーズを調べる際に何か色々とあったのだろうが、それは今聞くべきことでは無いとハーミュラは理解している様だった。
そのためハーミュラはその言葉を無視する様な形でメタンに話しかけた。
「じゃあこのロボット達が居れば無敵って事ですか?」
メタンはチッチッチと舌を打つような音を出して、人差し指を振った。
「残念だがこのロボット達が操作出来るのは地下への入り口までだ。そこから先は私の電波よりも『メインブレイン』の電波が強くなってしまい、最悪コイツ達の操作権を奪われかねん」
持ってきた動作していないロボットの頭をペチペチと叩いて他にもと理由を説明した。
「一応解除出来るとはいえ、『メインブレイン』本体の近くでスクラッパーズの電波を飛ばすのは危険だからな……」
その場にいる全員、目の前で『メインブレイン』が『スクラッパーズ』になった時の事を考えたのか未払いをした。
「と、兎も角、地下に入ると自分達の身は自分達で守らなきゃならん」
と、そこでペートが何か重そうな物を持ってやって来た。
「ニーさーん、出来たっすよー」
「ご苦労さん!コレよコレ!」
ニードはペートから鎧の様な物を受け取ると、全体を見回して頷くとハーミュラを手招きした。
「着てみぃ」
「え?ぼ、ぼくですか!?」
「お前以外誰おんねん、はよ!」
ハーミュラは恐る恐る鎧の前に立つとニードの言われる通りに、鎧の背面の出っ張りに手を付いた。
すると、出っ張りからハーミュラを包み込む様な形で鎧が装着されると、顔までしっかりと装着された完全装備の姿だったが、その姿はどこかこちらの世界の車掌と軍服を掛け合わせた様なデザインの鎧だった。
そんな見た目はとりあえず、ハーミュラは新しい物好きなだけあって、興奮した様な声でマイクに向かって話した。
「凄い……!」
「出力は一応負荷ギリギリまで出せる様にはなっとるよ、ただ出したら次の日か、数時間後には凄まじい筋肉痛になるで」
そう言って忠告するニードの話を聞いているのかいないのか、ハーミュラは興奮した様にシャドウボクシングの様な事をしていた。
「反応速度が上がってる!レスポンスも問題無いし!脚力はどれだけ……!」
次の瞬間ハーミュラは天井に頭を強打して地面につぶれる様に倒れ込んだ。
メタンは溜息をついて、ハーミュラの首根っこを掴んで立ち上げると、頸部分にあるボタンを押して鎧を小さなトランクケース型にした。
「……持ち運びはそれで出来るやろ、さっきみたいに装着するんやったら背中に装着されるリアクターの両側面、分かるやろ?」
ハーミュラはクラクラする頭を押さえながら、かがみ込んでケースを見た。
すると、ケースの一面に円状のリアクターが存在していた。
「その両隣に手を置いたら装着」
言われるがままに手を置くと先ほどと同じ様に鎧が装着された。
しかし、今度は脚部までの装着時間に少し遅延があった。
「箱型からはちょっと時間掛かるから気ぃ付けや……鎧型は持ち手のボタンを押したらなるで……一応自動で飛んでくる弾丸とかはたき落としてくれるけど、『メインブレイン』の近くやったら盗られるし、弾丸も全弾落とせる訳や無いから過信しやんといてや」
「割とまぁまぁな性能じゃ無いですか」
着た鎧を脱ぐ為に先程押された頸のボタンを自分で押して解除すると、箱になった鎧の持ち手の部分のボタンを押した。
箱はもう一度鎧の姿になり、周りを見回した。
「んー、一応あと鎧来た状態から鎧のまま脱ぐのはどっちかの手を胸の前に置いたらなるで」
「へぇ〜……」
感心するハーミュラだったが、その隣で羨ましそうに見ていたアイニーが遂に爆発した。
「私のは無いの!?」
そんな様子のアイニーを見てニードとドゥーは笑うと、ペートが持って来ていたもう一つのものを渡した。
それは鎧というよりかは……普通の長袖でスカートタイプの軍服だった。
「………」
明らかに不服そうな顔を見てドゥーがニードを見て頷き合うと説明を始めた。
「それは君の身体能力に合わせた物で、まぁ一度着てみるといいよ」
アイニーは疑念の様子で服を着ると、意外にも目つきを鋭くすれば似合う見た目で、ハーミュラは思わず見惚れてしまった。
「……何?」
そんな事はつゆ知らず、アイニーはそれでも不服そうに顔を顰めたいるのだった。
「似合ってるよ」
ハーミュラがそう言うもアイニーの顔は晴れなかった。
「その服には色々仕込み武器があるんだよ」
それを聞いてアイニーは自身の服を弄り始めた。
見ていたドゥーは仕方なさそうにアイニーのそばに近寄ると、どこにどんな仕掛けがあるか話し始めた。
「先ずは手袋で……」
二人で話している内にとメタンは切り出した。
「あの二人は後程作戦の概要を転送するから問題無いとして、君達には作戦を伝えておこうと思う」
作戦内容はシンプルだった。
メタン曰く、ペートが操縦する小さな乗り物で『ハーヴェイク』の近くまで接近、そこで気づかれるだろうから近くに着くと車を乗り捨てて、ペートの遠隔操作で車を操縦する。
その間に『ハーヴェイク』に壁面から侵入、壁面にある火砲は鎧や服のジャミング効果で反応する事は無いらしい。
そして、内部に侵入すると、メタンが操縦するロボットの特殊装備隊が地下入り口を封鎖そして守備する形となり、ハーミュラ達が地下に侵入、すぐ近くにある使われていない通路を使用しながら『メインブレイン』の部屋の近くまで移動。
その後恐らく控えているであろう『メインブレイン』の生体ユニットを説得、若しくは無力化して街を解放する。
ここまでが一連の流れだった。
一応今回の作戦で使用した『列車』のドリルが使えないのか聞いたが、既に『メイカー』が各街に潜入方法を伝達していた模様で、その方法は使えないとの事だった。
つまり、出来る限り戦闘は避けながらの正面突破、そういう事になる。
作戦が伝え終わると、ハーミュラは自身の体が震えている事に気がついた。
その震えには心当たりがある様で、目を閉じて深呼吸したが止まる事は無い様子だった。
「っうぇい!……安心せぇよ、俺が作った鎧は絶対にお前を守るからなぁ!」
そう言って唐突にニードがハーミュラの背中を叩いてさすった。
ハーミュラはニードの顔を覗き込むと、何処か安心できる笑顔で、そう、疑う余地も無いほどの自信満々の顔で笑っていた。
それでも震えは止まらなかったが少し呆れた様で、しかしどこか安心したのか震えは少しマシになっていた。
「……もう、死んだら『オバケ』になって出て来ますよ」
「あっはっはっはっはー!」
ニードは愉快そうに笑うと、それは無いと断言して彼自身の準備に行ってしまった。
「……」
ハーミュラはその後ろ姿に黙って頭を下げると、振り向いて作戦をもう一度不備がないか話し合っているアイニー達の元へと歩いて行った。