第九話 青天の霹靂
祭りも終わりが近い……
評価とブクマが増えてる!Σ(゜ω゜)
入れてくださった方々ありがとうございます!
それから昨日は誤字を一杯報告してくださいアリガトウ(>᎑<`๑)♡
とっても助かりました!
エリサベータと婚約して二年が過ぎた。
レイマンも前ナーゼル伯の力を借りず既に伯爵領を一人で治めるようになっており、若いながら領主として身を立てている。
レイマンは十八歳、エリサベータは十六歳。一般的な貴族としてはまだ未熟な歳と見られるが、領主として既に身を立てている現状なら配偶者を得ても問題はないと思われた。
──もう結婚を申し込んでもいいだろう。
レイマンとしては早くエリサベータと結婚して安心したかった。
何せデビュタントであれだけ牽制したにも関わらず、エリサベータに数々の縁談が持ち込まれているのだ。通常ならありえない婚約者を馬鹿にした所業である。
だが、これはエリサベータの美貌がそれだけ男達を惑わせているということだ。こうなると強硬手段に出る愚か者もいないとは限らない。レイマンはやきもきする気持ちを抱えた毎日だった。
そこで親友ギュンターとも話したが、さっさと結婚すれば良いという話しになったのだ。そのギュンターは去年ナターシャと晴れて婚約を結んでいた。
そのナターシャも色々な意味で王都を騒がせている美少女なのだが、何せデビュタントの印象が強い。エリサベータと違い誰も怖がってちょっかいをかけないので、レイマンとは逆にギュンターは焦らず気楽なものだ。
──結婚の申し込み。あの玉を早く用意しないと。
エリサベータと結婚……
まだ結婚してもいないのに想像しただけでレイマンは顔がにやける。かなり浮かれていた。
しかし、そんな結婚への意気込みに燃えるレイマンに冷や水を浴びせる出来事が起きた。
王都より火急の知らせが届いた。
その王都からの手紙を読んでレイマンは固まった。
書かれていた内容は、ファルネブルク侯爵の嫡子となったレイマンの異母兄が実は兄ではなく、義母が別の男と作った不義の子であると発覚したというもの。
貴族の、しかも侯爵という高位貴族の簒奪を狙った謀計である。王都を騒がす大事件となっているようだった。
取る物も取り敢えずレイマンは王都へと出立した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ファルネブルク侯爵家の簒奪未遂。封建主義の強いクロヴィス王国では最大級の重犯罪だ。ファルネブルク侯爵の後妻とその息子は当然死罪となった。
問題はこれだけに止まらなかった。この原因を作ったファルネブルク侯爵にも累が及んだのだ。彼の驕慢な性格が多くの敵を作っており、これ幸いとばかり多くの政敵が攻勢にでていた。
一時は王家よりファルネブルク家断絶の可能性まで示唆されたのだから、ファルネブルク侯爵と関わりのある貴族達も戦々恐々となった。これにより、僅かにいた味方も蜘蛛の子を散らす様にファルネブルク侯爵の元から逃げ去った。
これで父ファルネブルク侯爵が失墜するのはレイマンとしては全く構わなかったが、縁座で自分まで巻き添えになっては堪らない。
王都に到着したレイマンは、さっそく親族達を纏めて政争に身を置いた。
彼の尽力がファルネブルク家を救った。最終的にファルネブルク侯爵は責任をとって引退、前ナーゼル伯を後見としてレイマンが嫡子となることで騒動に決着をつけた。
その後のレイマンはまさに順風満帆であった。
彼はレイマン・ファルネブルク・ドゥ・ナーゼルを名乗り、ナーゼルの統治の他に、不在のファルネブルク侯爵の代りに執務を取り仕切った。こうして仕事に追われる忙しいながら充実した日々を送った。
忙殺されことで、エリサベータへの結婚の申し込みが先延ばしになったのは痛恨事ではあったが、さすがにファルネブルク侯爵の嫡子の婚約者に手を出す愚か者はいないだろう。彼に前のような焦りはない。
「エリサは王都が苦手だろう?ヴィーティン領に居ても良かったんだよ」
王都のファルネブルク邸に訪れたエリサベータをレイマンは優しく両腕の中に迎え入れ、その額に軽く口付けをする。
「私はレイ様の婚約者です。レイ様のお側が私の居場所です」
エリサベータは王都で仕事に忙殺されてナーゼルに帰ってこられないレイマンを追って王都に移住してきた。
エリサベータの王都での交友関係に不安があったが、ギュンターの婚約者となってナターシャも王都に移り住んだのでレイマンも胸を撫で下ろした。
嫡子になったレイマンは多忙を極めたが、それでもエリサベータとの仲を確実なものにしたい彼は、無理をしてでも逢瀬の時間を捻出し、二人で王都の社交界にも頻繁に顔を出していた。
「エリサはいつも綺麗だが、今日のドレスの青は特に良く似合う」
「ありがとうございます。青色は好きです。レイ様の色ですから」
「私はエリサの青の方が好ましいと思うよ」
夜会の場でお互いの青い瞳を見詰め合う二人の仲は有名になっており、もはや間に割って入るような無粋者もいなくなった。
寧ろこの頃に注目されていたのはファルネブルク侯爵家やエリサベータよりもアグネス・ハプスリンゲ公爵令嬢であった。
その理由はエリサベータと共にクロヴィスの双玉と呼ばれる美姫が未だに結婚どころか婚約者もいなかったからである。
様々な憶測が飛び交った。誰か想い人がいるとか、身分差の禁断の恋だとか、不治の病だとか、実はもう死んでいるだとか……荒唐無稽な数々の噂が貴族の、特に令嬢達を喜ばせているようだ。
こうしてレイマンは侯爵としての執務とナーゼルの統治という二足の草鞋にも精力的に取り組み、エリサベータとの逢瀬も決して疎かにしなかった。
そんな公私共に多忙な日々も気がつけば一年が経過していた……
この一年でレイマンは侯爵の仕事とナーゼル領の統治にある程度の目処も付けた。時間に余裕を作る事もできるようになってきている。
「そろそろ結婚の話しを進めても問題無いだろう」
もう頃合いだろう。ファルネブルク侯爵家を継いでエリサベータと結婚すれば何もかもが上手くいく。レイマンはそう信じて疑わなかった。
なんとなしにレイマンは執務室の窓から外を眺めれば、季節はもう秋から冬へ変わろうとしていた。
枯れた葉も木々からすっかりと落ち、幹と枝だけの淋しい姿を晒しており、どんより暗い曇り空と相まって不吉な様相を見せていた。
「兄上!」
執務室に突然侵入してきたのは五歳下の同腹の弟ヴェルリッヒ・ファルネブルクだった。
彼はレイマンがナーゼルの地に追いやられた時にはまだ五歳と幼く、さすがのレイマンの父もヴェルリッヒを追い出す事もできずに王都に住まわせていた。
もっとも邪険にして別邸に閉じ込めていたようだが。
その為、ヴェルリッヒと父の仲も健全なものではなく、逆に王都に戻りファルネブルク家の窮地を救った兄レイマンを英雄視していた。
一緒に過ごした期間こそ短いが、皮肉にも父親への悪感情を共有することで兄弟仲は良かった。
「ヴェル、そんなに慌ててどうした?」
「あ、姉上が!姉上が!」
己を慕う可愛い実弟ヴェルリッヒがもたらした報告は、一年前にもたらされたファルネブルク家のお家騒動の時よりもレイマンには衝撃的な内容であった。
明日はエリサベータに魔の手が……