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第五話 王都の親友

レイマンは青年期にエリサベータはまだ少女期

幼年期ではありませんが、一応「幼年期編」ということで

 

 それから五年が過ぎた。レイマンとエリサベータはその後も交流を続けていた。


 レイマン十六歳、エリサベータ十四歳。


 レイマンはナーゼル領の統治を現ナーゼル伯から殆ど受け継いでおり、見事にナーゼルの地を治めるその手腕は王都でも注目される程になっていた。逆にファルネブルク侯爵の失政と現嫡子の素行の悪さが王都で問題視されており、二人の悪評が立つほどに彼の評価は上がった。


 しかも彼は白銀の美しい髪と深い青色の瞳でありながら、優し気な目元の美少年である。仕事で王都へおもむく度に、自然と少女たちの熱い視線を集めていた。


 エリサベータの方も周囲の予想通り美しく成長し、人品も清い川の流れのように清廉でよどみがない。既に王都でも彼女の美貌が噂になっていた。曰く、咲き誇る美しい花も、誇らしげに輝く満ちた月も、彼女の前には恥じらって蕾に還り、雲に隠れると。


「レイ様!」


 レイマンがナーゼル領のヴィーティン邸を訪れると、エントランスの奥からその噂の羞花閉月しゅうかへいげつ楚々(そそ)たる令嬢は、同じく王都で噂の辣腕らつわん領主の訪問に噂にたがわぬ美しい容貌(かんばせ)を綻ばせた。


 その可憐に咲き誇る笑顔に花も恥じらうとはまさにこのこと。見慣れている筈のレイマンも見惚れてしまった。


「嬉しそうだね」

「はい、とても嬉しいです。お忙しいレイ様が私に逢いに来てくださったのですから」


 頬を朱に染め喜ぶ姿が、自分の為だと言われてレイマンの顔も綻ぶ。この心から幸せを表現した様な二人の笑顔にヴィーティン邸に彩る周囲の花々もかすみそうであった。


 レイマンとエリサベータは初めての出会いから着実に交流を続けてきた。彼女が提案した慰問も、時間の許す限り二人で続けてもいる。


 間違いなく二人の絆は深まっているはずだ。


──時間がない。


 だがレイマンは焦っていた。


 エリサベータは類稀たぐいまれなる美貌だ。既に王都でも噂になっている事はレイマンも知っている。このままでは何処の貴族から婚姻を迫られるか分からない。


 彼女のヴィーティン家が高位の貴族であれば良かった。しかしヴィーティン家は子爵位。高位の貴族から目を付けられればその打診を断りづらい。


 王都ではその美貌が周知されているアグネス・ハプスリンゲ公爵令嬢が数々の縁談を断っているらしく、そちらの方に話題が集中していた。しかし、エリサベータがデビュタントで王都を訪れれば、彼女は数多の貴族令息達の心を奪う事だろう。


 このクロヴィス王国における貴族令嬢のデビュタントの年齢は十五。来年にはエリサベータも王都に赴かなければならない。


──もう今しかない。


 レイマンはエリサベータとの婚約を申し出ようとしていた。ナーゼル家からヴィーティン家に打診をすれば良いだけなのだが、レイマンは自分の口で直接エリサベータに懇請しようと考えていたのだ。もっとも、そう決心して既に一年以上経過しているのだが……


──今日こそ!


 そう心の中で何回思ってきたことか。


 しかし、エリサベータと自然に接する事が出来る様になりながらも、自分の恋心を打ち明ける段になると勇気がいつも萎んでしまうレイマンであった。そこで彼は強力な助っ人を王都より呼び寄せた。


 レイマンの横には大柄な少年が立っていた。かなり鍛えている様で、服の上からでも筋肉の隆起が分かるほど見事な体躯の持ち主である。


 身長と厚みのある体躯が他人に大きいと印象付ける様相だが威圧感はない。


 その髪は蜂蜜色の癖っ毛で、瞳の色は温かみのある明るいグリーン。美男子ではないが人好きのする柔和な顔。容姿も表情も穏和を絵に描いたような少年だった。大きな草食動物を連想させる。


「あら?此方こちらの方は?」


 レイマンが人を連れてエリサベータの元を訪れた事は今まで無かったため、エリサベータは可愛らしく小首を傾げた。


「ああ、こいつはギュンター。僕の唯一にして無二の親友だよ」

「ギュンター・フォン・エッケルディーンと申します。気軽にギュンターとお呼びください」


 レイマンが廃嫡された折、貴族の子女達がレイマンから離れて行った中で唯一以前と変わらず接してくれたのが、この大柄な少年ギュンター・フォン・エッケルディーンだった。


 彼の父エッケルディーン伯爵は豪放で実直。レイマンから距離を取るように言い含める親達も居た中で、レイマンとの親交を捨てなかったギュンターを手放しで褒めるような気質であった。


「ご丁寧にありがとうございます。エリサベータ・ヴィーティンと申します。エリサベータと気軽にお呼びください。失礼ですが、ギュンター様はエッケルディーン伯爵の?」

「はい。嫡男になります」


 エリサベータが手を差し出すとギュンターはその手を取り甲に軽く口で触れる。エッケルディーンは武勇で名をせた貴族家で、一族から将官や騎士を多く輩出している。


「今日はレイからかねがね自慢を聞かされていた幼馴染を紹介してもらう為に王都より参った所存です」

「自慢?」

「はい。レイが自慢するのも頷けます。きっと来年のデビュタントは貴女の話題で独占されるでしょう」

「そんな私など……王都には高名なハプスリンゲ様がいらっしゃいます」

「アグネス・ハプスリンゲ公爵令嬢ですか……彼女も類稀な美貌の持ち主ですね」

「才女でもいらっしゃるとか」

「エリサベータ嬢も負けず劣らず才色兼備だとレイは息巻いていましたが」

「な!?」「おい!ギュンター」


 友人への惚気を暴露されてレイマンは慌てふためき、エリサベータは羞恥で顔を僅かに赤らめた。


「今日はこうやって知己を得た事で満足しました」

「私もレイ様のご友人をご紹介頂き歓喜に堪えません」


 落ち着きを取り戻したエリサベータはああと何か思い出した様に声を上げた。


「そうだわ。ちょうど良かった。私もご紹介したい友人がおります。今日は私の親友のナターシャが来ているんです」

「げ!スタンベルグ嬢が!」


 スタンベルグ男爵領はヴィーティン子爵領を挟んでナーゼル領の反対側に位置する。そのためスタンベルグ男爵令嬢のナターシャは幼い頃よりエリサベータとは仲が良い。当然レイマンともエリサベータを介して交流があったのだが、レイマンはその美少女のことが苦手だった。


「あら!随分な反応ですこと」


 先ほどエリサベータがやって来た方からコツコツとヒールの立てる足音が響き誰かが近づいてい来るのが分かった。その正体に気がつきレイマンは顔が引きひきった。


「ナ、ナターシャ……」


 そのエントランスの奥の陰から現れたのは一人の赤髪の少女だった。


本日はギュンターのターン!

明日は親友たちのターン!

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