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鍵屋?

 そこは、鉄筋コンクリートで出来た、普通のマンションだった。谷上が言うには、こういうどこにでもある建物の方が、みんな見過ごすから使いやすいんだそうだ。

 確かに、この住宅地にわけの分からない魔物と闘う連中がいるなんて、誰も思わないだろう。

 マンションに入るとすぐに、エレベーターに乗る。谷上が押した階が、地下13階だったことに眼を疑った。

「俺の側から離れるなよ」

 扉が開く前に、谷上は念を押す。

 ありきたりな効果音が鳴ると、エレベーターの扉は素早く開いた。

「谷上、戻りました」

 そこに広がる世界は、まさに異世界。大小の画面が壁に敷き詰められ、世界各国の映像が流れている。みんなヘッドフォンを付け、何やら呟いていた。

 異様な光景だ。

 まるで、同じ動きしかできないロボットみたいだ。

「ここが…」

「鍵屋や」

 谷上は、首から掛けていた鍵を、エレベーターの横にある鍵穴に差し込む。


 ヤガミ エントリー


 鍵穴の上に表示された。

「キーパーソンは、鍵屋から指令を受けて魔物退治に向かう。魔物に関する世界各国からの情報が、ここに集まっとるんや」

「すごい…」

 ありきたりだが、それしか出てこない。

「お帰り、ジョー」

 近づいてきたのは、長い黒髪の女性。すっきりとした顔立ちは、無駄なものが一切なく

「美しい」という言葉がぴったりだった。

「そちらは?」

「あぁ、日向シンヤや。比上が覚醒させたキーパーソン」

「…へぇ…はじめまして。未弘サユリよ」

「日向シンヤです。はじめまして」

 握手した瞬間、彼女の冷たい手に身震いした。

「…井尻さんがお呼びよ」

「分かっとる」

 谷上が歩き出す。

 日向も、慌てて追い掛けた。

「ねぇ日向君…」

「…はい」

 未弘の鋭い目に、少し構える日向が映る。

「比上は元気?」

 返答に困ったのは、彼女から微量だが殺気を感じたからだ。

「…はい」

 それだけ言って、すぐに背を向けた。

 いつまでも、未弘という女が自分を見ているような気がした。

「あの人は?」

「比上と同期。頭がキレる、キーパーソンや」

 確かに、知能は高そうだ。

「せやけど、比上とは昔から馬が合わん。今も、勝手に動くあいつに未弘は怒りを感じとる」

 それなのに、元気かどうかは気になるのか…。

「キーパーソンは、癖がある奴が多い。それに、仲良しこよしじゃ務まらんからな」

 続けて谷上が言う。

「時には、仲間を犠牲にすることもあるんや」

「凄い世界だね」

「そうや。お前がおるのは戦場や」

 後には戻れない。

「ここや」

 長い廊下を歩くと、真っ黒な扉にぶつかる。見ただけで、日向は開けるのを躊躇した。

「井尻って…どんな人?」

「めちゃくちゃええ人やで。今は現役退いてるけど、昔はえらい強かったって噂や。まぁ少し強引なとこもあるけどな」

 谷上が扉を開ける。

 どんな世界がそこに広がってても、後戻りはできない。


 …イルミネーション?


「いらっしゃーい!!」

 身構えていた日向のかちかちの身体に、大男が飛び付いてきた。

 誰!?

「谷上、ただ今戻りました」

「おかえりぃ谷上!淋しかったよぉ。こわーい比上君には会えたかい?」

 苦しい…。

 首が完全に絞まってる。

「はい…けど、あかんかったです。聞く耳持たず」

「だろうねぇ。聞く耳を持ってる奴は、軽率な行動は取らないからねぇ」

 ギブアップ!!

 助けてぇ!!

「一つええですか?」

「何なにぃ?」

「そいつ、泡噴いてはりますよ」

 やっと、呪縛から解放された。


「いや、悪かったねぇ。若い男子を見ると興奮しちゃって」

 言葉と上目使いに、背筋がぞっとした。

「井尻ケンゴ。ここを取り仕切っているボスだ」

 長身で美男子。白髪がこんなに似合ってる男性を見たことがない。

「日向シンヤです」

 握手をした手は、さっきとは逆で、とても温かい。

「日向君。君のことは以前から知ってたよ…ところでこの部屋どうぅ?」

 え?

「明るくて…素敵な部屋だと思います」

「…ん。素晴らしいぃ!模範解答ぉ」

 ほっと胸を撫で下ろす。

「人を傷つけない言い回しを心得てるねぇ。もしくは…人に嫌われないように言葉には慎重になってる…」

 占い師?

「けど本音は違う。ちかちか光るイルミネーションの多さに、目が痛くなるって思ってる」

 言い当てられて、言葉が続かなかった。そんな日向を、谷上も心配そうに見つめる。 

「どうしてそうなったかは知らないが、気をつけないと…」

 井尻が、日向の心臓部を指差す。

「何が自分の本当の気持ちなのか、分からなくなっちゃうよぉ」

 本当の気持ち…。

「で、比上が彼を覚醒させたんだっけ?」

「そうです。でも、あいつのことやから無理矢理こじ開けたみたいで…こいつに、歪みが生じとるんです」

「なるほど。確かに、無理に解錠させると後が大変だからねぇ…そーいうことを、比上君に考えていただきたいもんだねぇ」

 そう言うと、井尻は静かに日向の胸に手を当てる。

 体内を流れる血が、騒ぎだした。

「いい鍵を持ってるねぇ」

 にっこりと微笑む井尻に、構えていた身体の力が抜けた。

「失礼…」

 日向の首から、鍵を取る。

「いい鍵だ…本当に…」

 イルミネーションに照らされる鍵は、妙に光り輝いていた。

「よーし。壊してしまおう!!」


 次の瞬間、井尻は側にあった青銅の置物で、日向の鍵を粉々にした。

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