正しいやり方?
上空から突然降ってきた少年は、魔物退治が終わると日向の前に仁王立ちした。
近くで見ると、本当に小さい。150あるだろうか。
魔物と闘っていた時は、あんなに大きく見えたのに…。
「俺様は、谷上ジョーあんたは日向シンヤッ!」
こちらの自己紹介までしてくれた。
「フヌケキーパーソンって有名やっ!井尻も笑っとった」
鼻で笑う谷上だが、背丈が小さいせいか、どうにも生意気な事を言っている小学生にしか見えない。
「あの、歳いくつ?」
「17。タメや」
次の言葉が出てこない日向を見て、谷上は睨みを効かせた。
「どーせ、見えへん思ってるんやろ!ばか正直に顔に出しすぎやっ!」
それはよく言われる。
「そういう性格なんだ。悪気はない」
「当たり前や!これで悪気があったら、フヌケの上に最低や」
よく喋るな。と、冷静な感想が浮かんだ。一番強く感じたのが、自分とは180度違う人間だということ。谷上は、ずばずば他人の中に入り込める奴だ。
「まぁええわフヌケ。さっさと比上のとこに案内しいや」
「俺、日向なんだけど」
「知っとるわボケッ!ささっと案内せぇ、フヌケッ!」
一つ言うと、倍返し。
日向の最も苦手なタイプだった。
人との付き合いが苦手な日向に、友達ができたことはない。いつも盛り上がっている輪から外れ、孤独という片隅に追いやられていた。
淋しいだなんて思ったことはないが、楽しそうに笑うクラスメートを見ていると、光りが当たっていない自分が惨めに思えた。
「日向、面倒な奴連れてきたなぁ」
そんなことより、比上が自分の携帯番号を知っていることに驚き、ナイスタイミングで電話が掛かってきたことにも驚いた。
「お前、何で俺の番号知ってんだよ」
「携帯見たから。無用心だぜ、ズボンの後ろポケットに入れとくのは」
さらっと凄いことを言うな。
「それよか、なぁんで谷上がここにいんだよ」
比上が睨みを効かせると、先程まで意気がっていた谷上が眼を逸らしていた。
「井尻が、最近の比上は勝手な行動を取りすぎやから、見て来いって…」
「うるせぇ、何もしない役立たずが…」
比上が毒舌なことはよく分かっているが、井尻という人のことを口にした時の顔は、いつになく険しかった。
「お前、このままノルマ達成しないと、扉見つける前に、鍵を取り上げられるで!井尻も黙っちゃおらんっ」
「だから?何?あたしにはあたしのやり方があんのっ!あんたらと一緒にしないで」
へらへらしていて、人の揚げ足を取る。そんなイメージの比上が、眉間に皺を寄せて怒鳴る姿は、日向には意外だった。
「井尻は認めへんで。いつか制裁にくる」
「上等。きやがれっての」
谷上も、諦めた様子だ。
「気変わったら連絡くれ」
「とっとと消えろっ」
何か言おうとした谷上を気にもせず、比上は背を向け去って行った。
「なんか…複雑?」
「あぁ…比上はキーパーソンの中でも郡を抜いて力がある。鍵屋もソコは認めとる」
「鍵屋?」
「俺らキーパーソンを取り仕切っとる、本部みたいなとこや」
谷上が自分の鍵を見つめる。
「俺も、あいつには何度も助けられた…せやけど、あいつは他人と交わらん。鍵屋の上層部にも盾突いて、勝手な行動しよる」
じっと、日向を見た。
「あんたを勝手に解錠させたようにな」
前の戦闘で、解錠できなかった自分が蘇る。
「けど、さっきはできなかった」
悔しさなのだろうか。口の中が、物凄く苦くなった。
「当たり前や。本来、キーパーソンになるのには順序がある。比上はそれぶっ飛ばして、お前を解錠させたんや…波があるのは、正しいやり方を教わっとらんから」
正しいやり方。
道を踏み外さないよう、なるべく目立たなく生きてきた日向にとって、自分が間違ったやり方でこういう運命になってしまったのには、納得できなかった。
「正しいやり方、知ってるの?」
「…鍵屋に行けば、師範がおる」
キーパーソンになると決めたが、また今回のように死にかけるのは御免だ。
「なぁ!俺をそこへ連れていってくれっ!」