少年?
大切な人がいなくなるということは、身体が半分削られる感じがする。立ち上がることも、手を繋ぐことも、見ることも聞くことも困難になり、生きる意味を失う。
そう考えると、自ら命を絶つという行為は殺人と一緒だ。周りにどれほど影響を与えるか考えもせず、勝手に人生を終わらす。
残された人達は、それでも生きていかなければならないのに。
解放された魔物は、前に見たものとは違い、体型が日向より一回り大きかった。
思わず、後退りしてしまう。
「ぎひぇヒェヒェッ!久しブリの空気ダ」
それに加えて、饒舌だ。
「人間ノ身体ハ、居心地が悪イッ!特に、女は最悪ダ」
「…何で、そんなに喋れるんだよ…」
「ン?そりゃ、オイラが他ノ魔物ヨリ、優れテルからサ」
みな同じではないのか?
また、日向の中に?が溜まる。
「お前、マダ新人だナァ…臭いデ分かる」
臭い?
「場数ヲ踏んでナいキーパーソンは、マダ臭いがしないンダ」
魔物は、ニヤリと口元を上げる。
「魔物臭くナイ」
頭から冷水を浴びたように、身体が一瞬で冷えた。
「魔物ノ血はドクトクの臭いガする。ケモノが腐ッタようナ…」
いつも感じていた悪臭だ。
とにかく、早く倒さなければ…。
「解錠っ!」
鍵を握りしめ、叫んだ日向だったが、鍵は赤の他人のように無反応だった。
「ハァ?ッヒェヒェッ!何だよナンダヨ!お前、ソレでもキーパーソンか?」
そんなはずない。
何度も、何度も叫ぶが、鍵は眠ったまま。
冷や汗が、頬を伝う。
「まぁイイヤ。今度はお前ヲ乗っ取ロウ!」
死ぬ。
鍵が無ければ、何もできない。
「どっけぇっ!!!」
上空からした声に、魔物も日向も天を見上げる。
降ってきたのは、人間だ。
「唸れっ!大地の鍵っ!!」
上空から突如現れた人間は、持っていた鍵を思い切り地面に叩きつけた。
まるで、悲鳴のような音を立て、地面にひびが入った。
「仲間カッ」
魔物が飛び上がる。
「仲間?こいつと俺様が?笑わせんな」
現れたのは、長髪の髪を一つに縛った少年だった。背丈からすると、年下だろうか。
「こんなフヌケキーパーソンっ!」
少年は吊り上がった冷たい視線を、日向に向ける。
「それよかお前、初段やな…その人間は、二代目か?」少年の鍵が、魔物に向く。
「ソウだ。最初ハ、子供ダッタ…」
「うぅ、そいつは厄介」
言葉とは裏腹に、少年は笑みを浮かべていた。その顔は、比上が見せていたような、楽しんでいる表情だ。
「フヌケは下がっとれ!邪魔や」
邪魔。
心臓をえぐる単語。
「唸れ、大地の鍵っ!血肉を喰らった愚かな魔物に、天罰をっ!!」
鍵は赤く光り、少年は魔物目掛けて地面を蹴る。その一瞬の動きに、魔物も日向も反応できなかった。
魔物の身体を、少年の鍵が切り裂く。その動きは、十字に切ったようにも見えた。
「地獄で反省文でも書きやがれっ」
砂と化した魔物に、少年は唾を吐いた。