同類?
小さい頃から無口で無愛想だった日向は、親戚からもあまり好かれてはいなかった。
少しは笑ってみろ。
馬鹿なんじゃないか?
医者に見せてみろ。
好き勝手な暴言が彼に向けられ、それは学校でも同じだった。
日向自身も、どうして自分が周りと同じように感情表現できないのか分からなかった。あの子のようにいつも笑顔でいたら、あいつみたいに面白いことが言えたら、周りはこんなにも自分を非難しないのだろうか。
お前は、人より少しだけ正直なだけだよ。
だから、父親にこう言われた時、胸にいつも刺さっていた刺が、やっと取れた気がした。
周りがどんなに自分を否定しても、両親だけは自分を認めてくれた。日向の、唯一の味方であり、安心できる寄り処。
けれど、その安全地帯は、ある日突然、両親の自らの手によって奪われてしまった。
図画の時間だった。担任が慌てて図工室に現れ、半ば強引に日向を教室から連れ出した。
あの日
「私の宝物」という課題で描いていた家族の絵には、今も色がついていないままだ。
「日向っ!もう帰るんか?」
校内で呼び止められるなんて滅多にないことだから、降りていた階段を踏み外しそうになった。
「部活は?」棒アイスを加えた比上が、顔を出す。
「帰宅部だから」
「はぁ…部活やってないなんてつまんない奴だな」
あんなことがあった後だからか、比上と目が合わせられなかったし
「闘う」なんて単語を口にした自分に、正直なところ戸惑っている。
「お前は、部活やってんの?」
「まさかっ!あんなつまんないもんやるかよ」
言ってることが矛盾だらけだ。
「じゃ、バイトだから」
なんてクールを装っているが、本当は聞きたいことが山ほどあるんだ。けれど、どう言えばいいか分からない。
「まぁバイトは休んで、どっか行こうや。ほら」
だから、比上が自分の腕を掴んで、歩き出してくれたことには感謝している。
「サンキュー」
だが、まさか自分が彼女の分までおごるはめになるとは予想してなかった。
しかも、ハンバーガー十五個にポテト二つ。見ただけで吐き気がした。
「一つ食べてもいいよ」
一つかよっ!
「…キーパーソンって、お前の他にもいるの?」
「いるよ。世界中に散らばってる。でも、日本が特に多いかな」
日向がハンバーガーの包みを開けている間に、比上はすでに二つをたいらげていた。
「よく食うな…」
「対戦すると、腹が減る」
あんな光景を目の当たりにして、よく物が食えるなと思う。
「日本人は、自分の思いや考えを口にしない。いつも本音を隠して、作り笑いを浮かべてる…そうすると…」
ハンバーガーがまた一つ消える。
「心に闇ができる。表に出さない…もう一人の自分ってとこ。魔物は、そういう奴を見つけるのが得意だ」
「そんなの、ほとんどの人間がそうじゃないか。みんな世間体を気にしながら生きてる」
だから、少しでも枠から外れた奴を笑い者にする。
「そう。つまり魔物は、乗っ取り放題ってわけ。人間は弱い…甘い言葉と誘惑に、すぐ騙される」
「中川も、その一人だったわけか…」
「魔物が最期に言った、上にいく、って言葉は、もしかしたら中川の奴の気持ちだったのかもしれないな…」
比上はそう呟くと、今度はポテトに手を伸ばした。
「中川は、どうなんの?家族とかには説明するわけ?」
「いや、あのまま。まぁ親類がいれば、捜索願いくらいは出されるんじゃん?でも、足取りも分からなければ死体も見つからないんだ、せいぜい失踪者リストに乗るくらいだろうな」
「そんなっ!」
最期を知っている奴が、ここにいるのに…。
「毎年10万人を超える失踪者が出てる。その中には、魔物に乗っ取られ、キーパーソンに殺されたケースもあるだろう…でも」
ざわついた店内だったが、日向にははっきり聞こえた。
「お前、そんな事が現実にあると信じるか?」
比上の冷静な口調が、口を付けられないでいる日向のハンバーガーを冷ましているようだった。
「日向みたいに、目の当たりにして初めて信じる。なのに、見てない一般人が理解できるわけないだろ」
見た自分でさえ、まだ半信半疑の状態だ。
「まぁ何にせよ、あんたとあたしは同類。仲間ってわけだ…よろしく!」
そんな笑顔で言われても…。
「ね、それ食べないならちょうだい」
「…え?!」
日向は、目の前にあった十四個のハンバーガーが、綺麗に無くなっていることにやっと気がついた。
怪物だ。