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解錠?

 生活指導の中川は、全校生徒から嫌われた教師だった。がえ蛙のような顔と、砂漠化した髪型が、彼の評価を一層下げていたが、なによりみんなが彼を嫌う理由は、融通の効かないその性格だった。

 校則違反は即呼び出し、携帯、ピアス、化粧品、漫画、授業に関係ないものが見つかれば、一ヶ月は返ってこなかった。違反をしているのはこちら側なので、反論する余地はないが、一方的且、校則違反を見つけることに喜びを感じている態度には、みんな中指を立てていた。

 だから、比上が言った

「死ぬぞ」の意味は、校則を片っ端から破っている彼女が、中川に捕まるという意味だと思った。

「何だよ。授業始まるから、俺は行くぞ」

 こんな奴と一緒にいたら、こっちまで同類と思われてしまう。

「動くな日向。下がれ」

 身体を押される。

 ふざけんなと言えなかったのは、彼女の殺気を感じたからだ。

「比上、お前は残れ。その髪とピアスは校則違反だ」

 ざまあみろ。

「解放できなくて、うずうずしてるみたいだな。口元に歪みが生じてる」

 そう言うと、比上は持っていた鍵を握りしめた。

「解錠っ」

 比上が叫んだ瞬間、手の平サイズだった鍵が杖のように伸びる。

「貴様…キー…パーソンかっ」

 中川の目が、不自然に吊り上がる。

 それだけじゃない。手足は有り得ない方に曲がりだし、頭は悲痛な音を立てて回り出した。

 何かが、彼の身体から無理矢理出ようとしていた。

「ぐぅ…ぎぃぐ…ばぁぁっっ」

 昨日と同じだ。

 中川の全身から、赤みがかった液体が流れ出し、異臭が襲う。先程まで、普通に立っていたはずの教師は、その形さえ分からなくなっていた。

「せ…先生…」

 洩れた声が言葉にはなっていたが、日向自身、何を言ったのかは覚えていない。ただ、一人ぼっちになってから今日まで、何事もなく平和だった生活が、崩れていく瞬間を忘れることはないだろう。

「あれが、生者の血肉を喰らった魔物だ…」

「何で…先生が…」

「先生だろうが、肉親だろうが、魔物に身体を乗っ取られたら死ぬ」

 多くの魔物を見てきたせいなのか、比上の口調はとても冷静だ。

「ばぁっははっあ!解放されたぁぁあ」

 昨日まで、いや、ついさっきまで、人間だったはずなのに。

 目の前にいるのは


 何だ?


「あれは初段。昨日のヤツと同じ。でも、油断すると…」

 飛び上がった魔物が、鋭い爪を比上に振り下ろす。素早く鍵でガードするが、ぶつかり合った衝撃で、火花が散った。

「あの世逝き」

 うっすらと笑みを浮かべる比上にすら、不気味さを感じる。

「日向、鍵を持って解錠と叫べっ!あんたなら、覚醒できるっ」

「何言ってんだよ!無理に決まってんだろ」

 俺はお前とは違う。

 真っ当な人間だ。

 魔物の力に、比上が押される。鍵を振り上げた瞬間、勢いよく爪が剥がれた。

 コンクリートの地面に、魔物の爪が突き刺さる。

「ひぃいっ!!!貴様ぁあ!!」

 自慢の爪を失った怒りからか、魔物の動きは速さを増す。

「邪魔だっ!逃げろっ」

 解錠しろと言ったり、逃げろと言ったり、彼女を理解できない。

 ただ、殺気と殺気がぶつかり合う空気を吸ったせいか、日向は身体が上手く動かないでいた。

「初段のくせに…生者の中にいた時間が長いせいか、厄介だな」

 反対に、比上はどこまでも落ち着いている。いや、それどころか、この闘いを楽しんでいるようにも見えた。

「…人間は、大事なもんを奪われるのが大嫌いなんだろ?!…ぢぁあ、こっちの身体を、いただきまぁぁあすっ」

 魔物が一瞬にして、日向の前に移動する。日向が、魔物が前に来たと理解できた時は、すでに魔物は彼に自慢の爪を振り下ろしていた。

「日向ぃっっ!!!」

 こんなことが現実?

 俺は認めないぞっ!

 でも、わけも分からず死ぬなんて…


 そんなの、御免だっ!!


「…か、解錠っ!!!」



 つぶった目を恐る恐る開くと、自分が持っていた鍵が長く伸び、魔物の身体を突き刺していた。

「ぐ…っあがぁっ…」

 魔物は、身体がみるみる溶けていく。

 これは昨日、比上がやった光景と同じだ。

「ごン…な…おでは…もっど…もっと…うえにいぐ…んだぁあ……」

 魔物は、地面を黒く焦がし消えていった。それと同時に、ぐちゃぐちゃになった中川も、地面に吸い取られるようにして消えていった。

「な、中川先生は…」

「死んだ。正確に言うと、神に回収された。今度は中川自身が魔物にならないようにな」

 伸びた二人の鍵は、闘いが終わると自然に小さく戻った。

「魔物に乗っ取られた人間は、こうやって殺すしかない。キーパーソンが殺すことにより、神の元に送られる…」

 今まで、何人殺したんだ?とは、恐ろしくなって聞けなかった。

「魔物に喰われる人間を増やさないためにも、あたしたちキーパーソンは闘い続ける…」

 お前は、どうする?

 比上の目が、そう聞く。

 俺は…


「俺も…闘うよ」


 闘いの幕は、切って落とされた。

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