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あの狼たちによろしく  作者: エイジ・シンジョウ
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第3話  対戦

 酔った男が殴りかかってきた。

 やはり酔っ払いだ。

 大きく右腕を振りかぶってくる。簡単に避けられる。

 次に来るのは蹴り。酔っていると攻撃が単調になる。

 相当な修練を積んでいないと酒に酔って喧嘩には勝てない。まずフェイントを忘れる。

 続いて出された左の拳を避けながらつかむ。

 背中合わせになる形で体ごと相手の背後にまわる。足さばきが大事なところだ。


 円を描く動きで掴んだ腕と肘に軽く体重をかけたら、相手は前に倒れる。

 運動神経の良い者なら前転して受身をとるが、できなければ手首や肩をひねって痛めてしまう。

前転をする気配がないので俺は途中で手を放し、男は前のめりに倒れた。


 投げはまだ習って5年だが、ようやく慣れてきた。打撃しかないと思っている相手ならほぼ投げれる。

 倒れた相手が立ち上がってくる。酔うと打たれ強くなる。ただし息も上がりやすくなる。

 荒い息で叫びながら、またも右拳で来た。カウンターで顎に右フックを入れたら、膝から崩れ落ちた。

 

 倒れた後はすぐに意識を取り戻したようだ。暴言を吐きながら道端で横になったまま立ち上がらない。

 過去に空手をやっていたというだけではこんなものだ。

 空手が弱いわけではない。

 もうこの男の中には習った空手の少しも残ってはいない、と言っていいだろう。

 やめてしまえば普通の人になる、ということだ。

 

 すぐにあたりを見回して、遠くに驚いた様子の酔客が数人いることを確認した。通報されるなら逃げなければならない。

 そしてもう一人。

 新しくてきれいな高級ソープの建物の前で、ロングコートの大柄な男がこちらを見ていた。客の呼び込みだろうか。

 ただその立ち姿は、ジムに貼ってあったアルバイト募集の広告を思い出させた。


 飲食店ボディガード募集。できれば身長180cm以上、格闘技経験者優遇。


 あの男なら身長180cm以上はあるだろう。副収入と人生経験のためにやってみたかったバイトだったが、身長的に自分ではだめかなと思いあきらめた。

 実際には喧嘩をするのではなく、乱暴な酔客をおとなしくさせる、もしくは店外に連れ出すのが仕事だ。本当に喧嘩になって警察がくると店も困るから、実は相手が怯みそうな身長や体格が一番重要だろう。格闘技経験はいざという時のため。実は弱いと知られれば意味がないから。相手に怪我をさせにくい相撲や柔道の経験者が優遇されるのだろう。


 あの男は経験者、いや、今も現役か?


 道を曲がる直前に振り返ったら、男がまだこちらを見ていた。一部始終を見られていたのかもしれない。

 走って裏路地に入って歓楽街を出たら、ジョギングで川沿いを走って帰路につく。毎晩はやらない。

 家に帰ればいつものように夫、父親、塾講師としての生活に戻るのだ。

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