第13話 後輩
相手が動く。
K-1ルールらしいフットワークのジャブからの動きだ。
蹴りも出すが届かず空を切る。
ソウタがシンちゃんと呼ぶサナダも動く。
両足ステップからの中段前蹴りが何度かヒットしている。
相手の上段ハイキック――大振りすぎる――を上半身スウェー(上体を反らす)でよけるとサナダが一気にたたみかけた。
砂埃を立てて相手が吹き飛ぶ。レフェリーが助け起こして試合終了の合図を出した。
「先生、何発当たったかわかる?」
ソウタが聞いてきたが、顔を向けただけで答えないでおいた。
上段回し蹴りとそこからの戻りの踵蹴りで2発。そのまま中段脇腹へ1発入れて、腹部への横蹴りで相手を吹き飛ばして終わり。合計4発だ。
試合は終わりだ。この後どうなるのか。次の試合か、解散か。
「おい、そこの見てる二人!」
様子を見ていたら集団の中から抜けてきた奴が声をかけてきた。
「俺たちか?」
もめないように、かつ、舐められないように返す。
「お前らしかいねぇだろ。見せもんじゃねえぞ」
「すまんな。試合に出てる奴の連れなんだ」
遠くのサナダを指さす。
「あいつはもう試合終わりだから帰る。お前らも帰れ」
「わかったよ。一緒に帰ろうと伝えてくれ」
「ああ」
面倒くさそうな返事とともに、女連れかよ、と呟くのが聞こえてきた。ソウタを女子と思ったのだろう。
「ソウタ、なんで来たんだよ」
少し離れた公園のベンチで、タオルで汗を拭きながらサナダが困った顔でソウタを見る。同時にこちらの様子も伺っている。
「ずいぶん心配してたぞ」
俺が言うと、サナダが怪訝そうな顔になる。
「誰だよ、オッサン」
「塾の先生!一緒に来てもらったんだ」
ソウタが助け船を出してくれた。
「ふんっ、先生かよ」
「塾のだがな」
すかさず返す。学校が嫌いで塾の先生になったんだが、若い子にはどうでもいいことだろう。
「先生なんてどこの奴も一緒だ。勉強が好きなんだろ」
「今日で何試合目だ? 道場が閉まったって聞いたよ。怪我でもしたらどうするんだ」
「うるせぇよ。関係ねぇだろ。塾の先生にどうにかできんのかよ」
「シンちゃん、こんなことやめようよ」
ソウタがサナダに縋りつく。
「悪ぃな、ソウタ。思ってたより楽しいんだよ」
「ううっ」
ソウタが困っていじけた素振りを見せる。幼馴染のサナダにはあまり効果は無さそうだ。
「それより、先生」
サナダがこちらに顔を向けてくる。
「わざわざソウタについて来たのは何の為だよ?」
真剣な顔。若干だが敵意を感じる。
「関係でも疑ってるのか?」
かわいいものだ。顔に笑みが浮かんでしまう。
「何言ってんの?シンちゃん!違うよ」
「本当に違うのかよ」
「違うけど」
としか言いようがない。
今までもよくあることなのだろう。近づいてくる大人達にろくなのがいなかったのか。
違うと証明する方法はただ一つ。
本当のことを言うことだ。
「実は、街の喧嘩に興味があって見に来たんだよ」
「え!?」
ソウタが驚いてこちらを見る。
サナダも驚いてこちらを見ている。
「本当かよ?」
「本当だ」
真顔で返す。
「へぇ。ちょっとはやるのかよ」
サナダの体に力が入るのがわかる。緊張と興奮からくるものだ。
やっぱりこうなるか。
望んだことだが。
「そうだな」
ポケットから手袋を出す。拳を守るように作られているライダースグローブだ。
それを見てサナダがさらに驚いた顔でこちらを見たが、すぐに笑みを浮かべた。
「そういうことか」
「えっ、どういうこと?」
ソウタだけ、まだ理解できていないようだ。
「ちょうどよかったぜ。さっきの相手が弱くて物足りなかったんでね」
数歩歩いて、サナダがこちらを向く。
「俺はいつも総合ルールなんだけど、どうする?」
言うと、サナダが首を傾ける。
「やれるんなら、俺はなんでもいいぜ、先輩」
言い回しがいいね。こいつ、嫌いじゃない。
俺はいつもの構えをとった。
キックボクシングと合気道の中間の構え——両足は適度に開いて軽くつま先立ち、両腕はキックボクシングの構えだけど拳は強く握らない。
サナダと目が合う。
近くで喚くソウタの声が遠くのように聞こえる。サナダもきっと同じだろう。
向こうで試合を囲んでいた数人がこちらを見ている。
派手に気づかれる前に決着をつける必要がある。




