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「お待たせしました」
チビが正面に座る。
ソファの後ろにはドゥーダさんと、白髪の男が控える。
白髪より銀に近いか。淡い金髪のドゥーダさんと対称的だ。
「アダルハードと申します」
「あ、ご丁寧にどうも」
丁寧な仕草で男が名乗った。
そういや俺テンパって今まで忘れてたけど、まだ名乗ってない気がする。
「俺は海堂 周です。さっきはテンパ…いや訳が分かんなくて失礼な態度ですみません」
一応謝っとく。領主らしいし。
とりあえず今はこいつに見限られると詰む。
「ふむ…まぁ良いでしょう。アマネとお呼びしても?」
「できればカイドウで、名前が好きではないので」
「分かりました、ではカイ」
チビが俺の顔をじっと見つめて言う。その小さな口から飛び出してきたのは、聞き覚えのない単語だった。
「貴方は零れ児のようです」
「こぼれ…ご?」
「貴方の世界から零れ落ちた児…児というにはいささか大きいですが、おそらく間違いありません。…アダル」
「はい。カイ様、これに見覚えは?」
アダルハードが動き、俺に手渡したそれは。
「これ、古本屋で見つけた本だ…」
白い本、何も書かれてない本。パラパラとめくれるページ。
そうだ、なんで忘れてたんだ。これが、これのせいで今おかしなことになっているというのに。
「《古来よりこの国には一定の間隔で、この世界の人間ではない者が顕現する》というのは歴史を学ぶ際に必ず目にします。それが零れ児です」
チビの淡々とした声と、ドゥーダさんが紅茶を淹れるコポコポと言う音だけが響く。
「《零れ児はこの世界の人間には知り得ないものを知り、この世界には無いものを生み出す。零れ児からの祝福でこの国は発展して来た》そうですが、近年は顕現が確認されていませんでした」
「それが俺だと?」
「はい。顕現が確認された際は速やかに保護し王都に移送。生涯国から保護されます。生きていくのに不自由はありません」
「確実に俺がソレなのか?何かの間違いとか」
それかやっぱり夢とか。頬をつねってみるが、痛い。
「その本、無色の本と称されています。その本と共に顕現するのが零れ児です。貴方が…いや、実際に見たほうが早いでしょう」
本を貸してくださいと言われ、チビに手渡す。
チビが表紙を軽く撫で、めくろうとする。
本はレプリカのように、開くことなく裏表紙ごとテーブルの上で反転する。
「本の形をした飾り物じゃないのか?」
「この本は零れ児以外にめくることができません。言い換えれば、これをめくることができれば零れ児だという証明になるのです」
ドゥーダ、と手渡されたドゥーダさんは一礼しながら表紙を摘みあげるが、本がめくることはない。そのままアダルへ渡され、アダルも同じ動作をするが変化はなく、俺へ渡す。
「めくってみてください」
チビに促され表紙の縁に親指をかける。
熱くピリピリとした感覚が手のひらを走る。
そっと持ち上げると、真っ白な見開きに。
海堂 周、と俺の名が記されていた。