7話
国が決まったら次こそは「体」という期待があるが、どこかで諦めもある。
なんといっても奴らが作ったゲームだ。
期待しないほうがいい。
『期待しないほうがいいとわかっているが、期待してしまうよな』
コウキの言葉に苦笑が浮かぶ。
その通り。
でも、認めたくない。
負けた気がする。
「……が溜まりました。国を置く世界を作ろう!」
『ハハハ、世界だってよ。はぁ、もう何でもいいよ』
コウキのため息交じりの声。
うん、いろいろ諦めよう。
『それにしても国より世界のほうが後というのは納得いかないね。逆じゃない?』
世界があって国があるはずなんだけど。
魔王のいる世界は違うのかな?
それとも順番とか何も意味がない?
『まぁ、どちらにせよ押すな』
コウキの言葉に「よろしく」と返事をする。
ガチャガチャガチャ……ポン。
「おめでとう! 世界を手に入れたよ! この世界……世界……」
いきなり世界という言葉を繰り返す女性の機械音。
なんだか嫌な予感がする。
ガチャガチャガチャドドドーンガガガガンバンバンバンガガアガガガ。
『なんなんだ?』
これ、確実に良い音では無いよな。
『さぁ? ……世界を作る音とか?』
『壊すの間違いだろう。どう考えたって作っているような音には聞こえないぞ』
ガチャドドドーンガガガガンバングチャガチャガガガ。
それにしても、すごい音だ。
俺たちの世界って半壊してんじゃないか?
体が出来ても半懐した世界はいらないな。
『あっ、止んだ』
鳴り響いていた音がすっと消える。
何事もなかったような静寂。
しばらく様子を窺うが何も聞こえてこない。
女性の機械音も聞こえない。
もしかしてエラーで止まったのか?
それだけはやめてくれ。
今までの事が無意味になる。
『動き出すかな?』
アルフェの声も不安そうだ。
完全に止まったら俺たちってどうなるんだろう。
ここで誰かが殺しに来るのを待つだけ?
嫌な想像だな。
「……が溜まりました。世界の色を決めよう!」
どれくらいぼうっとしていたのか、不意に聞こえてきた女性の機械音。
この無意味な明るい声が今は少し嬉しい。
『動いてたね』
『そうだな』
『世界は2人で1つみたいだね』
『あぁ。押すぞ』
どうして2回目の世界を作るガチャがないんだ?
あの爆音のせいか?
だが、進んでしまったものは仕方ない。
どうして、2回目がないんだろう?
最初のはコウキの世界。
2回目が私の世界のはずなのに。
私の世界を作らず、次へ進んでしまった。
はぁ、仕方ないか。
もしかしたらコウキと私の国が同じ世界に同居できるのかもしれないし。
今は先へ進もう。
ガチャガチャガチャ……ポン。
「おめでとう! 深藍を手に入れたよ! 2倍です」
2回目は。
ガチャガチャガチャ……ポン。
「おめでとう! 深紅を手に入れたよ! 2.5倍です」
何かが2倍と2.5倍手に入るようになったらしい。
何かは不明。
次は。
「……が溜まりました。……の名前を決めよう!」
ずっと溜まっているのは、そしてガチャを回しているのはHPだと思っていたが違ったらしい。
『違ったみたいだね』
『そうみたいだな』
ここにきて違うとわかるとか、結構恥ずかしいな。
というか、このガチャはもっと早く出てきてくれてもよかったのではないか?
ガチャガチャガチャ……ポン。
「おめでとう! ……の名前はヴァンと決定! 1.5倍です」
ヴァンという名前になったようだ。
しかも1.5倍で溜めることが出来る。
これは嬉しい。
これで今までより早くこのゲームを進められる。
次が。
「ヴァンが溜まりました。星々を手に入れよう!」
さすが1.5倍。
少し早く次のガチャが出来るようになってる。
待つ時間が短いのはいい。
あの時間が苦痛だったからな。
ガチャガチャガチャ……ポン。
「おめでとう! 星を5手に入れました。抵抗50%です」
次は。
ガチャガチャガチャ……ポン。
「残念! 星は手に入らなかったよ。落ち込まないで」
『星が何かわからないけど、1つは残念だって』
『みたいだな。しかし本当に外れがあるんだな』
意味が分からないモノはスルーだ。
次は。
「ヴァンが溜まりました。魔王の体を手に入れよう! すべてはここから始める!」
『……………………ん?』
『……………………あれ? 今』
魔王の体って言った?
言ったよね?
間違いじゃないよね?
あれ?
間違った?
幻聴?
『コウキ、今……いや、幻聴かもしれない』
『アルフェ、だったら俺も幻聴を聞いた事になる』
アルフェも聞いたなら間違いないな。
体だ!
よし、ようやく体を手にできる。
はぁ、長かった。
実際にこのゲームを始めてからどれだけの時間がたったのかは不明だが、長かったと思う。
『『やった~』』
「ヴァンが溜まりました。魔王の体を手に入れよう! すべてはここから始める!」
『分かってる。でも、少しぐらい喜びに浸っていてもいいでしょ! それにここから始めるってなに? もう始まっているでしょ!』
『ゲームで言うところの、プロローグとか?』
『プロローグ?』
『ゲームの最初に流れるだろ? たいていはSKIPする奴が多いだろうけど』
あぁ、あれか。
私も飛ばしちゃうな。
『そんなことより押そう!』
体! 体! 体!
コウキが終わったら次は私だよね。
世界みたいに私の分が無かったらぐれてやる。
『あれ?』
『何?』
何かあった?
『ボタンが2つあるけど』
『えっ? あっ。本当だ。私にもボタンが2つ見える』
これってコウキと私の?
どうして2個一緒に出てくるの?
何か裏がありそうで怖いな。
本当に体をくれるんだよね?
これはアルフェと俺の?
どうしていきなり対応したんだ?
なんだか、怖いな。
『大丈夫だよね?』
アルフェもこの事に不安を感じているようだ。
『たぶん。……悪い、わからない』
『ごめん、変な事を訊いた』
コウキだって分かるはずない。
馬鹿だな頼り過ぎだ。
『いや、大丈夫だ。一緒に押すか?』
『そうだね。……ここで外れとか出たら恨んでやる』
外れか。
多分無いと思いたいが……。
『無いだろう、さすがに』
『だよね。じゃぁ、押すね』
『あぁ』
『『せーの』』
ガチャガチャガチャ……ポン。
ガチャガチャガチャ……ポン。
『『…………』』
「おめでとう! あなたは蛇からスタートです! ボタンを押して始めよう」
「おめでとう! あなたは蝙蝠からスタートです! ボタンを押して始めよう」
『『……………………はっ?』』
いやいや、今何か可笑しな言葉が聞こえた。
ありえないような言葉だったけど、耳が可笑しいのかな?
あっ、耳が無いや。
という事は、気のせいだったのかな。
うん、きっと聞き間違いだよね。
『蛇に蝙蝠? マジで?』
コウキの言葉に少し冷静になる。
認めたくないが、絶対に認めたくないが蛇と蝙蝠らしい。
『はぁ、このゲームは人を落ち込ませるのが本当に得意だよね。何よ蛇に蝙蝠? 馬鹿にしくさって!』
『ははっ、そうだな』
目の前に浮かんでいる文字を見る。
目がないのに、なぜか見ることが出来る不思議な文字。
そこにはしっかりと「蛇」と「蝙蝠」の文字。
聞き間違いでも見間違いでもない。
『魔王だから、人型の魔物を想像してたんだよな』
『私も似たようなものかな』
『普通そうだよね。誰がこれを想像する?』
『『はぁ』』
ようやく体が手に入ったのに、嬉しくない。
でも、変更しますか?というボタンはない以上決定なんだろうな。
『アルフェ、どっちにする?』
『蛇、苦手。まだ、蝙蝠のほうがいいかな?』
どっちも同じような気もするが、まだ蝙蝠のほうが馴染みがない分受け入れやすいかな。
蛇は目の前に落ちてきたことがあって、苦手なんだよね。
……あれ?
これって、私の記憶だよね?
『なら、俺が蛇だな』
俺はどちらでもいいし。
アルフェが蛇が苦手なら俺が蛇でも問題ない。
『いいの?』
『あぁ、俺は問題ない。さて、スタートのボタンを押すか』
それぞれのボタンに手を伸ばすと、煙が2つのボタンに伸びていく。
そして、ボタンがぐっと下に押される。
「Congratulations!」




