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強制的魔王  作者: ほのぼのる500
魔王の特訓
57/58

57話

「遥、そっちだ!」


分かっているけど、逃げ足が速いんだって!

でも、ここで逃がしたらイザナの特訓が増える。

それだけは嫌だ~。

でも、どうしたら?

魔力は……あ~、まだ全然溜まってないし。

というか、魔力がほぼ0の状態で戦わせるな~!


「くっそ~」


ふわり。

ん?

やった。

魔力が少し溜まった。

今の私だったら、あれは問題なく倒せるはず。

というか、目の前にいるあの敵をぶっ潰す!


「死ねや、ごら~」


ぷっ、遥の口がどんどん悪くなるな。

まぁ、それで力が出やすくなるならいいけど。

時々噴き出しそうになるのが駄目だな。

遥を見ると手から光が溢れ、一直線に魔物に向かって矢のように飛んで行くのが見えた。


ぐぎゃっ。


断末魔というより潰れたような声が聞こえた後にぽとっとマジックアイテムが落ちた。


「ふ~。やった~!」


「遥、お疲れ様」


「そっちもお疲れ様」


「体は問題なく動くようになったな」


光輝の言葉に頷く。

人の体に戻って、喜んだのは一瞬。

普通に歩こうとしただけなのに、見事にこけた。

蝙蝠の体に慣れてしまったせいなのか、人の体に違和感を覚えてしまったのだ。

もちろん走ることなどまったくできず、光輝に大笑いされてしまった。

私も笑うしかなかったんだけど。

ただ、笑っていられるわけもなく、人の体に慣れるためにイザナが付きっ切りで地獄のような特訓を……思い出したくもない!

でも、そのお陰で歩くことはもちろん走る事も出来るようになった。


「お見事です」


マジックアイテムを拾ってきたイザナがにこりと笑う。

最近この笑みが怖くて、怖くて。

次にどんな特訓が用意されているのか、もうドキドキが止まらない。


「自分の魔力を捉える事が、完璧に出来ましたね」


「あぁ、自分の魔力なら問題ない」


光輝の言葉に頷く。

最初はおぼろげだった自分の魔力。

今ではしっかり捉えて、自由自在に操ることも出来るようになった。


「では、そろそろこの世界を出ましょうか」


この世界って、私たちが魔王として誕生したこの世界の事だよね。

どれくらいここにいるのか不明だけど……そうか、出るのか。

何だかちょっと、寂しいと思ってしまうな。


「分かった。いつ頃ここを出るんだ?」


「準備ができ次第すぐに出ます。我々は、狙われてますからね」


後ろから声が聞こえたので視線を向けると、ラセツが何かを手に持って私たちのもとへ来た。

手に持っている物を見ると、淡く光っている。

それには見覚えがあった。


「あっ、それって……『メイカク』だよね。私たちの命」


「はい、そうです」


なんでそれを、ラセツが持っているんだろう?

そもそも、それは王座の間に隠していたはずなんだけど。


「この世界を出る以上は、これを持っていく必要があります」


まぁ、当たり前だよね。

私も光輝も命を置いて行くわけにはいかない。


「どうぞ」


ラセツが私と光輝の前にメイカクを差し出す。

淡い白い光を発しているメイカク。

前も思ったけど、メイカクを見ていると不思議な気持ちになるんだよね。

自分の命を見ているからかな?


「これって、俺たちの体の中に入れられないのか?」


光輝に視線を向ける。

確かに持ち歩く物ではないよね。


「出来ますが。体が死んでもメイカクがあれば復活できます。体の中にある場合、肉体が滅ぶと同時に消滅してしまいます」


そうなんだ。

でも、拠点を持たない私たちには隠し場所は無い。

持ち歩くより、体の中に入れておいた方が安全のような気がする。


「私は、体内に入れておく」


なんか変な言い方だな。

自分の命を自分の体に入れるって言っているんだもんね。

普通の感覚ではないね。

いや、そもそも自分の命が外にあるのがおかしいでしょ。


「俺もそうするよ。お互い、死なないようにしないとな」


光輝の言葉に苦笑する。

この世界から出れば、もっと危険な事が増える。

死なないようにか。

死にたくないから、イザナの特訓にも耐えているんだけど……どこへ向かっているんだろうな。

この世界から出ても、このゲームからは出られていない。

光輝とは、このゲームから出る方法を探そうとは言っている。

でも、出る方法なんてあるんだろうか?


「不安ですか?」


ラセツの言葉に頷く。

不安しかない。


「確かにな~、出口があると分かっていれば希望もあるけどな」


ゲームの世界から無理やり出たら、一瞬で死ぬかもしれないしね。

でも、ゲームの中で生き続けるのも、死ぬのも嫌だ。

こんな世界、滅んでしまえ!


遥の横顔を見つめる。

不安な表情をしているのが分かる。

きっと俺も同じ表情をしているだろうな。


ラセツとイザナ、オシリスはこのゲームの事を少し知っていた。

俺たちの配下になる前に、他の者の配下をしていたらしい。

仕えていた主人が死ぬと一緒に消滅するそうなのだが、気付くと記憶を少し持ったまま卵の中にいたそうだ。


その3人の話を纏めると、このゲームはひたすら殺し合うゲームだ。

後から後から魔王や天使、勇者が誕生して殺し合うように仕向けられる。

そして、生き延びる者はほとんどいない。

運よく生き延びる事が出来ても、強くなりすぎると監視者に殺される。

ラセツもイザナも監視者に殺されたと言っていた。

オシリスは最後を覚えていなかった。

強くなれと言いながら、強くなりすぎるとゲームから排除される。

なんとも、遣る瀬無いゲームだ。


生き延びるにはこのゲームから出るしかない。

まぁ出た瞬間に、死ぬ可能性も無きにしも非ずだけどな。

そもそもこのゲームからどうやって出るのかは、不明。

出口があるのかも、不明。

分からない事だらけなんだよな。

無謀だが、何もしないで監視者に殺されるのだけは嫌だ。


「行きましょうか?」


女性の声に視線を向けるとニュクスが笑みを浮かべる。

いつの間にか、出ていけるように準備が整っていたらしい。

知らなかったな。


「ありがとう」


遥がニュクスに言うと、ニュクスの笑みが深くなる。

ニュクスの後ろにいるオシリスの体には、荷物がくくり付けられているようだ。

イザナとラセツもそれぞれ荷物を背負う。


「俺たちも何か持とうか?」


「いえ、何があるか分かりませんから。身軽なままの方が良いでしょう」


強くなったと言っても、皆よりまだまだ弱いもんな。

確かに荷物を持っていたら、逃げ遅れるかもしれない。

足手まといにならないようにだけ気を付けよう。


「ねぇ、この世界はどうなるの?」


私たちが作って、そして壊されたこの世界。

壊れてしまっていても愛着があるんだよね。


「我々が出ていけば、彼らが処理するだろう」


ラセツの言葉に、少し落胆してしまう。

それは決定なんだろうな。

まぁ、仕方ない。


『どうなるか不明ですが、このマジックカードを試してみますか?』


不意にシヴァの声が頭に響く。

一瞬びくりと震えた後、シヴァを見る。

遥も、心臓のあたりを押さえながらシヴァを見ていた。

やっぱりびっくりするよな。


「マジックカードですか?」


ニュクスがシヴァの前に浮いているマジックカードを手に取って見る。


「時間逆行カード」


時間逆行カード?

時間を巻き戻せるのか?


「特定の物を1つだけ、時間を戻すことができるカードだな」


イザナがニュクスの隣からマジックカードを確認して言う。

特定の物……この世界の時間を戻す?


「戻るのか?」


『それは、分からない』


ラセツの言葉にシヴァがフルフルと横に揺れる。


「とりあえずしてみたら?」


ニュクスの言葉に、イザナが時間逆行カードに魔力を込める。

マジックカードは一瞬光って消えた。


「「「「…………」」」」


「何も起こりませんでしたね?」


ラセツの言葉に全員が頷く。


『この世界は、さすがに大きすぎましたかね?』


まぁ、そうだよね。

ちょっと期待してしまったから落胆してしまったけど、たぶん私の気持ちを汲んでシヴァは提案してくれたんだろう。

その気持ちは嬉しい。


「行きましょう」


イザナの言葉にラセツとニュクスが手の中に魔力を集める。

2人の間でシヴァが2人の手の中にある魔力に、シヴァの魔力を注ぐ。

この世界から出るには、この世界に張られている壁を壊す必要があるらしい。

どうやって壊すのかを聞いたら、力でと言われた。

つまり力技。

遥とその答えを聞いて笑ってしまった。

とことん、この世界は力が重要らしい。

なのに強くなりすぎると駄目なんて、馬鹿にしてる。


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