48話
1人目に生まれた配下と言っていいのか分からないが、男性がすっと俺たちから離れる。
「ラルグ、心臓が止まるかと思った」
「俺も」
「「…………はぁ~」」
仲間が産まれて欲しいとは思ったけど、なんか違う。
うん、思っていたのとぜんぜん違う。
もっと友好的な配下が欲しい。
いや、助けてもらったみたいだから友好的なのか?
あれ?
友好的って何だっけ?
……確か、「なかよく付き合う」だよね。
そっと2人と2匹を見る。
怖い。
むっちゃ怖い。
あっ、恐怖で羽が震えてしまった。
げっ、こっち見た!
「最後の子は、どんな子だろうね」
慌ててラルグを見る。
羽が震えているのは、放置!
そして、最後くらいは女の子!
普通の女の子が欲しい。
怖くない女の子!
ビシビシビシ。
「産まれるみたいだな」
アルフェと最後に残った卵の傍に行く。
…………。
「あれ? 割れていかない」
前の4個のようにヒビが広がらない。
何かあったのかな?
ボコッ、ボコッ。
「えっ? 卵の中で暴れてる?」
バキバキバキ。
あっ、割れて手が出てきた!
「今度は白い手だね。それに、ほっそりしてる」
これってもしかして女性?
うわ~、期待しちゃうから。
「最後も人型だな」
全体的にほっそりした白い肌をした女性が卵から出てくる。
「嬉しい。女性だ」
「そうだな」
「……ラルグ、毛布!」
「あっ!」
アルフェの言葉に、慌てて毛布を最後の配下に巻き付ける。
女性らしい体つきだったと思うが、他のところが気になってそれどころじゃなかった。
視線が引き付けられたのは頭。
頭にある角が、すっごく気になる。
左右の耳の上の方から後ろに向けて、くるんと巻いた角。
その角を見た瞬間に悪魔を想像してしまった。
確か、漫画とかで見た悪魔の角に似ているような……いや、悪魔の角は前に巻いていたか?
その辺りはうろ覚えなんだが、とにかく悪魔!
まぁ、顔は他の2人よりかなり親しみやすい。
目じりが下がっていて、ふんわりした印象だからな。
「良かった。何となく関りやすそう。それにしても顔の印象と角が合ってないよね」
アルフェの言う通りだと思う。
顔だけ見ると癒しなのに、角の色が黒いから恐怖を感じる。
しかもあの角、なんか鈍く光ってるし!
ただ目の色は赤茶色で、普通な感じがいい。
髪はくすんだオレンジで肩までのすっきりストレート。
見ただけでサラサラだな。
「彼女、左の肩から指の先まで黒と赤で文字みたいな模様が入ってたね」
そうだったか?
何かあったのは覚えているが……文字だったか?
「悪い、文字かどうかは分からなかった」
「そう。後で確認させてもらおう」
無事に5人が産まれてくれて良かった。
「ねぇ、ラルグ。これからどうしたらいいの?」
そうなんだよな。
卵が孵ってくれて嬉しいが、俺たちは逃げる事が決定している。
この世界は既に死んだという認識のもと処理が決定しているようだし。
このままここに居たら、殺されるまで誰かが送りこまれてくるだろう。
たまたま1人目は対処できたが、かなり力を持った者に来られると間違いなく死ぬ。
死ぬ気が無いなら、逃げるしかない。
「彼らを連れて逃げる事になるんだよな」
そうか。
卵は俺たちの配下だから、一緒に逃げるのか。
……待て、あの巨大な者も?
「ご主人様、我らに名を」
1人目に産まれた者がそう言うと、すっと跪く。
それにつられるように他の者たちも、俺たちの前に跪いた。
巨大な4足歩行の何かは、伏せのような格好になる。
球体の何かは、地面に降りると全ての羽をまっすぐ広げて、羽の先を地面につけた。
「「えっ」」
名前?
それよりご主人様ってどっちの事?
さっき、ラルグを守った彼だから1人目のご主人様はラルグ?
ご主人様か。
俺とアルフェのどっちの事を指しているんだろうな?
まぁ、どっちでもいいか。
それより、名前……。
「どうしよう、ラ――」
「なぁ、俺たちの名前を元に戻さないか。ゲームからは完全に逸れたんだし。ここから始めるって事でさ」
「何を始めるの?」
「逃亡生活?」
逃亡生活ね。
「先が無いね。どこがゴールかも分からないし」
確かにな。
ゲームみたいにラスボスを倒したら、世界が平和になり、皆幸せに暮らしました。
……なんて事には、ならないだろうな。
終わりのないゲームか。
「でも、何もせずにやられるのは癪だからな」
「そう! 黙ってやられてやるのは絶対に嫌! 必要ないって処分されてやる義理は無いしね」
「あぁ、だからゲームで与えられた名前はいらないだろ?」
そうか。
アルフェはゲームの中でつけられた名前だ。
確かに慣れたけど、私の名前じゃない。
「はるか、だったよな?」
「そう。『はるか』や『遠い』という意味を持つ、しんにょうへんの遥」
はるか?
「あぁ、遥ね。なるほど。俺はコウキ」
「コウキ。うん、覚えてる。漢字は?」
漢字か。
確か、なんだったかな。
キラキラしているなって言われたんだよな……光……。
「あっ、光輝だ。光り輝いて欲しいって事で光輝」
光り輝く?
……そのまま、光輝?
「なんだか、キラキラ眩しい印象だね」
……ふっ、誰かに言われた言葉と一緒だ。
「そうだろ? 遥、これからよろしく」
「光輝もこれからよろしく」
ピコン
「「ん?」」
今の音ってゲーム中に聞いた音?
それが今?
光輝を見る。
かなり嫌そうな表情をしている。
それはそうか、ゲームからそれたと思っていたんだから。
「はぁ。あっ、彼らの名前を考えないと」
光輝の視線の先を見て、固まった。
忘れてた、5人でいいのかな?
人ではない者も含まれているけど……とりあえず名前決めないと駄目なんだった。
「何か思い当たる名前あるか?」
1人目の男を見る。
視線で人が殺せそう、俺たちより魔王っぽいよな。
あっ、俺たちもう魔王じゃないのか?
「サタンとか合いそう」
「そのまんま過ぎて駄目だろ」
「そっか」
遥がちょっと残念そうな声を出す。
いやいや、サタンって駄目だろ!
ん~、日本名は合わないよな。
外人というより、見たまんま人外だからな。
「ん~、羅刹は?」
「らせつ?」
響きは綺麗だな。
だが、この男にあうか?
……おかしくは無いか。
「なんでだろう。仏教の十二天を思い出したんだけど」
「ん? そのらせつがそのうちの1人なのか?」
「そう、十二天の1人。毘沙門天も十二天の1人なんだよ」
「そうなんだ。仏教に詳しいのか?」
「いや、全然だと思う。ただ何となく十二天を思い出しただけ。漢字は……合わないからカタカナで『ラセツ』。どう?」
何だか面白いな。
「いいと思う。そうしよう『ラセツ』で決定だな」
1人目の男性の周りが光ると、その光は男性の首元に集まりだす。
驚いて見ていると、光は首をぐるっと一周すると模様を刻み消えていった。
「ご主人様。いえ、光輝様、遥様。ラセツの名に恥じないよう、これからお仕えいたします」
「あっ……はい。よろしく」
「あぁ、これからよろしく」
遥の唖然とした声に、慌てて俺も声を掛ける。
ラセツを見ると、首元に手をやり微かに笑っている。
喜んでいるのだろうか?
遥を見ると、遥も戸惑っていた。
「残りの者たちも決めるか」
「そうだね」
2人目を見る。
何度見ても、イケメンだよね。
ただ、彼も人外だとすぐにわかる姿なので、怖いけど。
ラセツよりかは怖くないかな。
そう言えば、十二天の1人に伊舎那天がいるな。
イザナ、良い名前だよね。
「イザナはどう?」
「それも十二天の1人?」
「そう。駄目?」
イザナか。
ラセツは鋭いイメージだけど、イザナは少し温和なイメージがあるな。
2人目の男を見る。
肌の色が薄いブルーだけど、冷たい印象はない不思議な男。
「いいと思う。イザナにしよう」
名前を決めると、2人目の男にも首に模様が刻まれた。
「光輝様、遥様。イザナの名に恥じないよう、これからお仕えいたします」
「「よろしく」」
3人……人?
3番目に産まれたこの巨大な……なんだろう。
4足歩行で真っ黒な毛を持っていて……犬みたいな可愛い耳も持っているが、とにかく真っ赤な目が怖い。
しかも、口からはすごい牙が……これこそサタンという印象だ。
いや、駄目だ。
サタンなんて。
「2人の名前を十二天から貰ったから、全員神様関連の名前にしたいな」
「信仰していた神様でもいるのか?」
もしそうなら魔王になった時に、そうとう苦しかっただろうな。
「違う、違う! そう言うのではないから。ただ、なんとなくそう思っただけ。何なら魔王の名前でも問題なし!」
神様か魔王の名前か。
まぁ、俺は拘りとか無いし、問題は無いな。




