41話
不安な気持ちを抑え、卵がある部屋に入る。
「あ~、駄目みたい」
視線の先にはヒビが入り、変色した卵たち。
出入口からざっと部屋の中を見るが、見える範囲では全て同じ状態になっていた。
後からやってきたラルグが、卵の傍に寄り1つ1つ眺めていく。
まるで、エサを物色している大蛇に見える。
すっとラルグの視線が私を見る。
「アルフェ、馬鹿な事を考えてないか?」
どうしてばれたんだろうと視線を逸らすと、大きなため息を吐かれた。
いや、食べないのは知っているよ。
見た目は大蛇だけど、一応魔王だから……。
ただ、テレビで見た卵を丸呑みする蛇の映像がちらちら記憶に蘇るだけで、食べるとは思ってないよ。
「アルフェ、この卵は無事だ」
「えっ! どれ!」
ラルグが見ている卵に近付く。
ヒビは入っているが他と比べると変色が少なく、何よりドク、ドクという脈の動きを感じた。
諦めていたから、ちょっと感動する。
「他にもいるかな?」
1個が無事だったんだから、他にも無事な卵があるかもしれない。
探そう。
アルフェが卵の間を飛んでいる姿を見る。
生き残っている卵があればいいが。
「あと、4つは大丈夫みたい」
20個中5個が無事か。
死んでしまったモノには悪いが、生きているモノがいてよかった。
まぁ、今の俺たちの状況で喜んでいいのかは不明だけど……。
それにしても、これからどうすればいいのか考えないと駄目だよな。
あの龍を送りこんできた奴は、俺たちが生きていればまた何か仕掛けてくるだろう。
確実に殺すために。
どれだけの猶予があるだろうか?
もしかしたら今にも敵を送り込んでくるかもしれないし。
他の方法を取る可能性だってある。
どこかに身を隠したいが……。
「この世界には、隠れる場所が無いからな」
そうだ!
俺たちのように魔王になった者たちの世界があるんじゃないか?
もしその世界に紛れ込むことが出来れば、隠れられるかもしれない。
「ラルグ、どうしたの?」
「ここにはいられないから、どうしようかと思ってさ」
「いられない?」
ここって……この世界の事?
どうしていられないの?
あっそうか。
私たちは命を狙われているのだから、見つからない場所に逃げる必要があるのか。
でも、この世界に逃げ場所なんて無いよね?
動いているの私とラルグだけだし。
「どうするつもりなの?」
「俺たちのような存在を探して、そいつの世界に紛れ込む」
なるほど。
確かにそれだと隠れられるかもしれないけど……
「でも、ラルグ……」
不安そうなアルフェの声が聞こえる。
当たり前だよな。
「分かってる。この世界からの出方も分からないし、俺たちのような存在の見つけ方も分かっていない」
はははっ、問題だらけなんだよな。
「でも、ここでじっとしていたら、殺されるだけだ。俺は死にたくないから、最後まであがくよ」
「……そうだね。奴らの思惑通りにはなりたくないね」
何が出来るのか、正直分からない。
でも、このままなのは悔しい。
それに、ラルグと一緒だったら何かできるかもしれないしね。
「あぁ」
とは言ったものの、どうするべきか。
外の世界へ出る方法か……何も思い浮かばないな。
とりあえず、今の自分の状況を確認しておくか。
魔力が変わった事で魔法などに変化があったかもしれない。
「ステータスオープン」
ウィン。
『エラーのため表示できません』
「「…………」」
エラーって、自分のレベルも魔法も見られないじゃないか。
この場合、待っていたら修復されるなんて……馬鹿な希望は持たないほうがいいな。
でもどうしてエラーなんて?
魔力が変わったために、おかしくなった?
それとも……ゲームからの強制排除とか?
「レベルが分からなくなったね」
「そうだな」
レベルだけじゃなく、全てが分からなくなってしまったな。
それにしてもエラーが出た理由てなんだろう?
私たちの魔力が変わったから?
「あれ? ラルグ、卵が光ってる」
アルフェの言葉に、生き残った卵を見る。
確かに淡く光っている。
「何か起こるのか?」
生まれるとか?
いや、早すぎるよな。
「「…………」」
何も起こらない。
なら、どうして光っているんだろう。
そっと羽を近づけ、止まる。
黒い煙……羽は諦めて足を見下ろす。
……何となく嫌。
仕方なく顔をそっと卵に当てる。
ん?
「うわっ!」
「アルフェ! どうした?」
「……魔力を吸われたみたい。お腹が空いてるのかな?」
魔力を吸われたって、なんでそんなに呑気なんだ!
「体は大丈夫なのか?」
ラルグの心配そうな声が聞こえ、視線を向けると私をじっと見つめていた。
本当に心配性なんだから。
「大丈夫。すごいよこの魔力。減ったと思ったらすぐに満タンになって、それで溢れた感覚がした」
満タン? 溢れた?
アルフェの言葉に首を傾げる。
意味が分からない。
というか、アルフェは魔力をしっかり感じられるのか?
「ラルグも、卵に触って、魔力をこの子たちに与えてあげて!」
減らないなら、与えてもいいが……不安だ。
アルフェの方が魔法関係は強いもんな~。
「ふぅ。やるか」
ラルグの異様に力の入った声に首を傾げる。
なんでそんなに力んでいるの?
ただ、少し魔力をあげるだけなのに。
卵にアルフェのように顔で触れる。
トクトクと脈動が聞こえ、卵の温かさがじんわりと顔に伝わってくる。
あっ、これか。
体の中心部からスーッと何かが抜ける感覚がする。
さっと顔を卵から離すと、流れが止まる。
そして、ドクンという大きな鼓動と同時に感じる温かさ。
そして満たされる感覚がして……止まらない?
なるほど、見えるわけではないが、確かに溢れたような感じがするな。
それにしても、こんなにはっきりと魔力を感じたのは初めてだな。
「ねっ、溢れた感じがするでしょ?」
「不思議だな。魔力が増える時はなんだか温かく感じるし。こんなに身近に魔力を感じたのは初めてだ」
「私もここまで身近に感じたのは初めて、それに気持ちいいよね。じんわりぽかぽかって感じ」
感覚的な事を説明するのは難しいな~。
「あぁ、ふわっとした感じもしたな」
あっ、ラルグも同じ感覚を持ってくれたんだ、よかった。
それにしても私たち、表現方法が乏しいな。
何かもっと、いい表現の仕方がありそうなのに。
「残りもやるか」
「うん。やろう!」
私が残りの2つに、ラルグが残り1つに魔力を与える。
卵は魔力を与えられると、少し変化を見せた。
「ヒビが消えた。それに、ちょっと大きくなった?」
確かにヒビが無くなったし、大きく成長もしたな。
何気に楽しい物だな。
そう言えば昔、卵を孵化させて育てるゲームがあったよな。
あれの名前はなんだったかな?
「ん~、なんだか疲れたね」
何だろう、急に体が重くなったような気がする。
少し休憩しようかな。
生き残っている卵の近くに、そっと降りると羽をぐっと伸ばす。
「う~。気持ちいい~」
羽を伸ばすと、気持ちいい~。
そう言えば、羽はどうなったんだろう?
煙に覆われている羽を動かし、様子を見る。
あれ?
羽の先から1/3ぐらいまで広がっていた黒い煙が1/2にまで広がってきている。
これって浸食がすすんでいるよね?
……全身がいつか煙に覆われたりするのかな?
「どうした? 疲れたか?」
「少しね。ねぇ、羽に纏わりついている黒い煙が広がっているみたい」
アルフェの言葉に彼女の羽を見る。
確かに黒の煙で見えない部分が多くなっている。
ふと自分の事が気になる、後ろを振り返り尻尾を確かめる。
「あっ!」
どうやら俺の尻尾に纏わりついてる黒の煙も広がっているようだ。
「ラルグも一緒だね。この煙、見た目これだけど嫌悪感とか無いんだよね。なんか不思議」
アルフェの言葉に、確かに嫌悪感は無いと頷く。
まぁ、見た目が不気味だが。




