4話
『あ゛~、時間がかかりすぎだろうが!』
『うるさいコウキ!』
ハルカのイライラした声が聞こえるが、こちらもイラついている。
3回、回す予定にしたがHPが溜まらないせいで回せない。
2回目を回してからどれぐらいの時間がたった?
その間に分かったことは、俺たちに睡眠が必要ないということ。
まったく眠気が訪れない。
いや、寝ようと思えば寝られる。
ただし寝られるのは俺だけ。
ハルカは寝ようと思っても寝られないらしい。
何となく申し訳ないなと思い、ずっと起きていたのだが待ち時間が長い。
それにどうしてハルカは寝られないんだ?
意味が分からない。
『普通さ、ゲームの最初には初心者特典とかあるよな? 無料ガチャ10連発とか50連発とか! お金に代わるモノを大量にもらえるとか! 星確定とかさ!』
思い出せるゲームの特典をあげていく。
『そうだよね、乙女ゲームにもあるよ! 初心者の人のための特典! チケット無料ゲットとか!』
特典とゲーム内容で、遊ぶか決めたもん!
あ~、本当に特典、無料が恋しい。
「……が溜まりました。名前決めにレッツ、チャレンジ! 何になるかな~」
『ようやくか』
『うん、3回なんて決めるんじゃなかったね』
『意固地になったのも敗因だな』
2回で諦めたらよかったのに、言ってしまった手前何となくそこで止めたら負けたような気がしたんだよな。
『回すぞ』
『ゴー、ゴー』
アハハ、おかしなテンションになってるな。
まさかあの女性の機械音をこんな心待ちにする時があるなんて。
何となく悔しい。
ガチャガチャガチャ……ポン、ポン、ポン、ポン、ポン、ポン、ポン、ポン、ポン。
『『おぉ』』
なんだかすごい出てきた。
5個以上は出たんじゃないかな?
「おめでとう! 9個、手に入れられたよ! 次に行く?」
『9個か。最初が3個、2回目が4個、最後が9個。これだけあれば外れがあっても大丈夫だろう』
『よし、次へ行こう』
『了解』
目の前にある白い次へのボタンを押す。
クィーン……ギギギギィ……ギギギギィ。
『なんかおかしくない?』
ギギギギギギギ……ガゴッ。
「……が不足しています。溜まるまで待機します」
えっと、不足しているのはいい。
さっきボタンを押したのだから足りないだろう。
ただ、あの音は何?
ものすごく不吉なんだけど。
『ハルカ、不安を感じるのは俺だけか?』
『いや? 絶対何かあったよね』
『だよな。あっ』
驚いた声がコウキから出る。
どうしたのだろう?
『何? あっ、カプセルが……』
コウキに訊こうとしたら、空中にまっすぐ並んだ16個のカプセルが視界に入った。
『ハルカ、見えてるのか?』
『うん、見えてる。コウキにも見えてるの?』
『もちろん。なぁ「開ける」「待機」「捨てる」のボタンがあるけど、開けるでいいよな?』
ん?
カプセルは見えるけど、コウキが言った言葉はない。
また、私は見られないのか。
『私には見えないから』
『また? どういう事だろうな?』
『……さぁ、なんだろうね。それよりカプセル!』
今はそれについて考えたくない。
それにその答えは、どんなに嫌でもすぐに出ると思うし。
『確かにな。それで、開けるでいいんだよな?』
『うん、いいと思うよ』
さっきの不気味な機械音が気になるな。
何か詰まったような、そんな音に聞こえたけど。
『あ~!』
ちょっと不安を感じていた心が、コウキの声で打ち消される。
『何?』
今度は何?
『ハルカの言葉が正解だった』
『どうしたの?』
『見えないのか?』
『うん、割れたカプセルだけは見えた。今は消えたけど』
コウキがボタンを押したのだろう、並んでたカプセルが一瞬で割れた。
そして10秒ほどしてスーッと空中に消えていった。
不思議な世界だよね。
『外れがあった』
『やっぱりね』
ここまではハルカの予想していた通りだろう。
が、次は絶対に予想外のはずだ。
3回は回しておいてよかったと、ほんとしみじみ思うわ。
『カプセル1つに1文字だった』
『マジで?』
1つに1文字?
最初でやめていたら3文字?
まぁ、名前を作れないことはないのかな。
『あぁ、まさかだろ?』
『そうだね、外れは何個だったの?』
『2個』
『2個か、よかった』
『あぁ、それは本気で思った。それと名前は自動で決まるみたいだ』
『どういう事?』
『文字が出てきたら「出来た名前でレベルがアップするよ。あなたの運は私にお任せ!」と表示された。で、この一文が出てきた文字に被さっているから、どんな文字があるのか全く見えない状態だ』
出来た名前でレベルがアップ?
『そういう大切な事は最初に言えって思うのは、私だけかな?』
『いや、俺もそう思う。はぁ、押さないと先へ進めないけど、奴らの思い通りになっているのかと思うとムカつくな』
それは本当にムカつく。
でも、次へ行く必要がある。
『諦めよう』
『だな。押すぞ!』
私が知りたくない答えが出る。
ずっと気になっていた。
どうして私には、コウキと違って見えないモノがあるのかと。
そしてある考えが浮かんだ、もしかしてと……。
本当は押してほしくない。
でも仕方がない、私たちは先に進むしかないのだから。
『うん』
ポポポポン
軽く殺意を覚える音だよな。
もっと何かあっただろうが。
「決定! あなたはラルグ・デグ・シャルマスとなります」
『馴染めるか~!』
なんだその名前!
『あははは、なんかすごいの出たね。で、覚えられなかったんだけど、なんて?』
まさかの名前に気が抜けた。
そして「やっぱり」と思った。
『ラルグ・デグ・シャルマスだとよ』
なんだこの名前。
まったく馴染めそうにないんだけど。
えっ、本気でこれが俺の名前になるのか?
俺っていうか魔王としての名前だよな。
やっぱりコウキの名前だけだった。
これではっきりした。
『ねぇ、コウキ』
『なんだ?』
『私ってここにいたら駄目な存在じゃない?』
『はっ?』
何を言い出すんだ?
ここにいたら駄目?
そんな馬鹿な事あるわけないだろう。
『そんなわけないだろう?』
『奴が言った言葉がちょっと気になっていたんだよね。で、今確信が持てた』
奴が言っていた言葉。
俺も聞いたはずだ。
何を……思い出せない。
何を言っていた?
『あいつ「あなたは」と言ったの、「あなたたちは」ではなくね。つまりここには2人ではなく1人が正解』
1人?
でも俺とハルカ2人いる。
『だから名前も1人分』
だから今、確信できたって言ったのか?
だとしても、関係ない。
だってハルカはここに居るじゃないか。
『ハルカはここにいるだろ。名前がないって言ってもハルカって名前はある』
『そうだけど、いつか消えるかもしれない。ここは魔王の場所。魔王になれない私はいらない存在でしょ?』
認められていない存在なんだもん。
もしかしたら今すぐ消えるかも。
『まだ、わからないだろう?』
『そうだけど』
ハルカが消える?
ここに俺が1人残されるのか?
それは駄目だ。
そんなことになったら……。
『ハルカ』
『なに?』
『ハルカが不安なら俺が何度でも名前を呼ぶ。だから消えない』
『なにそれ』
『絶対に消えない』
そうなのかな?
不安になりすぎ?
でも、名前……。
『それに、あんな名前ほしいか?』
『あっ、それはいらない』
『おい!』
『だって、感覚は日本人だよ? なのに横文字の名前だよ? って、っもう覚えてもないけど』
『だから、あっ、消えてる』
あれ?
名前何だったかな。
『やばっ、俺も忘れた』
『いや、それは駄目でしょ』
『仕方ないだろう。俺だって感覚は日本人なんだ。それがいきなり……ラ、ラ、ラグ? マジでなんだっけ?』
なんだかちょっと違うような気がするな。
ラグ、ラグズ? ランド?
はぁ、横文字の名前なんてすぐには覚えられないって!
『とりあえず、ハルカは消えない! 絶対だ!』
ハルカが消えるなんて、許さない。
俺を1人にするな!