3話
『これからどうする?』
魔王として認めたのはいいけど、これから何をすればいいのだろう?
奴の話を思い出すと、弱いままだと殺される。
もしかしたら、今も既に狙われている可能性だってあるってことだよね。
でも、強くなるってどうやって?
そもそも、体がない!
これが一番の問題だよね。
『なぁ』
『なに?』
『体ってどうやって手に入れるんだ?』
『…………何か、思い出すとか、気付くとかない?』
コウキから戸惑った気配を感じる。
『私たちは魔王となったようだけど、私のはコウキから受け取ったモノだからね。だから魔王としての知識があるならコウキのほうだと思う』
流れ込んできたあれが魔王として誕生させる何かだとすれば、コウキの方がきっと強いはず。
いうなれば、私のはコウキから出た残り物で作られた魔王って感じ?
……嫌だ、言っててムカついてきた。
『なんか、怒ってねぇか?』
『……気のせいよ。で、何かありそう?』
『2つ』
これでいいのか?
でも、中途半端なんだよな。
本当にこれであってるのか?
『何?』
『溜めろ、そして回せ』
『はっ? なにそれ』
溜めろ?
何を?
回せ?
何を?
……それだけ?
『だから、体と強さを求めたらこの2つが頭に浮かんだんだよ! 俺だって知るか!』
俺だってちゃんと説明したいんだ。
でも、これ以上は何も思い浮かばなかった。
くそっ。
どうしろっていうんだ。
『落ち着こう』
『そうだな。悪い』
『私もごめん。溜めろ、か。私たちは動けない。でも、溜めろ……』
『じっとしてても溜まってる可能性があるかもしれないな』
あぁ、そうか。
その可能性がある。
でも、溜まったかどうかなんてどうやって調べるの?
『何だろう、何か思い出せそうなんだけどな』
コウキから乱れた気配が伝わる。
何か考えているみたい。
邪魔をしないようにしとこう。
『溜める、回す、魔王』
あれ?
何だろう、私も何かが引っかかる。
『あっ、ゲームみたいだよね。ゲームだと勇者を強くして魔王討伐だけど』
『確かにな、溜めるのはHPか?』
『回すのは?』
そうか、回すがあったな。
ん~。
『あっ、ソーシャルゲームだとガチャだよな。強くなるために回すのって』
『へぇ~』
『知らないのか?』
『私は……乙女ゲームしか知らないみたい。攻略対象者とのイベントをクリアして好感度を上げていくの』
うん、よくやっていたな。
そういえば、もう少しで隠れキャラを見つけられるはずだったのに。
悔しい。
『へぇ~、乙女ゲームか』
『ゲームだとHPはどうやって調べるの?』
ステータスオープンだよな。
『ステータスオープンだな』
ウィン。
『『えっ』』
なんの音?
何か音がしたけど。
『今、何か音がしたよな?』
『コウキも聞こえた? でも、見えないよね』
『……目がないからな』
『うん』
俺がステータスオープンといったら音が聞こえた。
もしかして本当に出現したのか?
この世界はゲームに近いのか?
『この世界はゲームに近いのかもしれないな』
『どうして?』
『さっきの音の正体が、俺の言葉に反応していた可能性があるような気がして』
気のせいだといいんだが。
『さっきのステータスオープン?』
ウィン。
『『…………』』
これは、間違いなく反応していると言っていいな。
つまりあれが表示されるのか。
今は俺たちに目がないから見えないが。
っていうか、出るなら頭に浮かんでもよくないか?
ちっ、その辺はケチだな。
『リセットボタンあるかな?』
『期待はしないほうがいいんじゃないか』
『だね』
リセットのないゲームの世界?
なんて世界に来てるんだろう。
異世界転生の小説とか読んだ事はあるけど、体がない転生なんて読んだ事ない!
体ぐらい用意しとけ!
ピコン
「……が溜まりました。名前決めにレッツ、チャレンジ! 何になるかな~」
『『………………』』
はぁ?
なにそれ。
その人を馬鹿にしたような言い方!
『私たちの事、絶対馬鹿にしてるよね。それに名前ってどういう言うことよ!』
ハルカって名前があるわよ!
ちょっと違和感はあるけど、私の名前だから。
『まぁ、俺たちは駒だからな。使い捨ての駒。名前は、魔王としての名前って事だろう。たぶん』
あ~、イライラする。
魔王になるのは、すでに心が納得しているからもういい。
でもあの軽い言い方。
もっと何かあるだろうが。
『コウキ、やろう。奴らの思い通りなのは本当に腹が立つけど、今は強くなって殺されるのを回避しないと』
『だな。とりあえず、目標は?』
『体を手に入れる』
『ハルカ、その目標は小さくないか? 奴らをぶっ飛ばすぐらいの、大きな目標とかないのか?』
『言っておくけど、奴らとは二度と会いたくないからね』
『なんで?』
『同じ空気を吸うのも嫌!』
なんとも言えない不気味な気配がハルカから流れてくる。
この気配はやばい。
『わかった。わかったから落ち着け!』
『よし! で、何を回すの?』
ぽこん。
見えないはずなのに、目の前に厚さ1㎝ぐらいの円柱状の白いモノが現れた。
『これみたいだな』
『そうだね』
空中に浮く、白い円柱。
『ねぇ、回すっていうより押すじゃない?』
『だと思う。とりあえず、押してみるわ』
白い円柱に煙のようなものが近づくのが見えた。
煙が白い円柱に届くと、1㎝あった厚みが2㎜ほどに縮む。
コウキが押した結果だろう。
本当、目がないのにどうやって見ているのか。
これが見えるならさっきのステータスオープンも見れたらいいのに。
気が利かない奴ら。
いや、わざとなのかも。
ガチャガチャガチャ……ポン、ポン、ポン。
「おめでとう! 3個、手に入れられたよ! 次に行く?」
本当にムカつく!
こっちは……ふぅ。
『はぁ、とりあえず3個……ガチャガチャのカプセルに見えるのは気のせいか?』
『気のせいじゃないよ、私にもしっかり見えてるから』
本当にどこまでも俺たちを馬鹿にしたゲームなんだな。
もう、これについては諦めよう。
いちいち反応をするのも馬鹿らしい。
『次へ行くでいいか』
『何』
『えっ? 白のって、これもうボタンでいいよな? 回さず押すし。新しく2個のボタンが出ただろう? だから次へって方を押していいよな?』
コウキの言葉にボタンを探す。
が、無い。
『コウキ、私には見えないけど』
『えっ?』
『さっきのボタンがあった場所に現れたぞ』
なんで、ハルカには見えないんだ?
もう一度ボタン2個を見る。
確かにそこにある。
『見えないよ。私にはコウキが見えてるボタンが見えない』
コウキと違う風景を見ていると思ったら、なんだか怖いな。
いきなり、コウキがいなくなったりするのかな?
ハルカから不安な気持ちが伝わってくる。
『ハルカ、大丈夫だ』
確証はない。
でも大丈夫だと信じるしかない。
ハルカが不安になると、俺も不安になってしまう。
きっと俺たちが繋がっているからだろう。
『うん。よしっ、大丈夫! コウキ2個ボタンが出たって言ったよね?』
怖がるな、私。
まだ、コウキと繋がっているのは何となくわかる。
大丈夫。
『あぁ、2個だ』
『1個は「次へ」として、もう1個は何?』
『もう1個の方は「もう一度回しますか?」だな』
本当にゲームみたいだな。
『もう1回か2回、回さない?』
『えっ? どうして』
『ここまで私たちを馬鹿にした設定なんだから、カプセルの中身が空っぽとかありそうだなって』
空っぽ?
ないとは言い切れない。
ありえそうだ。
『そうだな、慎重に進めたほうがいいような気がする。「もう一度回しますか?」にする』
「……が不足しています。溜まるまで待機します」
『なるほど、こうくるんだ』
『みたいだな。まぁ、待つしかないな』
名前を決めるだけで、結構な時間を使うってゲームでもありえないだろう。
普通は名前を決めてからゲームを始めるからな。
はぁ、諦めたと言い聞かせたけど、ふざけんな!