23話
「疲れた」
終わらない。
木箱が転がる一室で、前足後ろ足をそれぞれ思いっきり伸ばしてお腹を床に着ける。
「冷たい……気持ちいい」
やはり紙袋同様に、開けなければマジックアイテムは消えるのか木箱の多くは空だった。
はぁ~、どれだけのマジックアイテムを無駄にしたのか。
勿体ない事をしてしまった。
「代理戦闘カードを新たに手に入れる事は出来なかったしな」
あと少しで使っている代理戦闘カードの効力が消える。
そうなれば、オウマイトでの魔物討伐は俺が自分の手でやる必要がある。
カルチェにやらせたら、カルチェのレベルが上がるだけで俺のレベルは上がらないからな。
面倒くさい。
「今までのように、カルチェに討伐をさせて俺のレベルを上げる方法は無いか?」
そうだ、マジックアイテムにも代理戦闘のようなアイテムがあるのではないか?
空になった木箱を見つめる。
そして、そこから出したマジックアイテムを見つめる。
集めていた木箱は多く、まだすべてのマジックアイテムを出し終えたわけでは無い。
それでも、既に20個近くのマジックアイテムを手に入れた。
全ての木箱を開ければ、おそらく50個弱ぐらいはあるはず。
その中に、代理戦闘のような力を持つアイテムがあるかもしれない。
「確かめるのも大変そうだな」
積まれている大小さまざまなマジックアイテムを見る。
木箱から出したが、それにどんな力があるのかまだ1つも確かめてはいない。
全部で50個弱?
誰か代わりにやってくれないかな?
コンコン。
「ん?」
伸ばしていた4本の足に力を入れて体を持ち上げる。
「なんだ?」
「失礼いたします」
扉から入ってきたのはジルール。
大陸に魔王の偵察隊が潜り込んでいないかの調査をさせていた。
ここにジルールが帰ってくるという事は、いなかったという事か?
ジルールは傍までゆっくり近付くと、跪く。
「時間が掛かり申し訳ありません。今のところ偵察隊の気配はありません」
「そうか」
いないか。
いや、もしかしたらレベルが我々より高く隠れられた可能性もあるか?
もしそうなら、何をしても無駄かもしれないな。
ジルールには引き続き大陸で待機させておくか。
ん?
視線を部屋に走らせ、開けていない木箱の山を見つめる。
視線を少しずらせば、効力が不明のマジックアイテム。
「ジルール、木箱からマジックアイテムを取り出し、それにどんな効力があるのか調べよ」
「はっ」
ふ~、いいところにジルールが帰ってきてくれたな。
これで後は任せればいい。
「頼むぞ」
「はっ」
ジルールにマジックアイテムの事は任せ、一室から出て隣の王座の間へ移動する。
王座に座ると自然とため息が出る。
そのまま、少しの間目を閉じる。
コンコン、コンコン。
「んっ?」
コンコン、コンコン。
ふと意識が浮上する。
もしかして寝ていたのか?
背中を反らして体をほぐす。
椅子の上で寝たせいか、疲れが取れていないな。
コンコン、コンコン。
「そう言えば、誰か来ていたな。……入れ」」
「失礼いたします」
ヒリルアが王座の間に入り、軽く目を伏せる。
王座まで近付くと、頭を深く下げた。
犬種は良いよな、歩きやすそうだ。
「偵察隊より連絡がありました。『1日数時間、魔王が作った大陸にて姿あり』とのことです」
1日数時間。
大陸に姿を見せる以上レベルは1以上。
姿は当てにならないな。
「配下を連れているか確認は?」
「ここ数日には同行していないようです」
連れていない。
それは連れて歩く配下がいないのか。
それとも別の仕事をさせて一緒にいないのか。
配下がいない場合は、魔王のレベルは3以下だ。
あれはレベル3にならないと作れない。
「大陸の滞在時だが、数時間とは正確には何時間だ?」
「1日目4時間、2日目4時間、3日目5時間です」
変身魔法はレベルによって時間が異なる。
レベル2だと変身魔法は6時間、レベル3だと12時間だ。
配下と滞在時間、どちらもレベル3以下だと表している。
なら討伐するのに最適な時期だ。
配下が出来ると厄介だからな。
一気に落とすか。
「すぐに討伐の用意を。同行はヒリルアとカルチェ。偵察隊のカッチェラとミールールは魔王がオウマイトに逃げないよう、転移魔法のある場所を見張れ。魔王が現れたら死なないように攻撃」
「はっ」
ヒリルアが颯爽と王座の間を出ていく。
それを見送り、体に魔力を循環させる。
隅々までいきわたるのを感じる。
「変身」
体の周りにきらきらした光が舞う。
それと同時にぐっと視界が上がっていく。
しばらくすると、体がふわりと軽くなり光が消える。
自分の体を見下ろす。
視線は高くなり、2本の足で立っている。
上手くいったな。
コンコン。
「入れ」
入ってきた人型の2人、ヒリルアとカルチェ。
王座の前に来ると2人は跪き、深く頭を下げる。
「転移の準備が整いました。偵察隊の方の準備も完了しています」
「行くぞ」
「「はっ」」
王座から降りて転移魔法のある白い空間に向かう。
魔王がレベル2なら、すぐに勝負はつくだろう。
これが同じレベルの魔王だと本当に死闘になる。
以前一度、まだレベルが4の時同じ魔王と戦ったが、あれは危なかった。
あれからは魔王を見つけたら、まずはレベルを調べるようにしている。
二度と危ない橋を渡るつもりは無い。
白い空間に着くと、壁際にメイドの姿が見えた。
俺の視線に気付くと、3人が同時に綺麗な礼を執る。
「行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
城の空間の床に描かれた魔法陣の中に入る。
続いてヒリルアとカルチェも魔法陣の中に足を踏み入れる。
「転移」
部屋に充満していた魔力が白く輝くと、視界が変わる。
視線を動かし情報を確認すると、近くに偵察隊の1人ミールールが跪いているのが見えた。
「魔王は?」
「只今、大陸の森で魔物を討伐しております」
討伐という事は、魔力が減っている状態だな。
「ミールール、魔王の転移魔法のある場所は近くか?」
「はい。ここより1分ほど歩いた場所に建物があり、その中だと思われます」
「分かった。ミールールはカッチェラと合流し、魔王がそちらに逃げた場合のみ攻撃を許可する。ただし殺すな」
「はっ」
ミールールが跪いた状態で頭を下げると、立ち上がりすぐに移動する。
それを見送り、後ろを向く。
後ろにはヒリルアとカルチェが跪いている。
「魔王の討伐と同時に、お前たちは大陸にいる魔物の討伐を」
レベル2の魔王なら1人でも大丈夫だろう。
「はっ」
風に乗って微かに魔力を感じる。
魔王が魔物の討伐を終わらせて、転移魔法のある場所へ移動をし始めたようだ。
魔力の認知はレベル8になって手に入れた力。
これのお陰で、相手の動きが少し分かるようになった。
「来るぞ」
魔王の動きに合わせて移動を開始する。
手に魔力を纏わせる。
逃がさないように一撃で仕留める。
「いた。……お前たちは今すぐ魔物の方へ行け」
魔王の姿をとらえた。
姿は人型だが、まだまだ力が弱いのか細い体をしている。
これなら余裕だ。
ヒリルアとカルチェに魔物に向かえと指示を出す。
2人が魔王に見つからないように、移動するのを確認して魔王に向かって歩く。
ドンドンと近付く距離。
魔王がすっと顔を上げたので、立ち止まり魔王と対峙する。
視線が絡む。
ぐっと足に力を入れて走りだすのと、魔王が背を向けて逃げるのはほぼ同時。
どうやらこちらの強さに気付いたようだ。
手を魔王に向けて翳し、
「ウォーター・アロー」
魔法の唱和と同時に、手から水の矢が生まれ魔王に向かって飛び出す。
次の瞬間、水の矢が魔王の心臓部分を貫いた。




