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強制的魔王  作者: ほのぼのる500
魔王?
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2話

『とりあえず、自己紹介しない?』


『あぁ、そうだな』


魔王と連呼していたのが相当ショックだったのか、声に張りがないな。

大丈夫かな?


『えっと、まず私からするね。……あれ、名前……名前?』


『大丈夫か?』


『えっ、大丈夫のはず……ハルカ。そう、ハルカだったような気がする』


そうだ、確かそんな響きの名前だったはずだ。

なんでうろ覚えなんだろう?

自分の名前だよ?


『なんだか曖昧だな。俺は……コウキだと思う。ミズキ? リョウ? いや、コウキだ。たぶん』


彼女の心配をしたが俺も同じだな。

自分の名前に自信が持てない。

本当にコウキだったか?

くそっ、どうしてはっきりしないんだ?


『ハルカだよね?』


名前が合っているかコウキに訊いてしまったけど……。


『コウキであってるよな?』


自信が無いから訊いてみたが……。


『『…………ハハハ』』


まさか自分の名前を疑う日が来るなんて。


『えっと、ハルカでいいよ。うん、私はハルカ』


ここでぐちゃぐちゃ悩んでもしょうがない。

少し不安はあるけど、合ってるはず。


『俺もコウキでいい』


馴染んでいるかと言えば不安があるが、これ以外の名前には違和感が強い。

だからきっとこれでいいはずだ。


『分かったよ。コウキだね』


『あぁ。…………記憶が不安定だと、気持ち悪いモノだな』


落ち込んだようなコウキの声。


『そうだね。記憶って大切なんだと初めて実感したよ』


私の声も少し震えている気がする。


『俺もだ。それよりありがとうな。あいつ等に奪われたモノを取り返してくれて』


ハルカがとっさに掴んでくれていなかったら、今の俺は消えていた。

それを考えるとぞっとする。


『それだけど、私が守ったモノはほんの一部なのかもしれない』


『どういう事だ?』


『だって、私たちは自分の名前すらはっきりと思い出せない。きっと、既にあいつ等に何かされているんだと思う』


確かに、奪われそうになったモノを取り戻してくれたはずなのに名前をはっきりと思い出せないのはおかしい。

しかもハルカもだ。

これだけ考えても、既に何かされた後だと考えられる。

まてよ、そうだとしたら名前を奪われただけで済むのか?

もしかして他にも何かされた可能性があるんじゃないか?


『怖いが、自分たちの事を確認しないか?』


『えっ?』


『うろ覚えなのは名前だけか? もっと色々何かされている気がする』


『確かにそうだね』


怖いけど、まずは自分の事をしっかりと把握しないと。


『今、分かっていることは?』


『名前よね。ただ、それが本当に私たちの名前かどうかは不明だけど』


『あとは俺は男でハルカは女だよな』


『えぇ、あと年齢は?』


『『…………』』


『駄目、思い出せない。家族のことも無理みたい』


『俺もだ。仕事をしていた事は思い出したが何をしていたのかは思い出さない』


『仕事……。私は仕事をしていたのかも分からない』


『かなり記憶が消されているな』


『そうだね。ちょっとショック』


私が何者なのか、全く分からないなんて。


『俺たちの事はまたあとで考えよう』


思ったより酷い。

今の俺が本来の俺なのかも分からない。


『そうだね。ふぅ、体は無いよね』


『あぁ。何となくだが体を持っていない事を理解している』


しかも体を持っていない事に疑問を感じていない。

それが異常だよな。


『目もない』


ハルカの疲れたような声が届く。


『口もな』


『これって恐怖を感じるところだよね?』


『たぶんな』


『『………………』』


きっとコウキも同じ。

その事に恐怖を感じていない。

頭ではおかしいと考えているのに、気持ちは既に理解している。

どうなっているの?


駄目だ。

このままこの話を続けると落ち込みそうだ。

少し別の話をしよう。


『そうだハルカ。奴が俺たちから離れる前に何か言っていただろう? 聞こえたはずなんだが何も思い出せないんだ。何を言っていた? 何か重要な事を言っていたような気がしたんだが』


失敗した。

別の話と言っても、これは駄目だろう。


『確かに重要だと思う。あいつは【魔王として強く成長してくださいね。そしてあの御方を楽しませるのです。それが駒の役目なのだから。まぁ既に興味が薄れ、見ていない可能性の方が高いですがね。それでも生きるためには強くなるしかないのです。弱ければ殺されるだけなのだから。いずれ死んで消滅する時まで、足掻(あが)いてください。とはいえ、本当にいつまでこんなお遊びを続けるつもりなのか。飽きたのなら終わればいいのにね。さようなら、もう2度と会う事は無いでしょう】と言っていた』


あれ?

私、良くこんな長い台詞を覚えていたな。

記憶力がいいの?


『凄いな、良く覚えていたな』


『私も驚いている。で、奴の話した事を思い出して気が付いたんだけど、『魔王として強く』という事は魔王以外にはなれないのかな?』


2度と会うことがないには賛成だが、それ以外が最悪だ。

足掻いてくれとか、ムカつく。

遊びとか、飽きたとか。

私たちをなんだと思っているのよ!


『なんとなく魔王になることが決定しているような言い方だな』


コウキの嫌そうな声が届く。


『うん』


というか、きっと魔王以外にはなれない。

どこかで分かっているような気がする。

だって……。


『私の中に何かある。コウキ、分かる?』


コウキと再度つながった時、彼からすごい勢いで何かが流れこんできた。

気持ち悪いから追い出そうとしたけど、無理だった。

そしてこの何かだけど、さっきから体にじわじわと広がってきている気がする。

全て感覚的な事だから、本当かどうかは分からないけど。


『何か? そんなモノあるか?』


『えっ? 感じない? コウキと繋がった時に何か流れてきたんだけど』


『……そうなのか? ちょっと待ってくれ』


俺から流れた?

ということは俺の中に何かがあるということだよな。

違和感を覚えるモノがあるか調べたいが、どうすればいいんだ?


『あのさ、もう無理かも』


『なぜ?』


『コウキから流れてきた何かなんだけど、私の体に広がって違和感が徐々に消えてる。たぶんコウキは既に体中に広がってしまっているのかも』


『げっ、まじで?』


『予想だけどね。それと私の中の何かも、今はもうほとんど感じられなくなってる。諦めるしかないよ。きっとあいつが言ったように既に決まっているのだと思う。認めたくないけど、魔王になってるのかな?』


じわじわ広がっていたから恐怖を感じたのに、広がれば広がるほど恐怖が薄れて行った。

それが怖いと思ったのに……今はもうそれすら無い。


ハルカの諦めた声。

俺は知らない間に馴染んだみたいだけど、ハルカは徐々に広がって馴染む恐怖を感じたんだよな。


『大丈夫か?』


『なんだろうね。たぶん、変化をさせるモノだと思う。気持ち悪いと思うのに、体は受け入れてる感じっていうか。言葉にするのは難しいけど、すでに馴染んでるし怖さは無い。うれしくないけど』


『そうか』


俺は既に馴染んでしまって違和感がないということなんだろうな。

しかし、それって何なんだろう。

俺たちの体に必要なモノ?


『魔王になるためのモノのような気がする』


『そうかもな』


さっきまであった魔王になることへの違和感が消えている。

これってさっき感じた何かが体に馴染んだからだよね。


『コウキ』


『何?』


『……魔王になることに違和感を覚えないんじゃない?』


『あぁ、恥ずかしいと思うのに俺の中に「俺は魔王だ」という気持ちがある』


きっと奴らが何かしたのだろう。

中二病か! という気持ちがあるのに、違和感がない。

それどころか早く魔王として自覚しなくてはという気持ちまで湧き上がってきている。


『魔王は決定か~』


おそらく、それ以外は選べないよね。

だって、魔王という言葉を身近に感じてる。

あいつが言ったように、私たちは魔王という駒にされた。

それ以外の全ての可能性を潰されて。

ただ、あの御方という存在を楽しませるだけの魔王という駒。


『魔王か』


頭では違和感があるのに、気持ちでは既に受け入れている。

まるで自分自身が2つになった気分だな。

……諦めるしかないのだろうな。

あの御方という存在を、楽しませるための魔王という駒になった事を。


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