11話
「ラルグ、闇魔法で何か思いつくものある?」
毒とか飛行は分かりやすいのに、闇魔法ってなんだか大雑把な感じ。
もっと詳しくどんな魔法なのか分かりやすく表示してくれたらいいのに。
「闇魔法か……あはは、知るわけないだろう?」
「あはは、だよね~」
困った。
せっかくあるのに活かせる気が全くしない。
どうしたものかな。
ラルグも分からないみたいだし。
「とりあえず、攻撃魔法はアルフェにも俺にもあるな」
「うん。使いたいよね。というか、何かあった時のために使えるようになっておかないと駄目だよね」
「そうだな」
アルフェは超音波攻撃で、俺が毒攻撃。
毒の出し方は牙からか。
とりあえず意識してみるか。
牙から毒が出るイメージ……出ないな。
どうやったら使えるようになるんだ?
「ん? 何か聞こえない?」
「えっ? 何が?」
「分からない、でも……」
gyagyaggyaggyagya。
「あっ、ほら!」
確かに何か聞こえるな。
不気味な音だ、いや声か?
「もしかして、この建物の外?」
「……そうだと思う」
という事は敵?
えっ、もう?
まだ攻撃魔法を扱えてもいないのに?
「どうする?」
「どうするって、ここに隠れてちゃ駄目なの? 今は戦えないよ!」
「そうだな。今の俺たちでは戦えないよな」
「うん」
「でも、ずっと隠れているわけにはいかないんだろうな」
ラルグの言う通りなんだけど、もう少し余裕がある時に来てほしい。
というか、あの声の持ち主は敵なのかな?
gyagyaggyaggyagya。
あれ?
さっきより近づいてない?
それにこれ1匹や2匹の声じゃない。
gyagyaggyaggyagya。
うん、近づいているね。
信じたくないけど、確実に近づいているわ。
それに、何重にも声が重なってる。
いったい何匹いるんだろう?
「アルフェ」
「わかってる。こっちに来てるよね」
「それは分かってる。そうじゃなくて」
「何?」
「この建物の出入り口を見たか?」
「出入口? 玄関の事? 見てないけど」
「玄関……まぁいいけど。その玄関に鍵はかかっていると思うか?」
「鍵?」
「そう、かかってなければ出入り自由だろう」
「あっ!」
そうだ。
玄関を確かめないと。
すごい数の声が聞こえるから、何かは分からないけど敵だったら殺される!
gyagyagugyagugyagya。
「とりあえず、玄関を探そう。外から入れるか確かめないと」
「わかった」
アルフェが飛び立ち壁沿いに飛んでいる姿を見ながら、アルフェとは反対の壁に移動して、玄関を探す。
しかし、先ほどの不気味な鳴き声は何なんだ?
なぜいきなり現れたんだ?
世界には、すでに生命体がいるのか?
でも、俺たちがこの世界を作ったばかりだよな?
分からん。
gyagyaggyaggyagya。
あ゛~、気持ち悪い声。
もう、来るにしてももう少し待ってくれてもいいじゃない。
攻撃魔法と防御魔法とか結界とか覚えた後に来てくれたら、ちゃんと相手して。
gyagyaggyaggyagya。
無理、無理!
なんなのあの声。
うわ~怖い、怖い。
「あっ、玄関を探しているんだった」
声に気をとらえて、ただふらふら飛んでいるだけだったな。
落ち着こう。
えっと、壁沿いに飛んでるけど、それらしい物はないな。
それに玄関ってどんな感じなんだろう。
見えない私に分かるかな?
「あれ? 何だろう」
見えていないのに、何故か壁のある部分に違和感を覚えた。
近くまで飛んで行くと、違和感を覚えた場所が光った。
「ん? 何? というか、見えないくせに眩しい!」
光が消えると、違和感が無くなっている。
そして微かに感じる風の流れ。
もしかして壁が消えた?
と言う事は、ここが玄関だったのか?
というか、近づいてたら消えたってもしかして。
「自動ドア?」
gyagyaggyaggyagya。
うわっ、ここが開いていたら入ってくるじゃん!
急いで玄関から離れる為に羽を動かす。
少し離れると、消えたはずの違和感が戻って来たので扉が閉まったのだろう。
「やっぱり自動ドアなんだ。あっ、ラルグに知らせないと」
そう言えば、見えてないのに壁とか天井がどこにあるのか分かるな。
それに、距離も結構しっかり把握できている。
これって蝙蝠の能力なのかな?
私としては、そんな能力より視力が欲しいけど。
そうしたらラルグの事だって、ちゃんと見られるのに。
今は赤い色をした何かとしか見えないのがつらい。
まぁ、蛇の形は分かるんだけど。
でも、これって蛇が2匹いたらどっちがラルグが分からないって事だよね。
うわ~、どうにかラルグだけ分かるようにならないかな。
はぁ~、無いな。
アルフェの方にあったのか?
それにしても無駄に広い空間だよな。
いったい何畳あるんだ?
「ラルグ。見つけた! 自動ドアだったよ」
「はっ?」
自動ドア?
どういうことだ?
「飛んで前に行くと、自動で開いた」
「なるほど」
gyagyaggyaggyagya。
随分近くなってるな。
ん?
自動ドア?
「それって駄目じゃないか?」
「えっ? どうして?」
gyagyaggyaggyagya。
「自動ドアなら、あの声の奴らが入って来るって事じゃないのか?」
「あっ、そうだった」
どこかに自動で開くのを止めるボタンがないかな?
ラルグの上でくるくる回っている暇はないな。
先ほど見つけた自動ドアの方へ体を向ける。
下を見るとラルグも一緒に来ているようだ。
「ここか?」
「そう。もう少し近づくと」
ラルグが扉に近づいたようで、違和感がすっと消えた。
「あっ、消えた。アルフェ、ちょっと外から開くか確かめるわ」
「どうやって?」
「外に出て扉が閉まったら、開くかどうか近づいてみるよ。扉が閉まってからなかなか開かなかったら、中から開けてくれ」
「わかった」
ラルグが外に出る。
玄関先は暗く、少し離れるだけでラルグを示す赤い色が見えにくくなる。
それに少し不安を覚える。
gyagyaggyaggyagya。
あっ、また声が近くなってる。
どれくらいでここにきてしまうんだろう?
「頼むな」
「うん」
すっと視界がほんの微かに暗くなる。
それと同時に違和感を覚える。
「あれ? 少しは見えるんだ。まぁ、こんな些細な変化では役に立たないけどな」
ラルグを示していた赤い色が視界から消える。
しばらく待たないと駄目だけど、まだかな?
「あっ、普通に開くな」
「ラルグ、よかった」
「いや、よくないぞ。奴らが自由に入ってくる」
そうだった。
でも姿が見えないと不安だったんだから仕方ない。
「どうする?」
「この玄関の周りにボタンとか無いか?」
「ボタン?」
「自動ドアを止めるボタン」
なるほど。
違和感を覚える周辺を探すが、何も見つけられない。
「ないみたい」
「こっちもだ。つまり止められないって事か」
「うん」
「仕方ない。声の主を見てみるか? 対処するにもそれからだ」
そうだけど。
gyagyaggyaggyagya。
「はぁ、大丈夫、大丈夫、大丈夫。よしっ!」
ラルグが私の様子を見て笑っている気がする。
蛇って笑えるのか……ニヤリが似合いそうな気がするな。
「行くぞ」
「……うん」
すごい緊張した声だが、アルフェは大丈夫か?
後ろをついて飛んでくるアルフェを見る。
ここからでは表情が読み取れないな。
「暗いな」
「暗いの?」
アルフェの言葉に驚くが、そう言えば視力が悪い事を思い出す。
そう言えば、アルフェは視力が悪いわりにぶつかったりしないな。
蝙蝠って何で周りを認識していたっけ?
駄目だ、思い出せない。
gyagyaggyaggyagya。
「随分近くなってきているな」
「うん。ラルグ、気を付けて」
「アルフェもな」
歩いていると強く風を感じる場所に出た。
もしかして完全に外に出たのだろうか?
生暖かい風が、なんとも気持ち悪い。
 




