勇者魔王の城でトランプを
ギイィ
轟々とした重圧な扉を一人の少年が開けた。
光に包まれたその先に待つ魔王を倒すためここまできた勇者だ。
腰には歴代の勇者たちが使っていた宝剣『マクシミリア』が相棒に付いている。
「あぁ、分かっている……魔王を倒してこの世界を平和にするんだ!!」
街に置いてきた仲間たちのためにも俺はここで……。
玉座に座る絶対悪……魔王『シャルティウス』は毅然とした態度で勇者が扉を開けるのを待った。
「魔王……貴様を倒しこの世界に平和をもたらす!! 覚悟しろ!」
「ふん、猪口才なこと!! そこにひれ伏し正座しろ!!!」
その直後、勇者の身体がこわばる。
身体中に電流が走ったかと思えば、腰を下ろし、硬い地面に正座してしまった。
「な、何のつもりだ……ま、まさか俺がなにも抵抗できないのを嘲笑い己が欲のために俺を殺すのか!!!」
憎悪を込めた声で魔王は呟いた。
「最近暇でさ、ほら、部下たちいないでしょ……逃げられちゃってさ。暇つぶしに来てくれる人を探してたんだよ。そんな時に君が来てくれたからさ感謝してるよ〜」
正座した勇者の前に丸いちゃぶ台を置く。
宝箱を開きガサゴソと何かを漁る。
「まさかその中には勇者殺しの魔剣でも……」
「いやいや、そんなことしないって。言ったろ?
暇だって」
鼻歌を歌い、先ほどの顔とは思えないようなニンマリとした顔でやってきた魔王の手にはトランプが握られていた。
「な、なにをする気だ」
「ポーカー知らない?」
「ポーカーだと?」
綺麗に並べられたカードを舐めるように眺める。
「ず、随分と手慣れているな」
「お? わかる?? 結構練習したんだよ〜これ意外と難しくてな……」
「そんなはなしをしているのではない!!
なぜお前がこんなことをしているのかと聞いている!!」
一歩引いた目で魔王は勇者を見つめた。
「暇だったから」
「こ、答えになっていたいぞ!」
「まあまぁ、抑えろよ。どうせ王都に帰っても暇だろ? それならしばらく俺の遊びに付き合えよ……」
「す、少しだけだからな」
ニンマリと魔王は笑いカードを配るのであった。
一時間後…………
「おい魔王それは酷いんじゃねーのか!」
「ふふふ、なにを言う勇者よ。ロイヤルストレートフラッシュ」
「くそ! また負けた。少しは手加減しろよ」
並べられたカード五枚を勇者は食い入るように見つめる。
ダンダンとちゃぶ台を悔しそに叩き感情をあらわにしていた。
「あははは……勇者弱すぎワロタww」
「つ、次こそは」
その時、扉が開かれた。
「勇者様!! ご無事で!!」
そこに現れたのは男武道家、女魔法使い、マスクをつけた盗賊の三人だった。
いの一番に駆けつけた魔法使いはちゃぶ台に上がっているカードを見つめた。
「貴方達……なにをしてーー」
「見てわからんのかリーシャよポーカーだとも」
「いや、そうじゃなくて」
頭を抱え大きくため息をついた女魔法使いことリーシャはちゃぶ台に座り、魔王に手を差し伸べた。
「わたしにもカードを寄越しなさい。勝負よ」
その後に来た武道家と盗賊も何の抵抗もなくちゃぶ台に腰を下ろし同じく手を差し伸べた。
「あの、お前らさここ仮にも魔王城だぞ? そんな無警戒にちゃぶ台に座ることないんじゃないか?」
「ボロクソにコテンパンにやられた勇者を見捨てることはわたしにはできません」
「そうだとも! ボロ雑巾みたくやられている勇者を捨て置くなどできるはずはないー」
コクコク、盗賊はなにも話さずただ首を縦に振るだけだ。
武道家は自慢の筋肉を見せつけるかのように魔王にカードをせびった。
「人数が増えて楽しくなってきた!」
楽しそうにワキワキしている魔王と鋭い眼光でカードを眺めているリーシャ以外はなぜかそわそわしていたが、そんなことはもう関係ない。
始まってしまったゲーム(闘争)はもう誰にも止められやしない。
第一陣カードが配られる。
勇者のカードはスリーカード、あとは雑魚。
魔王はフォーカード。
女魔法使いはペアなし。
盗賊は言うまでもなく……ゴミである。
武道家……まずルールを知らない。
「一応聞くがルールは知っているな」
「えぇ……わかるわ」
リーシャはカードを眺めて頷く。
盗賊はコクリと頷く。
勇者はニンマリと笑みを浮かべカードを二枚捨てる。
武道家? そんなのいたなそういえば。
互いにカードを捨て場を整えた。
魔王はなにも捨てず、そのまま勝負に。
リーシャはフルハウスで満足か。
盗賊は相変わらずゴミ。
武道家? いたかそんなの?
勇者……語るにあらず。
「魔王……チップはどうするつもりよ」
リーシャは袋から三ゴールド取り出した。
魔王、ニヤリと笑い秘蔵のコレクションBL本を取り出した。
その時、リーシャの目の輝きといったらもう……。
「そ、それは……限定販売されていたかの有名作者が書いたやつじゃない。どうして貴方が」
「わたしが作者だからだ」
「な、なんだって!!」
リーシャは腐っていた。それはもう見事に腐っていた。
ゼェゼェと荒い息で身を乗り出し、魔王の持つ本を取ろうとしたが……。
「これはダメだ。原本なんだから。勝負に勝てばやってやらないこともないが」
「ふふふ、わたしを本気にさせたのは勇者の初プレイの時以来だわね……いいでしょう。15(ゴールド)でいいわ。それだけの価値があるのだもの」
相変わらず筋肉を見つめているおっさんはさておき、1回目のオープンがされた。
結果は……。
魔王の一人勝ちである。
「クソが!!!!」
ちゃぶ台が壊れそうになるほどリーシャは頭を机にぶつけた。
その光景に盗賊はピクリと肩を震わせ涙を流していた。いつも、虐められていたのだろう。
「次よ次!!」
三時間後……。
盗賊はポーカーに飽き、寝ている。
勇者は持ってきていた本を読みふけっていた。
武道家……なにそれおいしいの?
リーシャはまだ勝てなかった。
全財産と、衣服のほとんどを魔王に奪われついには羞恥心まで捨て切った彼女にはもう敵はない。
魔王の手札。フォーカード。
リーシャの手札ロイヤルストレートフラッシュ。
価値は確定してた。
だが、彼女には掛けるものがなかった。
「おいおい、最後はなにを掛ける気かね?」
「……こうなったならば仕方ない。わたしの命を掛けよう。そのかわりわたしが勝ったらその本にサインをしてくれ」
魔王はゆっくりと頷く。
「ふははは……これでこれで最後なのよリーシャこいつを負かしてあの伝説の本を手に入れて帰るまでわたしの旅は終わらない!!」
結果は……言うまでもないだろう。
リーシャは下着だけを身につけて笑顔で帰っていた。
ゆっくりと扉が閉められ、何の悔いもなく彼女は去っていた。
「ふっ、また来るがよい。その時までにはさらなる高みを示してやろう」
「えぇ、また来るわ」
彼女はその本を天高くかざし凱旋をくぐった。
「なあ、帰りに服でも買って行こうか……」
勇者は羞恥心には勝てなかった……。
エンド!