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四半血孤の旅  作者: しば
方歴991年
4/4

奪取

「おはよー、みんな」

 私は大きく伸びをしてから、挨拶をした。

「おはよう、昏。遅いお目覚めね、皆さんもう出かけたわよ」

「えぇ、あの二人も?」

 見ると確かに、私の他に寝ているのは穂と宋だけだった。

「先生は?」

「あの人なら外に出てるわ。剣の稽古じゃない?」

「ん、わかった」

 私も加わろうとして、家の戸を開ける。

「―――っ!?」

 ……と思ったが直ぐに閉めた。

 外に、昨日の役人たちが集まっていたからだ。

 ちら、と戸を開いて様子を伺う。

 先生が表立って応対をしており、どうも税収の話をしているようだった。

「額はいくらだ」

「そうさな、この村の規模だと……といったところか」

 役人が金額を値踏みし、言い添える。

「……いいだろう。村を守るためだ」

 先生が役人たちに金袋を渡した。

「……確かに。では、季節が一回りした後は―――」

 このまま話が進めば、役人たちはこの村から出ていくだろう。

 良かった良かった、と戸のこちら側で息を潜めていると―――

「……おーっと、待って貰おうかい」

「不当な金の取引、見過ごしちゃあおけないねえ」

「……なっ、なんだ、お前らは!」

 小気味良い声が広場に響いたかと思うと、急に剣による火花が散った。

「―――頂きッ」

 役人たちの手に有った金袋が次々と消え失せ、その手に収まっていく。

 その正体は―――

「……お、お前たちは、昨日の……!」

 ―――そう、祭と舩、だった。

(あ、あいつら盗人だったの!?)

「そら、舩!」

「あいよ!」

 見事な身のこなしから、祭は金袋を相方の舩に手渡して、村の外れへと走り去ってゆく。

「に、逃がすな、追え!」

 役人たちが追いかけるものの、その姿はすぐに村の向こうへと消え去っていったのだった。

「あ、ああ、何という事だ!皇に捧げる税が……!」

 ただ一人残った役人が、今起こった事を嘆き悲しむ。

 その余りに哀れな様子を見て、しょうがない、と私は身を外へと出した。

「あー、わたしで良ければ取返しに行ってあげてもいいけど」

「ほ、本当か!?……って……」

「ん?あれ、君は……」

 姿を露わにして、その役人をよく見ると、知っている顔ぶれなのに気がついた。

「たしか……司?だっけ」

 リンゼンで最後に闘った気弱そうな少年だ。

 当然私の事も覚えているようで、血相を変えてこちらを指さした。

「お、お前!リンゼンの……!」

「『お前』じゃない、昏って名前があるの……ほら、急ぐわよ!」

「待て昏、どうするつもりだ!」

 先生の怒声が耳に刺さるが、今行けるのは私くらいだ。

「お金、取り返してくる!先生は待ってて!」

 そう言って、私は村を飛び出した。


  ……


「―――ホラホラ、走るの遅いよ!もっと早くしないとあの二人に追いつけない!」

「そんな、こと、言われ、たって……!」

 祭たちの足跡を辿って、平原の道を突っ切る。

 ひいひい言ってついてくる司に足を引っ張られながら、全力で走った。

 ……本当は、狐になればもっと早く走れるんだけどなあ。

 そんな事を考えて、ふと、司には狐の姿を目撃されている事を思い出した。

「あー!」

「ど、どうしたんだ?盗賊たちを見つけたのか」

「ちがう、あなた私に乗っかればいいじゃない!」

「は?」

 しゅるっ、と狐の姿に変化する。

「あ、あの時の……!」

「ほら、背中貸してあげるから乗りなさい!」

「え、……ひゃああっ!」

 司の脚を銜えて払い、背に乗っける。

 ちょっと……いや、かなーり重いけど、まあ行ける。

「じゃ、いくわよーっ!」

 びゅん、と勢いづけて道を疾走。

「い、一体何なんだ、お前はーっ!?」

 狼狽する司の声が平原に響いた。


  ……


 暫くの間走り続けると、前を行く祭と舩の姿が見えた。

「追いついたっ!」

「うわぁっ」

 私は速度を上げて二人の前に出ると、変化を解いて抜刀する。

 同時に後ろでどさり、と司が尻餅をついた。

「あっとごめん。……さあて、よくも騙してくれたわね二人共」

 刀を突き付けられた二人の顔には、にやりとした笑いが浮かんでいた。

「おお怖い。嬢ちゃんが追ってくるとは思わなんだ」

「戦いには無縁、とか言って。どうせそれも嘘なんでしょ」

「正解。まぁ自ら戦いたがる嬢ちゃんほどじゃあないけどねぇ」

 そう言って、祭と舩は獲物を取り出す。両手に短刀を扱う、二刀流だ。

「……」

 じり、と間合いを取る。

 かかって来たのは、舩の方からだった。

「ふんっ」

 月芽で受け止め、振り払うように斬る。

 舩はひらりと宙返りして避けて見せた。

「だぁっ!」

 ひと太刀、ふた太刀と斬撃を加えるが、どれも空振る。

 次の瞬間には祭が斬り込んできて、屈んでそれを避けながら月芽で足払う。

 空振り。

 矢継ぎ早に、交互に二人の攻撃がやってきて、それを必死で避ける。

 刀と短刀の応酬が続いた―――


「あ、わわ……」

 役人の少年、司は目の前の乱戦に困惑していた。

 もともと戦ったことの無い身の上、刀を抜く事すら出来ずにいる。

 だが、自分の今の役目は―――

(賊の、討伐……税の奪取!)

 カタカタと震える鞘と手を何とか諫め、勢いよく、抜いた。


「―――くっ!?」

 初め互角に戦えていたと思っていた戦局は、ある時を境に崩れ始めた。

 何とか祭と鍔迫り合いに持ち込むが、やはりニ対一では分が悪い。 

 そう思っていた時、横から人影が突進してきた。

「……やああぁ!!」

「つ、司!?」

 思わぬ少年の姿に、二人もぎょっと目を見開いた。

 その滅茶苦茶な太刀筋は祭の腰元を掠め、結んでいた金袋を取り外させた。

「っ、いただきっ!」

「あ、この……!」

 その隙に金袋を取り返し一旦下がる私。

「はぁっ、はぁっ……まず、ひとつっ」

 そう言っては見るものの、今のは只の偶然。実力ではなかった。

 それを見通してか、祭が声を上げた。

 その一言一言に、疲れは見えない。

「はっは、やられたな。……まぁ、この辺りにしておくか」

「なんですって?」

「あんまり嬢ちゃんと遊んでも居られないって事さ……舩!」

「はいよ」

 祭が目配せすると、舩が何かを取り出した。

 ……何かの、玉?

「あばよ、嬢ちゃんたち!」

 船がそれを思い切り地面に投げつけると、煙が大量に噴き出した。

「うわあっ」

「くっ……げほっ、ゲホッ!に、逃げるつもり!?」

「その通り!」

「悔しければ、都に来るこった!縁があれば会えるだろうよ!」

「祭!それは言わなくても良い!」

「おっと。ははっ、それでは御機嫌よう!」

 煙幕が長い事辺りを包み、晴れた頃には……そこには二人の姿は影形も無かった。

「あ……!に、逃げられた……!」

「そんな……!」

 司と二人、肩を落として落ち込む。

「あーもう、他の役人たちはどうしたのよ!」

「そんな事僕に言われても分かるものか!」

「なんでよ、同じ役人でしょ!?」

「うっ……!」

 司はそう言われて、痛い所を突かれたかのように押し黙ってしまった。

「……」

「な、なによ……私、何か変な事言った?」

 そう言って聞いても、司は何も言わず俯くばかり。

「なんなのよ、いったい……」


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