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四半血孤の旅  作者: しば
方歴991年
3/4

渡り鳥

「全く、町のど真ん中であんな大立ち回りを演じるとは」

「だ、だからそれは謝ったでしょ先生~」

 シイカ村に着いてからも、先生のお小言は続いていた。

 先生は私の剣の先生だけあって、振る舞いに関して怒る事が多い。

 やたらめったらに刀を使うなとか、もう少し考えて行動するようにしろだとか。

 特に今回の戦いは先生の目に余ったらしく、こってりと絞られてしまった。

「だいたいお前はいつもだな……」

「ほらほら、先生。もう村に着いたんだから、その話はまた今度にしようよ、ね?」

「全く……ん?」

 先生の足が止まる。

 視線の先の広場には、何だか騒がしい二人が人を集めていた。

「?なんだろ、あの二人」

「旅芸人……か?」

 近づいて見てみると、長身の男性と浅黒い肌の女性が、短刀をお手玉の様に振り回している。

 こういう類の芸は初めて見たため、思わず「おー」と声に出してしまった。

 私も月芽をくるくると腕の上で回したりは出来るが、あんな風に刃の付いている部分を掴んだりなんて怖くて出来ない。

 その次にも二人で短刀を空中で受け取ったりして、村の皆を沸かせた。

 私もぱちぱちと手を鳴らしながらその二人に近づき声を掛けた。

「すごいすごい、あなた達って芸人さん?」

「ん、おおそうさ!」

 よく見ると整っている顔をした二人が、そう聞かれてお道化た恰好をとった。

「あたい達こそ」

「さすらう渡り鳥、まちりと!」

ふにってんだ!」

 ぱぱん、と手で音頭を取る二人。

まちりふに……?」

 ふむ。と横で聞いていた先生が喉を鳴らした。

「失礼かもしれんが、変わった名だな」

「少々遠くから来たもんでね、あまり聞き慣れないかね」

「でも、上手だったよ剣捌き。お手合わせ願いたいくらい!」

 あんな風に短刀を扱えるんなら、きっと戦いの腕も良いに違いない。

 そう思うと、うずうずしてきてしまうのは私の性だった。

「おお、嬢ちゃんは剣士かい。」

「でも残念。あたいら争い事にはからっきしでね、期待には応えられないよ」

「え~、なんだ、残念……」

「昏……さっきの事といい、お前という奴は」

「な、なによう、先生」

 私の軽口を見逃すことなく諫める先生。

 また口げんかが始まりそうになった私たちを、長身の美男子―――祭が止めてきた。

「まあまあお二人さん喧嘩はよしなって。……ところで」

「うん?」

「―――今夜、俺たちを泊めてくれやしないか?」


  ……


「さあ、皆さん。夕飯が出来上がりましたよ」

 陽叔母さんが、卓へと食事を運ぶ。

 今日食卓を囲んでいるのは、いつもの風景に二つの顔が足されていた。

「いっただっきまっす!」

「悪いねえ、奥方さま。いただくよ」

 祭と舩は用意されたご飯をかっかと平らげていく。

「遠慮ないなあ」

 従弟の宋がごちるが、私も結構大食漢なので人の事は言えない。

「良いのよ、折角旅の人が来てくれたんだからおもてなししなきゃ。」

「いやぁ、ありがたい!なにしろ三日間何も食ってなかったからな!」

「え、そうだったの?」

「あー、そいつの言う事は真に受けないでおくれ。」

「なにそれ……」

 空言とでもいうような祭に対する舩の言葉に笑う。

「ねね、それよりも旅!旅の話聞かせてよ」

「そうね、私も聞きたい!」

 穂と私で、目をきらめかせて旅人二人に聞いてみる。

「おう、良いぜ」

「仰せとあらば」


  ……


 夜も更けて。

 祭たちから旅の話を聞いた後、従妹たちが眠りについてしまっていた。

「―――なんてこともあったなぁ、はは」

「ふあぁ……」

「お?どうした、俺の話がつまらないか」

「あ、ううん。ちょっと眠くなってきたかな」

「そうか、じゃあ……」

「そろそろお開きにしようか、祭」

 旅人二人がそう言い、陽叔母さんに目配せする。

「じゃあ、お布団用意しますね」

「いや、何から何まで申し訳ない」

 私も叔母さんを手伝い、布団を敷いていく。

 そんな中先生が一言、祭に聞いた。

「祭殿、一つだけ聞きたい事が」

「む?」

「……都の情勢についてだが、何か知っている事は有るだろうか」

 なんのことだろう、と思ったが、祭の方は心当たりがある様に頷いた。

「ああ、都……ね。知ってるさ、キナ臭いぞあそこは」

「キナ臭い?」

「税の制度を初めとして、なにやら土地の押収が始まってる」

 さっきまでおちゃらけていた祭の表情は、その緩さをどこかにやってしまっていた。

「噂によると、義賊集団が都の役人たちへ報復に移るって話もある。……ああ義賊集団っていうのは、『赤葉』のことだ」

「『赤葉』……?」

「知らないかい?まあ兎に角、いまは都の方には近づかない方が良いってこった」

「……」

 その話を聞いて暫く考え込んだ後、先生が私の方へ向かって話しかけてきた。

「……昏、今日リンゼンで会った役人たちだが」

「?うん」

「税の徴収に来ると言っていたな」

 思い出して、頷く。確かにそんな事を言っていた。

「シイカ村にも役人たちが来るかもしれん。そうしたら……」

 ああ、とそこまで聞いて、先生が何を言いたいのか分かった。

「良いよ、先生。今日毛皮を売ったお金、その『税』っていうのに使って?」

「む……すべてとは言ってない、足しにさせてくれと言っただけだ」

「細かい事は良いよー」

「細かくなど無い、お前の家の生計に関わる事だろう」

「別にいいってばー」

 しつこい先生の言葉に業を煮やして、私は布団を被って向こうを向いた。

「この話、終わり!おやすみ!」

「……まったく」

 「あんたら、良い関係だな。」と祭の言葉が耳に残り、そのまま私は眠りについた。

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