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永宮未完 下級探索者編  作者: タカセ
下級探索者(偽装)と燭台に咲かす華
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下級探索者(偽装)と考えごと

 2パーティ。計10人で地下水路横に設けられた細い歩道を移動しているケイス達の周囲を、光球が浮かび周囲を照らしだす。


 脇を流れる水路の幅は広く、光球の灯りでは届かず対岸が見えず、ゆっくりと流れていく異臭を放つ水は、腐っているのか、濁りが濃く、どのくらいの深さがあるのも判らない。


 灯りの届かぬ闇からは、別の水路と交差して流れ込む水音が絶え間なく響き、時折地下水道に生息する動物やモンスター達の足音らしき物が響くが、ルディアの作った低級モンスター除けの魔術薬の効果もあって、こちらへと近づいて来る物は無い。


 もっとも警戒すべき防御機構のガーディアンも、先行していた水狼が破壊しているのでその戦闘痕跡が所々に残っている程度で、行軍は静かな物だ。



「またガーディアンの残骸か……だけどさっきまでと違って水みたいになってやがる。ウォーギンさんこれってたしか再生中なんだよな? 放置でいいのか」



 周辺警戒をするレミルトが指さす先では、爪ほどの大きさに砕かれた破片が水銀の様に半固体状になっている。


 それらはまるで生物のように少しずつ動いて、通路の隅で集合しようとしていた



「深部に近い所で出てくるって話の、未解析技術で出来た再生増殖型だな。下手にちょっとでも持って帰ると、そこら辺の建材やら金属製品を取り込んで再生する厄介な奴だ。中央にある専用の研究保管施設が必要で、ロウガじゃ手に負えないから絶対に持ってくるなだとよ。稀少品でもったいねぇが仕方ない」



 ガーディアンの構成素材は暗黒期に失われた魔導技術による、まだまだ研究解析中の素材の1つ。


 個人的な研究用に持って帰りたい所だが、念を幾度も押された上に、行きに行われた持ち込みチェックの厳しさを考えれば、帰りも同様となるのが目に見えているので諦めたウォーギンが残念そうに肩をすくめると、また会話はしばらく途切れる。


 必要最低限の会話だけになっているのは、襲われてはいないとはいえ迷宮を進む緊張感から来る事もあるのだろうが、もう一つの大きな要因がある。


 それは、普段なら剣を振るう良い機会があれば嬉々として先頭を進むはずのケイスが、あまりみせない真面目な顔でなにやら黙り込んだばかりか、ついにはしばらく考えるから戦闘になったら任せるとあり得ない言葉まで飛びだしてきたからだ


 実際にモンスターの気配は感じても一切反応せず、隊列の中段を無言でついてくるだけだ。


 その物憂げな表情で考え込む姿は掛け値無しで美少女だが、中身は戦闘狂という言葉でさえ生ぬるい頭のおかしいケイスだと、この合同パーティの誰もが知っている事なので額面通りに受け取るわけも無い。


 むしろケイスがやたらと真剣になって考え込んでいるので、不安しか無いというのが率直な感想だ。


    





 周囲から時折するモンスターの気配も、仲間達からの訝しむ視線も無視したケイスは、意識の大半を思考の中に沈め、己が持つ武具に宿る2匹の龍と話し合っていた。



(ホノカはレイスロード、意思無き霊を無条件で従える事が可能だ。ヨツヤ殿が地下作業場を管理するために呼び出して使役しているかと思ったが、保護されていたとなると話が変わる。あの地下作業場は、ひいお爺様や狼牙兵団、そして旧狼牙の民で出来た霊団が固まっていた場所へと降りる事が出来る唯一の場所。となれば有力な予測が1つ生まれる)



 地下に住まう悪霊化した太古の民達を封じるために、ヨツヤ骨肉堂の作業場はあの場所へと作られていると、老店主は語った。


 唯一の通路となるあの場所に別種の死霊を集めることで、地下深度への魔力の流れを遮断し、また地下の悪霊が浮かび上がってこないように蓋をしているのだと。



(何者かが、あの霊団を使役化しようと狙っていたか……だがあの数が混ざり合い、生者に無差別に襲いかかる霊団では些か使い勝手が悪い。ならば個々を抽出する必要がある。しかしあそこまで混ざり合った魂から、特定の物を抜き出すのは手間が掛かりすぎる。ノエラレイド殿は、娘の曾祖父やその配下の生前と矛を交えたことがあったと言っておったな? それだけの価値があるか)



(ある。俺が知る時代の狼牙兵団は、上から下まで文字通りの一騎当千の精兵揃い。死霊術師が与える仮初めの身体に左右はされるだろうが、一兵団員の魂だったとしても今の時代であれば、かなりの戦力となるとみる)



(うむ。私もノエラ殿と同意見だ。それに力だけで無く知識も得られると考えれば、兵団員以外にも価値は生まれる。私が受け取れたのはかの時代の戦闘に関する技術、魔術知識で極々一部。あの霊団の中には、戦闘技とは別体系の魔導工学技術やらを知る技師や学者もいたと記憶している)



 龍の魔力に縛られた彼らの死を追体験したときに、さすがに細々とした記憶、知識とまでは行かないが、ある程度はその来歴や立場をケイスは知っている。


 霊団の大半は市井に生きた当時の一般庶民だが、中には確かに当時の国家機密であるだろう魔導技術の一端に関わる者もいたはずだ。



(レイスロードのあの娘を使い霊団を抑えその後分別処理する為の機構。それがなにやら誤作動をして、今回の色町での一連の事件での原因となった。それが娘の予測だな)



(ロウガの霊達は私が解放した。だから本来ならば動作はしまい。だが火刑少女を構成していた霊団が取り込まれているとなれば話は通る。深夜ごとに放出されるあの花弁。あれ一つ一つが分別された、意図した者達にはいらぬ余計な霊ではないかと思う。ただ実体化をしているのが気になる。あれでは被害が生まれる。もしくは改良途中で何かが原因で計画が頓挫したという可能性もあるが) 



 ホノカが死後に自然発生したレイスロードではなく、何者かによって素質を見出され死霊術儀式によって産み出された人工レイスロードであれば、全く違う絵図が浮き出てくる。


 霊団を支配下に置き、さらには分別した霊一つ一つも意のままに操る為に、ロードの力を用いるという絵図が。


 しかしそれにしては些か腑に落ちない点もいくつもある。


 ホノカの来歴、服装からして少なくとも50年近く前に、何者かが立てた計画による産物だと予測は出来る。


 だが何故今になってそれが発動したのか?


 あれだけ地上に被害を生み出すのであれば、まだ構造自体は未完成だったのではないか? 


 それ以前に誰が作ったのか? 何故ホノカが記憶を無くしていたのか?


 考えて情報が足りず憶測となる事ばかりで、正確な予測は立てられない。


 だからこそケイスは持てる限りの知識と、記憶を動員し、ありとあらゆる模索を頭の中で行い、少しでも正解に近い予測を導き出そうと集中していた。


 そしてその予測の中で、確定ではないが高い頻度で上がってくるのが、大英雄の一人【火華刀】霞朝・鳴の愛刀だ。



(フォールセン殿から伺ったあの刀の由来、それに真の名、諱。もし私の予測が正しければあの刀がより分けのための格好の器となるはずだと思うが、今ひとつ決め手に欠ける。結果が違いすぎる)



(それこそ魔導技師に尋ねれば良かろう。あの者ならば推察できるであろう)



(事は鳴殿の名誉に関わる話。又聞きした私がおいそれと語るわけには行かぬ)



 ラフォスの言う通り、ウォーギンに詳細を話して相談するのが良い手だとケイスも思うが、難色を示す。


 ケイスならば真実を知っても、なにも気にせず受け入れられるとフォールセンが信じ話してくれたのだ。


 いくらケイスが信頼するルディア達相手といえど、そうおいそれと話すわけにはいかない。


 それにだ……

 


(無いとは思うし、皆を信じてはいるが……もしそれで鳴殿のことを悪し様に言う者がいれば、私は斬らねばならぬではないか。それは嫌だ。ならば私1人でどうにかすれば良かろう) 



(妙な所で律儀というか、融通が利かないというか……娘。その頑固さがおまえの仲間達に危機を招くやも知れぬというに)



(嬢。俺は話すべきだと思う。もし核となるのがその刀であったのならば、破壊もしくは無効化したときに捕らわれていた霊が一斉に解放されることになる。しかも、宿りが赤き鱗であるならば狂った状態でだ。嬢の剣技を疑うわけでは無いが、無差別に荒れ狂う数はどうにもならん。対策は必要となるぞ)



 自分なら斬れるとは、さすがのケイスでも強がれない。


 斬るだけならばともかく、周りに被害を出さずに1霊も逃さず絶対に斬れるなどと大言壮語を臆面もなく吐けるレベルにはまだ達していないと、ケイス自身が一番判っている。



(むぅ、ノエラ殿、正論でいじめるな…………しかし判った。皆に推測を話そう。だがせめて鳴殿を直接に知る者に許可をもらってからにする)  



(双剣殿にか? 今から地上に戻る気か)



(違うぞお爺様。それにフォールセン殿なら今はお留守だ。なにやら中央の協会本部に極秘で呼ばれて、ユイナ殿と一緒に向かわれているそうだ。だから別だ。ロウガ解放戦に挑んだ英雄が、この先にもう1人いるであろう。私以外にも華凜刀、そしてその諱たる火鱗刀を知る者が)  


 結論を出したケイスが小さく息を吐き前方へと目を向けると、ケイス達の周囲に浮かぶ光球よりも、遥かに多く、そして明るい巨大な光球に照らし出された、大木のような柱がいくつもそそり立つ、広い空間が遠くの方に見えてきていた。

  

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