97話 スレイヤーのお仕事⑯
大公とターナー卿の話し合いは4時間にも及んだ。
俺とアッシュは帰るタイミングを完全に逃してしまい、ただ座っているだけの時間を過ごしただけだった。
2人で「めっちゃ苦痛」と目で語り合った回数は計り知れない。
「知恵を貸して欲しい」と言われはしたが、王都内での警備や魔族もどきへの警戒などはそもそも管轄外だ。
騎士団長職の続投が内定したターナー卿の意気込みと、大公閣下の冷静な進行に対してたまに相づちを打つことしかできなかった。
ようやく打ち合わせが終わる頃には外に夕闇が迫る時間になっていた。
俺とアッシュがチェンバレン大公の別宅を出ようとすると、
「タイガ様!」
と、ちょうど学院から帰宅したテレジアに声をかけられた。
「テレジア様、おかえりなさい。」
「テレジアで構いませんわ。ただいま戻りました。アッシュ様もお久しぶりです。」
「やあ、テレジア様。ご無沙汰しています。」
テレジアは俺の方をチラチラと見ながら、
「もうお帰りなんですの?」
と上目遣いで聞いてきた。
アッシュはキラーン!と目を光らせて不敵に笑った。
「私は次の予定がありますが、タイガは大丈夫です。ごゆっくりとどうぞ。」
そう言って俺の背中を押すなり踵を返して去っていた。
「···················。」
「あの···よろしければご夕食を一緒にいかがですか?」
「えっ?でも大公閣下も来られていますし、親子水入らずの···。」
「一緒に食事か、それは良い。」
離れた所から大公閣下の声が響いてきた。
と言うか、姿が見えないがどこにいるんだあの人は?
「お父様もそうおっしゃっておりますので、ご遠慮なさらずに。」
ニコッと笑うテレジアは俺の手を取り、やや強引とも言える足取りで奥にうながした。
なんでこうなるんだ···。
アッシュ、ハラペーニョソースも追加だ。
「今さらだが、娘の命を救ってくれてありがとう。」
大公閣下はそう言って食事の席で頭を下げてきた。
「恐れ入ります。大事に至らず何よりでした。」
「タイガ様は自らの身を呈して私を救ってくれましたの。そんなことができる方は他にはいませんわ。」
相変わらずニコニコとご機嫌なテレジアだが俺は早く家に帰りたかった。何となくだが居心地が良くないのだ。先程から俺とテレジアを見ながらニヤニヤと笑っている大公がいる。
何かを企んでいる気がする。
「ところでタイガくんは結婚はしているのかね?」
ほらきた。
「いえ、独身です。」
「ほう。では交際している相手は?」
「いません。」
「そうか、いないか。」
なんだ、なぜ大公が満足そうな顔をしている?
「そう言えばまだお聞きしていませんでした。タイガ様はおいくつなのですか?」
先ほど以上にニコニコが増したテレジアが質問をしてきた。
あの~、逃げても良いですか?
この親子が怖いんですけどぉ。




