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95話 スレイヤーのお仕事⑭

ターナー卿からの申し出は、嫡出子マイクが魔族と化して生徒を襲い、討伐されたことが前提にあった。

事実ではあるが、自身の進退に固執するわけでもなく、ただ子息の死に際を聞きたいと話す彼にタイガは好感を持った。


「一つお聞きします。ターナー卿は今後の身の振り方をどうされるおつもりですか?」


「なぜそんなことを聞く?」


わずかに不快な表情が見てとれた。


「事件の真相を突き詰めました。ただし、事は重大です。あなたは身内が関わった事件に私見を交えずに正面から向き会える強いお方だ。職を辞するようなことがあれば今後の王国に不安が残るかもしれません。」


「················。」


ターナー卿は目を見開いた表情をするが、すぐに言葉が出ないようだ。


「···それはどういう意味かな?」


大公が間に割って入る。


「これをご覧下さい。」


俺はマイク·ターナーが残したノートを大公に手渡した。


アッシュとの打ち合わせで証拠品を開示するのは前にいる2人が俺のソート·ジャッジメントで負の反応を示さないことを大前提とした。


悪意のない者であれば今後の善後策を練るために協力体制を得る。逆であればマイク·ターナーの研究の中身は明かさずにただの凶行で事件を終わらす。

最初から事実をねじ曲げようとする相手にはそれなりの対応をするつもりだった。


結果は俺が証拠を提示した通りだ。


大公はマイク·ターナーが残したノートに目を通し、今後の再発の可能性を理解したようだ。


真顔でアッシュと俺を見た後にノートをターナー卿に渡した。




「まさか···こんなことが···。」


ターナー卿の顔色は冴えなかった。


自分の息子が魔族の血を体内に取り入れて魔族化し、凶行に及んだと知れば平然としていられるような親などいない。


「ご子息は難病治療のための研究で今回の事件を招いてしまいました。危険な研究です。模倣されることは絶対に防がなければなりません。ただ、私の故郷には毒には毒を持って制すと言う諺があります。あくまで個人的な意見ですが、経緯や結果は間違っていたかも知れませんが、志は立派なものだったという見方をしています。」


ターナー卿は驚いた表情を浮かべ、やがて目尻から一本の涙を流した。


「···そう···思ってくれるのか···。」


大公やアッシュも俺の言葉が予想外だったのか驚いた表情は同じだった。しかし、ターナー卿に視線を移して見る眼には明らかにいたわるような眼差しが見てとれた。




俺自身も恵まれた環境にいると感じさせられた。


突然異世界に来てしまったが、出会う人々の多くは心根が優しく、エージェントの職務で磨耗していた心を癒してくれる。


こちらに来てまだわずかな時間ではあるが、いつしかこの世界の仲間たちを大事な存在に思うようになっていた。







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