第3章 絆 「竜騎士⑭」
「いくら魔道具を持っているからって、この距離だと先制はできないでしょう。」
マルガレーテに転移で送り出されたレーテは、既に詠唱の第3節までを終わらせていた。
無詠唱であっても同じ魔法を放つことはできるのだが、それだと威力が乏しくなる。
詠唱は長ければ長いほど、その精度は高いものとなり、魔力の集束も多くなる。
レーテは魔法士としては国内一と言われ、詠唱第5節の超級魔法まで操ることができる。
しかし、この場で最上位である魔法を行使することは、甚大な被害を及ぼすのが明白。ここは、詠唱第4節の弩弓魔法を無難にチョイスした。しかし、それについても、単体に対して使用するなど、過剰すぎると言っても過言ではない。
何せ、弩弓魔法とは、王城を半壊させるほどの威力を秘めているのだから。
「あなたに恨みはないけれど、ランダーみたいになるのも、マルガレーテ様に叱責を受けるのも嫌だから···ごめんなさい。」
第4節の詠唱が完了。
一気に魔力が刺々しいものに変換され、タイガを中心とした半径10メートルの外周を覆う黒い半球が出現した。
「コンプレション!」
レーテの魔法は、風魔法を応用して重力場を作り出し、空間を圧縮させる完全オリジナルである。
他の追随を許さない独自の論法から編み出されたこの魔法は、障壁などの防御魔法を物ともせず、すべてを飲み込む絶対無比の破壊力を誇る。
デメリットとして挙げられる詠唱の長さについては、転移前に一部を唱えておくことで備え、現場でのタイムロスを極端に減らすことに成功していた。
「これで···怒られずにすむ。」
マルガレーテを敬愛しながらも、その恐ろしさも同時に知るレーテは、魔法の成否などは気にもせずにそんなことをつぶやいた。
そもそも、コンプレションを打ち破れる存在など、マルガレーテか悪魔レベルにしかいないはずなのである。
そう、はずだった。
「···へ!?」
タイガを包み込んだ半球は、問題なく機能していたはずなのだ。
しかし、いつの間にか魔法そのものが跡形もなく消え去っており、相手の男がこちらを見ていることに気がつくのだった。
「何でぇ!?」
そう叫んだと同時に、男の口が「ごめんね」と言ったように感じた。
その直後。
ドパッ!
タイガのWCFTー01から射ち出された水塊によって、レーテはなすすべもなく吹っ飛ばされるのであった。
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