第3章 絆 「神龍⑯」
ゆったりと手足を動かし、身に染みた古武術の型をなぞる。
演武のような動きではあるが、これは非常に有効な鍛練法なのである。
ただ繰り返し型をなぞるのではなく、普段使わない筋肉や体幹に意識して負荷を加え、同時に敵を想定した迎撃の動きも取り入れているのだ。
今はそれに竜孔も同時に発動させている。
竜孔を覚醒させてから、既に2日が経過していたが、その効力は目に見えて理解ができた。
ゆっくりと型をなぞる動作は、意外なほど体力を消耗する。30分も行えば、全身から汗が吹き出すのが通常だ。
しかし、竜孔により強化された体では、ほとんど疲労は見られない。逆に、精神的な摩耗が激しく、少し気を抜くと頭に鈍痛が走ってしまう。
竜孔は気の扱いに似ているのだが、第一と第二をいかに上手く起動させるかで、その効果には雲泥の差があった。
精神と肉体を司さどっている竜孔を繰ることは、土台を強化しているのに等しい。そして、それが中途半端に終わると、バランスの悪い結果となってしまうのだ。
「ふむ···順調のようだな。」
ヴィーヴルは俺の様子を見て、そうつぶやいた。
3日間で竜孔を定着させろという彼女の教えを聞いて、愚直にそれを行ってきたのだ。
彼女曰く、邪神シュテインの動きは、最悪の場合は世界の均衡を壊しかねないので、それを未然に防ぎたいらしい。
四方の守護者は、下界においては真神に等しく、直接の手出しは神界の不興を買ってしまう。そのため、間接的な防波堤として、俺を選んだのが本音のようだ。
そして、ヴィーヴル自身は、竜種として俺を名指しで「黄竜の爪」であると断言した。
黄竜は、四方の守護者を束ねたグルルと同じ土属性の魂源を持っている。
同様の魂源を持つ俺は、人間でありながら黄竜の眷族···使徒となるらしい。そして、それを「黄龍の爪」と呼ぶことで、直接的な関与ができない邪神シュテインへの矛にする考えだそうだ。
魔王に続いて頭の痛い話だが、今後のことを考えると渡りに船であると思い、受け入れることにした。
因みに、別の大陸へは龍脈(この世界では竜道)の力を利用して転移をするつもりだと話したのだが、「竜道にはそんな力はない。空を飛べないぬしでは、せいぜいが体の治癒のために大地の気を取り込めるくらいのものだ。」と一笑されてしまった。
重症だった俺が、急激な回復を果たした理由はそれで理解ができた。黄竜と同様の魂源···土属性の恩恵ということだ。
だが、それでは俺は一体何をしにここに来たのだろうかと、一瞬残念な思いにかられたのだが、竜孔の覚醒とヴィーヴルとの出会いを思えば、これ以上にない成果があったのだと気持ちを切り替えることにした。
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