第二章 亜人の国 「正道①」
第二章完結までもう少し。
ヘイド王国が1日で滅亡した。
この情報は、驚くべきスピードで大陸中を駆け巡り、各国の首脳たちに激震が走ることとなる。
亜人蔑視を愁いた魔王が、その余りある武力を行使した悪夢。
後に、"魔王の鉄槌"と歴史にも記された大事件である。
その強大な力に恐れを抱く者、将来への希望を切り開いてくれたと崇拝する者、すぐにでもその庇護にあずかろうと動き出す者···反応は様々だが、これを機に、各国が魔王の要請に真摯に応じる風潮が生まれた。
2週間後。
同大陸にある国々の首脳たちが、アースガルズ王国の一室で一堂に介していた。
「いつになったら始まるのだ。」
最後まで難色を示すであろうと思われていたダレンシア帝国の皇帝が、自席で苛立ちを見せていた。
その両手には30センチ大の球体が抱えられており、大して暑くはない室内で、1人だけ脂汗をだらだらと垂らしている。
「もう少し待たれよ。タイガ殿が大聖女様を迎えに行っておられるところだ。」
アースガルズ国王が、諌めるように返答した。
「くっ···なぜ、亜人などと席を一緒にせねばならんのだ···。」
「はい、減点。あと2点マイナスで、その球体が起動するよ。」
「なっ!?」
ダレンシア皇帝に冷たく言い放ったのは、魔神カリスである。
その言葉と同時に、球体が淡く光りだす。
「ま、待て!待ってくれっ!!今のに他意はないっ!!!」
「さあ、どうかな。」
面白そうに、ニヤっと笑うカリス。
皇帝が今手にしているのは、紛れもないババ球である。
ただし、ピンを外して起動するのではなく、カリスの魔力に反応するように作られていた。
しかも、このババ球に関しては、起動しても炸裂するのではなく、一定方向に中身が噴射される仕組みが採用されている。
「じゅ···絨毯を汚すのはやめてくれないか?これは一点物で、それなりの価値が···。」
「却下。」
「································。」
アースガルズ国王の懇願も、一蹴である。
ダレンシア帝国の皇帝が不穏な動きをしないかを見張るように、タイガに頼まれたカリスである。
悪戯心を芽生えさせて、状況を楽しんでいた。
さすがは魔神。
相手が誰であろうが、お構い無しなのである。
アースガルズ王国の面々にしてみれば、その内なる優しさを知る魔王よりも、むしろ恐ろしい相手であった。
「大体さあ、君たちは勘違いをしていない?」
「か、勘違いだと。」
「ダレンシア帝国なんて、ヘイド王国と同じ末路を辿っていてもおかしくないんだよ?」
「·····························。」
皇帝は絶句した。
確かに、ダレンシア帝国は好戦的で、他国へ攻めいる隙をずっと窺っていた。
しかも、ヘイド王国を除けば、亜人への対応は最も苛烈なものであったと言えるのである。
「僕なら、何も言わずに王城ごと極大魔法で更地に変えているよ。タイガは誰の命も奪わずに籠絡させたけど、その意味くらいはわかるよね?」
暗に、利用価値があっただけであると仄めかしている。
実際に、ヘイド王国は国の首脳陣を根こそぎ失い、混乱と混沌の地になりかけていた。
それに関しては、タイガがウェルズ公国と神聖ユラクト興国に助力を依頼し、暫定で統治と復興における組織を設置して、争乱に発展しないように計らったことで、なんとか安寧を維持している。
ダレンシア帝国までもが政権崩壊の憂き目にあえば、他に動員できる人や糧もなく、無秩序な内乱を招くことは、火を見るより明らかであったのだ。
「それは···わかっておる。我が国までもが魔王の手にかかれば、統治を失った民たちが暴徒化するからな。」
「そうそう。まあ、死にたいのなら、都市ごと吹き飛ばすくらいは、訳ないんだけどね。」
カリスが艶然と笑う。
各国の首脳たちは、その笑顔に蒼白となった。
「カリス、それはダメ。」
同席していた中で、唯一、カリスを諌めたのはミンである。
「ん、どうして?」
「カリスは歴史的な書物や研究資料を灰にする気?」
「ああ、そっか···そうだね。」
学者としての側面も持つカリスである。
ミンの言葉にハッとした。
「それに、そんなことをしたら、タイガが怒る。いくらカリスでも、タイガは止められない。」
「···うん、無理。」
ブルッと震えたカリスは、あっさりと肯定した。
そのちょっとしたやり取りが、同席していた各国首脳のミンに対する意識を変えた。
亜人であるミンだが、彼女もまた、魔王や魔神と対等に話ができる人物なのである。
この一幕が、人種の違いによる差別を撤廃する布石となったのは、言うまでもない。
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