第二章 亜人の国 「堕ちた英雄 vs エージェント再び⑤」
鎧をキレイにしてから収納し、服を洗う。
可能な限り絞った服を、大浴場の隣にある脱衣所の梁から垂れ下がったロープにかけて干した。
くんくん。
クセェ···。
まだ悪臭がしたため、自分の腕に鼻を寄せて嗅いだのだが、これは人前に出れたものではない。
再び大浴場に戻り、体を丁寧に二度洗い、浴槽に浸かった。
こんな悠長なことをしている場合ではないが、毛穴に詰まった汚れや悪臭の原因を除去しなければ、俺の男としての人生が詰んでしまうかもしれなかった。
「ふいぃぃぃぃぃ。」
ゆっくりと湯に浸かるというのは、リラックス効果を生み、疲労の回復と血流の正常化を生む。
このまま寝てしまいたい衝動にかられるが、テトリアがどうなったのか判断しづらい状況ではある。
天井を見上げながら、これからどうするべきかを考えた。
牽制しあったり、人族以外に不遜な態度を取っていた奴等は、今回の一件を情報操作して伝聞させることで、一時的にでも大人しくなるだろう。
その間に、この大陸の国々が共有すべき指針を、共同のもとに固めさせる必要がある。
この辺りになると、それはもう政治や外交の話だ。細かな部分に関しては、アースガルズ王国とミン達で協議を重ねてもらい、他国との会談の上で固めてもらうしかない。
魔王としての役割は、果たしたと考えても良いだろう。
問題はシュテインである。
堕神や邪神と呼ばれているが、相手は本物の神なのだ。対峙したとしても、倒せるとは思えない。
奴を野放しにすることは、永続的に問題を抱え込むということだ。それを終わらせるためには、何とか奴を倒すか、封印でもしなければならない。
だが、その方法については、心当たりなどみつからない。
やはり、神アトレイクと対話ができるまで待つしかないのだろうか···。
様々なことに思いを巡らせていると、少し試したいことが出てきた。
俺はその場で立ち上がり、あるキーワードが有効かどうかを確認することにした。
「なんでやねん!」
まばゆい光が放たれ、同時に黒い鎧を纏った。
「確か、こうだったな。"フォームチェンジ、ホーリーソード!」
何も起こらない。
水滴が落ちる音と、大浴場にこだまのように響いた自分の声に、誰もいないのに悶絶しそうな恥ずかしさが襲ってくる。
「·························。」
どうやら、アトレイクがいなければ、ホーリーソードは展開しないらしい。
そこで、もう一つのキーワードを発することにした。
「"僕は最高!"」
発光こそしなかったが、俺の纏っていた鎧に変化が起きた。
初めてテトリアと対峙した時に、奴が発したキーワードだ。
根源が同じであるのならば、奴の鎧と剣を出すことが出来るのではないかと考えたのだ。
結果は、俺の纏った鎧が白銀色に変わり、右手には同色の両刃の剣が握られているというものだった。
「まさか、これを纏えるとはな。この剣は聖剣か何かか?これでシュテインにダメージを与えたりできるのだろうか···。」
何かを期待するには、情報が皆無だった。
俺は再びキーワードを唱え、真っ裸に戻って大浴場を出ようとした。
「!」
違和感を感じて目線を上げると、視界に人の形をした白い靄のようものが入ってきた。
これは···どうやら、テトリアは空気を読まずに、真っ裸の俺の前に立ちはだかるつもりらしい。
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